"いつも心は東北にある" 岩田華怜さんが伝えたい思い

人気アイドルグループ「AKB48」の元メンバーで、現在は俳優として活躍している
仙台市出身の岩田華怜さん。東日本大震災が起きた時、小学6年生でした。岩田さんはグループにいたときから被災地に何度も足を運び支援活動を続けてきました。「心は東北にある」岩田さんのメッセージです。

(仙台放送局・井手上洋子)


【震災をテーマにした映画で主演】

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岩田さんは映画「The Last Passenger ~最後の乗客~」で主演をつとめました。
この映画は東日本大震災後の被災地が舞台で、タクシー運転手の男性が乗客とのやりとりを通じて親子の愛やそれぞれの抱えた人間ドラマを描いています。
岩田さんはタクシー運転手の男性の娘役で、震災のつらい経験を自分のなかで整理することができず、父親に対しても素直になれずにいる役を演じました。
この映画は海外の映画祭へのノミネートや賞の受賞が相次いでいて、ことし10月には、
アメリカで開催された「グローバル・ノンバイオレント映画祭」で最優秀作品賞など5冠に輝き、岩田さんも最優秀主演女優賞を受賞しました。

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インタビューをした時、岩田さんは名誉あるアワードを持ってきてくれました。

岩田華怜さん
「まさか自分が初めて受賞する賞が海外の映画祭というのは夢なのかなって思うぐらい、本当にうれしかったです。朝起きたら堀江監督から連絡がきていて『やりました!5冠で華怜さん主演女優賞です』って言っていただいて、朝『えー!』ってびっくりしました」

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映画の撮影は仙台市を中心にすべて宮城県内で行われました。夜の寒い中での撮影が多かったスタッフや俳優たちに対して、地元の人たちから豚汁やおにぎりなどあたたかい差し入れが寄せられたそうです。映画は来年3月に仙台市でも公開が予定されています。

岩田華怜さん
「すごく大きな声で力強く生きるんだって叫んでいるような映画ではなくて『がんばらなくていいから、ちょっとずつでいいからみんなで前に進んでいけたらいいね』っていう映画になっていると思います。宮城県の人たちにはそういうところを感じとってもらえたらいいなって思います」


【いま振り返る“あの日”のこと】

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(2011年3月11日の仙台市内)

岩田さんは東日本大震災が起きた時、小学6年生でした。
卒業式を控え、自宅でひとりで留守番をしていた時に大きな揺れに襲われました。

岩田華怜さん
「地鳴りみたいな音がしたような気がして、私だけが揺れているのかなって思って、玄関からマンションのエレベーターホールに飛び出したら、隣のマンションのベランダから植木鉢とかが落ちていて、それを見たときに地震だとようやく実感しました」

震災直後は祖父母の家に避難した岩田さん。AKB48の最終オーディションのため4月に上京しましたが、苦しい生活を続ける家族や友人を残して上京することに葛藤があったといいます。当時の抱えていたつらい気持ちを打ち明けてくれました。

岩田華怜さん
「私は地震発生から1か月後くらいには暖かい布団で寝られていたんですね。それがすごく苦しかったというか、ありがたいんですけれど。東京では食べたいものも食べようと思えば食べられる、あたたかいご飯もあったので、わたしは『ふるさとを1度捨てた』って言われてもしかたのないことをしているんだって。家族もまだ段ボールで暖をとっているのに、私だけこうやって暖かい布団で寝られてかわいい衣装を着て、スポットライトのなかにいることがものすごく苦しかった時期がけっこう長かったですね」

グループで活動していた時だけでなく卒業後も被災地に足を運び支援活動を続けた岩田さん。華やかな舞台で活動する中で、苦しかった自分を支えたのは震災の経験でした。

岩田華怜さん
「あの経験をしたから、あの状況でそれでも東京に行ってやってみよう、自分がやれることを探してみようって思えた。間違いなく東北があったからわたしは生きているし、東北をふるさとを題材にした映画にも出られたし本当にふるさとのみなさんのおかげです」


【“心は東北にある”…今後の目標は】

岩田さんは演技や語学の勉強のために来年渡米することを決めています。
ただ、その前に実現させたい夢がありました。
大学生の時にみずから書いた初めての脚本で震災をテーマにした朗読劇を発表することです。演出も初めて岩田さんが手がけます。
タイトルは「10年後の君へ」。
震災によって家族を亡くした若者と、家や家族を失わなかったことで罪悪感を抱えている若者が、それぞれ心の傷と向き合いながらどう生きていくかを描いた内容です。
岩田さんは震災を知らない世代が大人になっていくなかで、命や日常の大切さについて
改めて伝えたいと考えています。
朗読劇は来年3月に都内と地元仙台市での公演が予定されています。

岩田華怜さん
「震災後、まだ克服というか心の傷と向き合えていない同世代の子達はたくさんいます。そういう子たちが今後の人生、それでもこの経験を抱えながらどう前に進んでいくのかという話を大学の時に書いたんですよね。どうしてもこの作品をやりたくて、実現するように頑張ります」

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そして岩田さんが大切にしていることばを色紙に書いてもらいました。
「華は咲く」
「華」は自分の名前からとったといいます。
岩田さんは種をまいて芽が出て花になる行程が大事だと感じています。今は新しい種をまいている時期だと思って、新しい場所に行ってチャレンジして、水をあげて大きな“はな”に
なればいいなと思い、このことばにしたと話していました。
最後に岩田さんからのメッセージです。

岩田華怜さん
「12歳の時にデビューして、ずっと東北と一緒に歩んできたつもりです。どんなに距離が遠くなっても心は東北にあります」

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