女性蔑視と受け取れる
発言で森会長が辞意

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長は、女性蔑視と受け取れるみずからの発言をめぐって、影響が広がっていることの責任をとりたいとして、会長職を辞任する意向を固め、関係者に伝えました。

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長は、今月3日「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言し、その後、撤回、謝罪しましたが、大会を支えるボランティアの辞退が相次ぐなど影響が広がっています。

こうした中、森会長は、発言の責任を取りたいとして、会長職を辞任する意向を固め、関係者に伝えました。

森氏は、83歳。昭和44年の衆議院選挙で初当選してから14回連続で当選し、文部大臣や自民党幹事長など政府・自民党の要職を歴任し、平成12年4月から、およそ1年、総理大臣を務めました。

そして平成24年に政界を引退したあと、平成26年1月に、東京大会の組織委員会の会長に就任し、開催の準備にあたっていました。

森会長発言 これまでの経緯

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長が女性蔑視と取れる発言をしたのは今月3日、JOC=日本オリンピック委員会の評議員会でした。

会合の最後にあいさつした森会長は、女性の理事を増やす目標に対して「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言。さらに「女性というのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげて言うと自分も言わなきゃいけないと思うのだろう。それでみんな発言する」などと述べました。

これに対して、国内外から批判の声が上がり、4日、記者会見を開いた森会長は、この発言を撤回して謝罪。その一方で「辞任する考えはありません」と述べ、会長の職を続ける意向を示しました。

しかし、記者会見の際の記者とのやり取りに対しても、反省していないのではないかと疑問の声が上がり、幕引きは図れませんでした。

その後、選手や有識者、大会を支えるスポンサー企業などからも批判や非難の声が上がり続け、大会に欠かせないボランティアや聖火ランナーを辞退する人が相次ぐなど波紋は広がりました。

ボランティアの辞退が相次いだことに自民党の二階幹事長が「落ち着いて静かになったら考えも変わるだろう」などと発言したことも批判の声を高める一因になりました。

森会長の謝罪によって、「この問題が収束した」とコメントしたIOC=国際オリンピック委員会は9日、公式の声明で「完全に不適切なものだ」と一転して厳しいことばで非難。

組織委員会はボランティアや聖火ランナーにおわびのメッセージを出しスポンサー企業に説明や謝罪をしたほか、12日にも、理事と評議員の合同の会合を開き事態の沈静化を図ることにしていました。

IOC=国際オリンピック委員会のこれまでの対応

森会長の女性蔑視と取れる発言に対してIOC=国際オリンピック委員会は当初、森会長が自ら発言を撤回し謝罪したことを受けて「IOCはこの問題は収束したと考えている」とコメントするなど、問題を沈静化させる動きを見せていました。

しかし、国内外のメディアをはじめIOC委員や選手、スポンサー企業などから「オリンピックの精神に反する不適切な発言だ」などと厳しい批判の声があがり、ボランティアや聖火リレーを辞退する動きも広がる中で9日、ホームページ上に公式の声明を掲載し、「IOCの公約や取り組んでいる改革に矛盾するもので、完全に不適切なものだ」と一転して厳しいことばを使って森会長の発言を非難しました。

そのうえで「オリンピック憲章に記載されているようにすべての階層のすべての組織においてスポーツにおける女性の活躍を奨励し、支援することを使命としている。東京大会の組織委員会などがそれぞれの責任の範囲内で望ましい目標を達成するために支援する準備がある」と記しました。

関係者によりますと、バッハ会長をはじめIOCの幹部が定期的に日本側と連絡を取り合い、組織委員会での森会長の処遇をめぐる議論の行方や日本の世論の動向について情報収集を行うとともに、バッハ会長が近く、森会長と直接話をする意向を示していたということです。

森会長発言への政府の対応

森氏の発言について、菅総理大臣は、先の衆議院予算委員会で「国益にとって芳しいものではない」と述べたうえで、森氏が会長職にとどまるかどうかは、組織委員会が判断すべきだという認識を示していました。

また、橋本オリンピック・パラリンピック担当大臣は、菅総理大臣の指示を受けて、発言のあった翌日に森氏と電話で会談し「あってはならない」という考えを伝えたことを明らかにしていました。

政府高官は「夏に東京大会を開催する方針に変わりはない」としていて、ボランティアの辞退が相次いだことなどを踏まえ、信頼の回復と開催に向けた機運の醸成に努めながら、感染対策などの必要な準備を進める方針です。

政界のこれまでの対応

森氏の発言をめぐっては、国会での与野党の論戦でも取り上げられ、野党側は「オリンピックの理念に反する発言をした人が大会組織のトップにいるままでは、国益を損なう」と強く批判し、辞任を求めていました。

立憲民主党、共産党、国民民主党の野党3党は10日、国会対策委員長らが会談し、組織委員会は自浄作用が働いておらず、政府に対し、森氏の辞任を促すよう求めていく方針を確認していました。

これに対し、与党内でも、発言は不適切で遺憾だとする意見が相次ぐ一方、自民党執行部の間では、本人が撤回したことも踏まえ、開幕まで半年を切る中で、関係団体や各国との調整を急ぐ必要があるとして、辞任までは必要ないという意見が強く、組織委員会の対応を見守る構えでした。

ただ、IOC=国際オリンピック委員会が、9日に発表した声明で、森氏の発言について「完全に不適切なものだ」と厳しい言葉で非難したことなども踏まえ、与党幹部からは「出処進退は本人が判断すべきだ」という発言が相次ぎ、辞任はやむを得ないという見方も出ていました。

