名取に "唯一の" 熊野三社

和歌山県にある熊野信仰の聖地、「熊野三山」が、名取市にあるのをご存じですか。

「熊野三山」にゆかりの神社や寺は全国に3100か所以上あるとされていますが、3つの神社が同じ位置関係にあるのは全国でも名取市だけです。

ことしは熊野三山の神様を分霊し、名取の神社に迎え入れた勧請900年にあたる節目の年。
なぜ名取に熊野三山が再現されたのか、仙台放送局の内山太介記者が取材しました。

《なぜ名取に熊野三山？》

まず訪れたのは名取市高舘にある熊野神社です。
平安末期から時の権力者など多くの人の信仰を集め、本殿は県の有形文化財に指定されています。

その本殿の横には、『老女の宮』と呼ばれる小さな建物が置かれていますが、この老女に名取に熊野三山が再現された謎を解く鍵がありました。

室町時代に記された『熊野堂縁起』によると、平安時代後期にこの地にたびたび熊野詣をしていた信仰のあつい巫女がいましたが、年老いて熊野詣ができなくなり、この地に熊野三社を再現したと伝えられています。

（熊野神社の宮司・小野泰治さん）

老女が当時、なぜ900キロも離れた紀州の熊野まで繰り返しお参りできたのか、詳しいことはわかっていませんが名取にある3つの神社は由来や行事がそれぞれ異なり御朱印を集めながら神社めぐりをしてみるのも面白いと思います。

変わった形をしたこちらは「いびつ太鼓」と呼ばれ、熊野神社で春と秋に奉納される例祭で披露される舞や神楽で使われます。

社務所ののれんに描かれているカラスは日本サッカー協会のシンボルでもある「八咫烏」です。（「やたらがらす」と読みます）
もともとはお参りをした証しとしてもらう守り札として使われていましたが、のちに武士どうしの同盟の証しや土地の譲り渡しなどを証明する起しょう文などに使われたとされています。

熊野三社それぞれにたくさんのカラスをかたどった「法印」があります。

続いて「熊野本宮社」。こちらは熊野神社から徒歩15分ほどにある作物の神様をまつった神社で、江戸時代初期に本殿が現在の場所に移されたとされています。

毎年春と秋には、五穀豊穣を祈ってししにふんした12人による「しし踊り」が披露される祭りが行われます。

一方、標高およそ200メートルの高舘山にあるのが熊野那智神社で、由来は三社の中で最も古く、奈良時代にまでさかのぼります。

その昔、閖上の浜で漁師が引き上げたご神体が光を放った先が高舘山の山頂だったとされ、ここに神社が作られましたが、名取の老女がのちにこの神社を熊野の那智神社と名付けたとされています。
当時、ご神体を引き上げることを「揺り上げる」と言っていたことから神社をあつく保護した仙台藩４代藩主の伊達綱村がこの地に「閖上」という地名を付けたとされています。

神社の裏には滝があり、不動尊がまつられ、立地や景観が、紀州熊野の那智山に似ているといわれています。

境内には大きな杉の木がありますが、形は仲のよい夫婦だったり、両親と子どもが手をつないだように見えたりします。

（熊野那智神社の宮司・井上幸太郎さん）

名取市歴史民俗資料館では熊野三山から名取に神様を迎え入れた「勧請」からことしで900年の節目に当たることから3つの神社の由来や関連の資料を展示した企画展が開催中です。

（学芸員・庄子美祐さん）

と話していました。

3つの神社それぞれに歴史やロマンがあふれ、見どころも多い、名取の熊野三社めぐり。
ぜひ皆さんも訪れてみてはいかがでしょうか。

仙台放送局　記者　内山太介
1996年入局
静岡局、名古屋局、福井局、新潟局、科学・文化部を経験
2022年8月から8年ぶりに仙台放送局
今回、御朱印帳を持って三社を取材しました。