安倍元首相銃撃 警備態勢に問題か 警察官「銃声で不審者認識」

安倍元総理大臣が銃で撃たれて殺害された事件について、奈良県警察本部の鬼塚友章本部長が7月9日、記者会見を開き「警護、警備に関する問題があったことは否定できない」と述べました。

この中で鬼塚本部長は「今回の事件は選挙遊説中の元総理大臣の殺害を狙った極めて卑劣で、許しがたい蛮行で、徹底した捜査による事案の全容解明が急務だ。所要の態勢を構築し警護・警備にあたっていたが、安倍元総理大臣が、銃器様のものを発砲されて死亡される結果になったことを極めて、重大かつ深刻に受け止めていて痛恨の極みだ。今回の事案が11時30分すぎに第1報が入り、事態が、明らかになるに従い、その状況の深刻さ、私自身も平成7年に警察官を拝命して、27年余りの警察官人生での最大の悔恨、痛恨の極みだ。治安責任を有する県警本部長として極めて重大かつ、深刻に受け止めており、その責任も痛感している」と述べました。

そのうえで「このような重大な結果が出たことを踏まえ、今回の安倍元総理大臣の警護、警備に関する問題があったことは否定できないと考えており、早急にその問題点を把握し、適切な対策を講じて参る。このような重大な結果を招いたことは、警護上の問題があったことは否定できず、態勢なのか、配置なのか、緊急時の対応なのか警護員の個々の能力なのか、どうだったのかについてはさまざまな問題について早急に検討、見直しを行う」と述べました。

そして鬼塚本部長は、事件現場で事前の兆候を把握していなかったことや、警護計画書に目を通し承認したのは当日だったことを明らかにしました。

警察官「1発目の銃声で不審者を認識」

安倍元総理大臣が演説中に銃で撃たれ死亡した事件で、現場で警備にあたっていた複数の警察官が「1発目の銃声が聞こえて初めて不審者を認識した」という内容の説明をしていることが警察当局への取材で分かりました。

警察庁は元総理大臣の背後の警備態勢に問題があった可能性があるとして当時の対応を検証することにしています。

警察は奈良市に住む無職の山上徹也容疑者(41)を逮捕して殺人の疑いで捜査しています。

山上容疑者は当時、安倍元総理大臣の斜め後ろから歩いて近づき、数メートルの距離で銃を2発撃ったとみられることが分かっていますが、現場で警備にあたっていた複数の警察官が「1発目の銃声が聞こえて初めて不審者を認識した」という内容の説明をしていることが警察当局への取材で分かりました。

これについて警備関係者からは、銃撃を許す前に制止できなかったのは問題で、容疑者が元総理大臣に近づいてきた段階で対処すべきだったという指摘も出ています。

警察庁は現場の状況などから元総理大臣の背後の警備態勢に問題があった可能性があるとして当時の対応を検証することにしています。

安倍元首相銃撃 元警視総監「警察の失態とも言える」

警視庁公安部長や警察庁警備局長などを歴任した、米村敏朗元警視総監は「選挙の街頭演説は通常の要人警護と異なり、不特定多数の人が集まる。有権者との距離も近く、警察にとっては難しい警備の1つだ。無事に警護を終えられれば100点だが、失敗であれば0点という結果がすべての世界だけに、今回の結果は警察の失態とも言える」と指摘しています。

そのうえで「容疑者は車道を出て安倍元総理の背後から襲撃しているが、ほかの人とは明らかに異なる動きをしながら歩いて向かってくる時点で不審者と見込まれるため、警察官がすぐに制止する必要があった。警備の現場では、警護の対象者に危険がおよぶ可能性が高い場合は、上司の命令を待たず配置された警察官のとっさの判断が生死を決めることもあるため、日頃から訓練や教育が徹底されている」と話しています。

今後、警察当局で進められる検証については「リスクが高いにもかかわらず周囲が360度開けた屋外の会場をなぜ選んだのか。また、警備態勢や警察官の配置などについて、警視庁と奈良県警の事前の連携に問題がなかったのかなどを中心に調査していくことになるだろう」と話しています。

警備関係者からは“背後の警備態勢が不十分”の見方も

警備関係者によりますと、当時、現場には警視庁の専属のSPが1人配置されていたほか、奈良県警の私服の警察官なども含めると合わせて数十人の警備態勢でした。

安倍元総理の後ろ側にも警察官が配置され、周囲を360度警戒していたということです。

しかし、沿道にいた人が当時、撮影した動画では、容疑者が元総理の斜め後ろからゆっくりと歩いて近づく姿が写っていますが、銃声が鳴るまで警察官が制止する様子は確認できません。

これについて、複数の警備関係者はまず、容疑者が元総理に近づく前に制止できなかったことに問題があるとしたうえで、背後の警備態勢が不十分だったのではないかとしています。

このうちの1人は「これ以上近づけば不審者だと認識する距離がきちんと設定されていたのか、そして実際に不審者が近づいた時に制止する態勢がなぜとられていなかったのか、検証する必要がある」と話しています。

一方で、選挙の遊説の警備について難しさを指摘する声もあります。

ある警備関係者は、遊説の際、候補者などの周囲には支援者や陣営の関係者が立つことが多く、SPがすぐそばで警戒にあたれない場合があることを理由の1つとして挙げています。

また、遊説の最中は壁を背にするなど背後に空間を作らないことが警備上は望ましいものの、さまざまな角度から見てほしいと考える候補者などもいるため、要望は尊重せざるを得ないということです。

安倍氏の通夜7月11日 葬儀12日

安倍元総理大臣の地元の事務所は、安倍氏の通夜を7月11日に、葬儀を12日に執り行うと発表しました。

喪主は妻の昭恵さんが務め、自民党安倍派の関係者によりますと、場所は都内の寺院になる見通しで身内や親しい関係者のみで執り行うということです。