東京五輪・パラ組織委 理事らは

●組織委 泉正文専務理事
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の理事で、日本スポーツ協会の泉正文専務理事はNHKの取材に対し「森会長の辞意について何も聞いておらず、何ともコメントできない。あすには組織委員会の懇談会があるので、そこで本人の話を聞きたい」と話していました。

●組織委 木村興治評議員
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の評議員を務めるJOC=日本オリンピック委員会、名誉委員の木村興治さんはNHKの取材に対し「森会長の発言そのものは批判されるべきだし、やむをえない着地点だと思う。しかし、東京オリンピック・パラリンピックの招致から大会の実現に向けて森会長がこれまでがんばってこられたことは、スポーツ界にとって本当に大きな功績だった」と話していました。

●組織委 理事の1人
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の理事の1人はNHKの取材に対し、「残念だ。これは森会長1人の問題ではなく、こうした発言を生んだ組織も反省し、体質を変えていかなければならない。これを機に女性の理事を増やし役員にも女性を登用するべきだ。ジェンダーについて詳しい有識者を入れてはどうか」と話しています。その上で、「後任の会長は、男女平等などオリンピック憲章の意味をしっかり理解し、国際社会への発信力がある人に務めてもらいたい」と話しています。

小池都知事「あす本人が話をするのではないか」

東京都の小池知事は、都庁で記者団に対し、「森会長から直接、電話をいただいた。いろいろ話をうかがったが、あす、本人が話をするのではないか。内容については申し上げない。オリンピック・パラリンピックを何としてでも成功させていくことは何も変わらない」と述べました。

また、森会長から後任の会長に就任するよう初代Jリーグチェアマンの川淵三郎氏が打診を受けたことについて、小池知事は「いろいろしっかり手続きが必要ではないか。それ以外のことは申し上げない」と述べました。

東京都職員の受け止め

東京都の幹部の1人はNHKの取材に対して「辞任の意向を固めたという報道を見た。批判が強まっていると感じていた。大会の開催まで半年を切っていて時間がないので次の会長をどうするのかが喫緊の課題だ」と話しています。

また、別の東京都の幹部はNHKの取材に対し「引き留める声があったのかもしれないが辞任の判断が遅かったと思う。これほど批判が高まる前に判断できればよかったのではないか。これを機にスポーツ界のあり方をもう一度考え直し、いい方向につなげてほしい」と話しています。

スポーツ界の反応

●ボクシング男子フライ級・田中亮明選手
ボクシング男子フライ級で東京オリンピック代表に内定している田中亮明選手は「今の時代において本当に不適切な発言だったと思う。ボランティアの人たちが大勢辞退したというニュースも聞いていたので、せっかくみんなで盛り上げていくはずのオリンピックがこういう形になり残念だと思っていた。世間の人に応援してもらえるような大会であってほしいので辞任はしかたないと思う」と話していました。

●日本ボクシング連盟・内田貞信会長
日本ボクシング連盟の内田貞信会長は「正しい選択だったと感じている。女性蔑視と受け取られるような発言については、国内外からの批判があったとおり、日本のオリンピック・パラリンピックの開催を先導する立場として不適切だったので、責任を果たしたと思う。しかし、森会長がこれまでに果たしてきたオリンピック・パラリンピック開催に向けた尽力は色あせることはない。東京オリンピック・パラリンピックの成功に向けて新たな結束が必要になる」とコメントしています。

●日本カヌー連盟・成田昌憲会長
日本カヌー連盟の成田昌憲会長は「もし辞任する意向が本当であれば、非常にショックが大きい。森会長は東京大会で競技の男女割合が半々になることに尽力され、国際競技団体からの信頼も厚く、オリンピック競技だけでなくパラリンピックのカヌーへの理解もあったので、極めて残念だ」と話していました。

パラ出場目指す選手「五輪・パラで多様性と調和 発信を」

東京パラリンピック出場を目指す陸上男子100メートル、義足のクラスの井谷俊介選手(25)は、「オリンピック・パラリンピックを通してみんなが多様性や調和を大事に思っている中で、組織のトップがその理念に反する発言で辞任するのは残念だ」と心境を語りました。

20歳のときの交通事故が原因で右足が義足の井谷選手は、障害のある人が社会にいることを当たり前に見てもらえるよう、ふだんから義足を隠さずに外出するなど、障害者への偏見をなくそうと意識的に取り組んでいます。

井谷選手は、「義足や義手、車いすなどの障害、それに人種や性別など、さまざまなことが差別の対象になる。そうした差別のない社会になってほしいし、トップには誰かを傷つける発言をしないでほしい。東京オリンピック・パラリンピックが開催され、そこで多様性と調和を発信できることを願う」と話していました。

障害がある大会ボランティアの1人「五輪・パラは多様性の結晶」

東京オリンピックのサッカー会場でボランティアを担当する予定の堀川裕之さん(56)は、交通事故の影響で右半身にまひの障害がある大会ボランティアの1人です。

堀川さんは森会長が辞任の意向を示したことについて、「今回は女性に関しての発言だったが、それが少し違えば、私のような障害者に対しての発言につながるかもしれない。怖いなと感じていた。辞任は遅かったと思う」と話しました。

東京大会は『多様性と調和』を大会ビジョンに掲げていますが、堀川さんは「ボランティアは多様性の研修を受けているので私と同じように今回の発言について残念と思う人がいたと思う。オリンピックだけでなく、パラリンピックはさまざまな障害がある選手が参加する多様性の結晶のような大会で、選手たちのためにもこれから組織委員会として考え方を変えてほしい」と話していました。