"声が出ません" タクシー運転手の奮闘

仙台市内で出会った1台のタクシー。
乗ってみると、運転していたのは”声が出ない”男性でした。
去年、突如見つかったがんの手術で声を発することができなくなりましたが、周りの支えもあって仕事に復帰しました。
実際に乗車して、男性の仕事にかける思いや支える人たちを取材しました。

(NHK仙台 藤家亜里紗)


“声が出ません”

20240226_taxi001.jpg

“私は声帯手術をして声が出ません”
その文字が目に入ったのは、あるタクシーの車内。
乗車して後部座席に座ると、案内が目の前に掲げられています。運転手も丁寧に同じ内容のカードを手渡して見せてくれました。

20240226_taxi002.jpg

運転手の関昭夫さん(53)。
咽頭がんの手術のため去年、声帯を摘出し、ことし1月に仕事に復帰しました。
声を発することができなくなりましたが、耳は聞こえるため、客のことばを聞き取って案内してくれます。

「(仙台市地下鉄の)荒井駅までお願いします」と私が行き先を伝えると、大きくうなずいて、ホワイトボードに文字を書いてくれました。

20240226_taxi003.jpg

「農道の方を通ってもらっていいですか」
お願いすると、再びうなずいて出発しました。

20240226_taxi004.jpg

車内は、私が話しかけなければ静かな空間です。
およそ15分後、駅に到着。問題なく案内してもらえました。

究極の2択
関さんは今回の取材に対して、スマートフォンで文字を打って答えてくれました。

20240226_taxi005.jpg
(スマートフォンのアプリを使って入力してくれた)

がんと診断されたのは去年11月。
のどに違和感をおぼえたためかぜや新型コロナも疑いましたが、状態が半年ほど続いたため検査をしたところ、がんが見つかったといいます。
その後すぐに、がんを取り除くために声帯を摘出するか、声帯を残したままチューブで栄養を送る「胃ろう」を使って流動食での食事になるかの厳しい選択を迫られました。
当時の心境について、つづってくれました。

 

せめて食事は楽しみたいと、声帯を取り出すことを選んだ関さん。
1か月間、仕事を休んで手術を受けました。


覚悟はしていても

20240226_taxi006.jpg

手術をすると決めた時、声を失うことを覚悟していたという関さん。
それでも、実際に手術を終えると、話すことができない自分が職場に復帰できるのか
不安に感じる瞬間もあったといいます。

話、会話できないこと現実的に思うと
やめないといけないのかなとタクシー

声を無くしてもなんとかなると思いたいけど、
どっかで引きこもってる部分があるのかなと

(関さんが打ってくれたスマホの文字)

そのような時、支えになったのはお見舞いに来てくれた上司のことばや同僚からのメッセージでした。

20240226_taxi007.jpg

「できる限り対応します!とりあえず甘えるべし」
(事務員から送られてきたメッセージ)

20240226_taxi008.jpg

さらに、会社も日頃から仕事に熱心な関さんに復帰してもらおうと準備を進めていました。

20240226_taxi009.jpg

「声が出ません 耳はよく聞こえます」と書かれたこのカード。
社長がみずから作ったといいます。

タクシー会社 齋藤稔 社長
引っ込み思案になったり臆病になったりしてもらいたくない。
堂々と自由に仕事してほしいから、
声が出ないことで起こるだろうことをあらかじめ想定して、
なんらかの手当ができるように支援していきたい。

会社は、トラブルや事故にあった場合には別の社員が現場に向かって対応するなど、
あらかじめ対処法も決めています。
仕事の様子を聞きながら、どうすれば関さんが働きやすくなるかを今も考えているといいます。

関さんは同僚や職場からの支えを受け、安心して復帰し、仕事に取り組めていると感じています。

ありがたいです。
仕事できるんだなって思いました

(関さんが打ってくれたスマホの文字)

 

タクシー業復帰 現在は

仕事を再開した関さんは、どんな接客をしているのでしょうか。
車内にカメラを載せて、その様子を撮影させてもらいました。
この日は、常連の客を自宅まで送ります。

20240226_taxi010.jpg

スマートフォンの読み上げ機能を使い、行き先を尋ねていました。

20240226_taxi011.jpg

車内では、客の会話に対して身ぶり手ぶりなどを使って応えます。

20240226_taxi012.jpg

常連客
会話してた時期もあったので、関さんの声が聞けないのは
残念ではあるけれど、何の不自由も感じないです。
がんばりすぎて疲れないようにだけしてもらいたい

20240226_taxi013.jpg

復帰してから1か月。
コミュニケーションの方法を試行錯誤しながら、よりよい接客がしたいと考えています。

お客様に迷惑かけないようにしたい
今後自分自身がもっと変わって積極的になれば、
理解してくれてわかってもらえるのではないかなと
もっといいやり方見つけたい

(関さんが打ってくれたスマホの文字)

 

【取材後記】
関さんの病気や手術後の状況について理解し、どう支えるか考える会社の人たちの姿に心を打たれました。さまざまな事情を抱えて働く人たちが社会に多くいるなかで、できる支えについて考えることの大切さを改めて感じました。

20240226_taxi014.jpg仙台放送局記者 藤家亜里紗
2019年入局
去年7月まで石巻支局を経て
現在は事件などを中心に取材