小さくうまれた赤ちゃんと家族へ "ひとりじゃないよ"

ことし3月に完成した手帳があります。「みやぎリトルベビーハンドブック」です。
小さくうまれた子どもや家族に渡されるものです。
この手帳を作ったのは、ある女性たちのグループです。
「孤独な人をなくしたい」。その思いは自身の経験からでした。

(仙台放送局:井手上 洋子)


【小さくうまれた赤ちゃんと家族の思い】

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仙台市の村上詩幸ちゃん(3歳)は絵を描いたり、体を動かして遊んだりすることが大好きな子です。詩幸ちゃんは、予定日より約3か月半早く体重571グラムでうまれました。

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母親の理美さんは産声を聞いた瞬間から涙が止まらなかったと振り返りました。
うまれてすぐ、詩幸ちゃんはNICU=新生児集中治療室に入院。
「小さくうまれた子どもの子育てについてや、感じている思いを誰かと話したい」
そう思うものの、自分の思いを共有できる人がまわりに少ないと感じていました。
当時、村上さんは、子どもが早く小さくうまれたことで、周囲から「かわいそう」と思われることに傷ついたといいます。

(村上理美さん)
「『小さく産んじゃったの』っていわれて。産んじゃったって何って。悪意はないんでしょうけれど、当事者としてすごく傷つくことばをかけられたこともありました」

そこでSNSで“同じ経験の人はいませんか”と呼びかけました。するとその日のうちに4人とつながったのです。

(村上理美さん)
「びっくりしました。全然知らない人と『うちもです』って。そのなかのひとりはうちと同じ25週、500グラム台で産んでいたので運命を感じたっていってくださって。やっぱりいるんだってすごくうれしかったです」


【つながった縁でおこした行動】

その後、集まった人たちでサークルを立ち上げました。サークルの名前は無限のマークが円であることから、縁と縁をつなげるようにという思いで“infinity”と名付けました。サークルのメンバーで目標にしていたことがあります。母子手帳のサブブックとして利用でき、全国的に普及をしていた“リトルベビーブック”の宮城県内での導入です。

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母子手帳では子どもの身長や体重の変化を記入しますが、書き込めるのは体重1キロ、身長40センチからです。村上さんやサークルのメンバーの子どもは書き込めませんでした。母子手帳に書けないことで自分の子どもが否定された気持ちになり、そのことで『自分が早く産んだからだ』と自責の念にかられる人もいたのです。

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何かできないかと村上さんたちは2021年に宮城県の担当者のもとを訪れ、思いを伝えました。それから2年後の2023年の3月にようやく宮城県で「リトルベビーハンドブック」が完成したのです。母子手帳とともに使用できるこの手帳は、体重は零から書き込むことができます。また、先輩ママやパパから“不安はたくさんあるけれど1人で抱え込まずに”や“成長は人それぞれ”などとたくさんのメッセージも載っています。

【“みんな違ってみんないい”】

サークルでは対面やオンラインの交流会を開催し、子育ての話や悩みなどを話すことで輪が広がってきていて、今ではメンバーが35人に増えています。サークルでは去年、初めて取り組んだことがあります。11月17日の「世界早産児デー」にあわせて開く写真展です。早産児は、赤ちゃんがおなかにいる日数が37週未満と、早く生まれる赤ちゃんのことです。
また、体重が2500グラム未満の「低出生体重児」としてうまれ、なかには医療的なケアが必要な赤ちゃんもいます。宮城県内では10人に1人が「低出生体重児」としてうまれているといわれています。こうした赤ちゃんと家族を知ってほしいと開催しました。

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ことしも仙台市と亘理町で開催されました。会場にはうまれた当時や成長した約20人の写真とともに家族からのメッセージも展示されました。
体重が787グラムでうまれた男の子の写真には「あんなに小さななからだで最後の力をふりしぼって生きたいと伝えられるわが子を誇りに思う。私たちの子どもになってくれてありがとう」という父親のメッセージが添えられていました。

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会場には、560グラムでうまれた当時の写真が展示されている25歳の女性が訪れました。自分が元気に成長している姿を見せることで、小さくうまれた赤ちゃんや家族の励みになればとかけつけました。

【“ひとりじゃないよ”と伝えたい】

縁が縁をつなぎ交流する人はどんどん広がってきています。“ひとりじゃないよと伝えたい”村上さんの願いです。

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(村上理美さん)
「小さくうまれたことで今後どうなるのか、不安に感じている家族もたくさんいると思うんです。同じ境遇の人と少しでもつながれたら少し和らぐのかなって思うので、1人でも多くの人に小さくうまれたお子さんと家族とつながって、1人じゃないよ、大丈夫だよって伝えたいです」