急経済対策を決定
事業規模108兆円程度

政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、収入が減少した世帯への現金30万円の給付などを盛り込み、事業規模の総額で108兆円程度となる緊急経済対策を決定しました。

政府は、7日夕方、臨時閣議を開き、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策を決定しました。

この中では、収入が減少し、生活が困難になっている世帯を中心に1世帯当たり30万円の現金を給付し、手元に早く届くよう、みずから申請する方式で実施するとしています。

また、子育て世帯を支援するため、児童手当の受給世帯に対し、児童1人当たり1万円を上乗せするとしています。

さらに、中小企業などを対象にした給付金は、事業収入が前の年の同じ月に比べて50%以上減少した事業者に、中堅・中小企業には200万円、フリーランスを含む個人事業主には、100万円をそれぞれ上限に減少分を給付するとしています。

一方、雇用の維持に向け、雇用調整助成金を6月末まで拡充するとしていて、解雇を行わない場合は、中小企業は10分の9、大企業は4分の3まで助成率を引き上げ、非正規の労働者も対象とするなどとしています。

このほか、税金や社会保険料についても、総額26兆円規模の支払いを猶予するとしています。

また、治療薬として効果が期待されている、インフルエンザ治療薬の「アビガン」について、今年度内に200万人分の備蓄を目指すとしています。

緊急経済対策には去年12月に決定した経済対策の一部も含まれていて、事業規模の総額は108兆円程度、財政支出が39兆円程度となっています。

自民 森山氏「補正予算案 連休前に成立を」

自民党の森山国会対策委員長は記者団に対し、「補正予算案は、再来週早々に国会に提出されるのではないか。審議日程について野党と協議し、できるだけ早く、大型連休前には成立させたい」と述べました。

新たな対策は事業規模 86兆4000億円程度

今回の緊急経済対策は「事業規模」が108兆2000億円程度、「財政支出」が39兆5000億円程度に上ります。

この中には一連の災害からの復旧、復興や、経済の下振れリスクに備えるため去年12月に決定した、事業規模で26兆円の経済対策のうち、今後効果が見込まれるものとして19兆8000億円程度が計上されているほか、先月までにまとめた緊急対応策の第1弾と第2弾を合わせた、事業規模で2兆1000億円程度も含まれています。

今回、新たに追加された対策としては、事業規模が86兆4000億円程度となり、このうち財政支出は29兆2000億円程度ということになります。

「事業規模」と「財政支出」

経済対策は、対策全体の規模を示す「事業規模」と、国の支出などを示す「財政支出」の2つの数字で表されます。

今回の対策では事業規模はリーマンショックのあとの2009年4月に決定した経済対策の56兆8000億円を上回り、日本のGDP=国内総生産の20%にあたる過去最大の規模だとしています。

財政支出は国の一般会計や特別会計からの支出に、地方自治体の負担や財政投融資を加えた総額を指しています。

事業規模は、この財政支出に加え、金融機関による融資や保証の枠、税金や社会保険料の支払いの猶予、それに事業に参加する民間企業の支出なども含めた対策の総額を示すため、「財政支出」より大きな額となります。

専門家「感染拡大では経済対策しても景気改善ない」

今回の緊急経済対策について、SMBC日興証券のシニアエコノミスト、宮前耕也さんは「経済活動が止まっている間、収入をサポートするという、今、求められている政策に加えて、感染が収まったあとの景気刺激策という先を見据えた政策もあり評価できる。日本の経済規模を考えると全体としては必要な対策の規模は確保されたのではないか」と分析しました。

しかし、「感染症の拡大が続くうちは、経済対策をいくら膨らませても景気改善に持っていくことはできない。感染症が長引くほど景気低迷も続くし、経済対策によって財政の負担も続き、事業者にとっても借り入れが膨らんで負担が重くなってしまう。感染拡大が止まらないと経済の状況も改善しない」と指摘しました。

そのうえで、宮前さんは東京など7都府県を対象にした「緊急事態宣言」について、「思い切って感染拡大を止めるために緊急事態宣言を出して短期決戦をはかる、短期で感染の終息を目指すのは妥当だと思う。感染を短期で抑えられれば、先行きは景気が回復し、財政悪化もある程度で食い止められる可能性が出てくる」と述べました。

専門家試算「GDP0.9%程度押し上げ」

今回の緊急経済対策による日本経済への影響について、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、日本のGDP=国内総生産を0.9%程度押し上げるという試算をまとめています。

試算によりますと、今回の対策に基づいて政府が総額で16兆円余りの追加の歳出を盛り込んだ補正予算を実行に移すことで、日本のGDPが年間で0.9%程度押し上げられるとしています。

一方で、緊急事態宣言で外出を自粛する動きがさらに強まった場合、総務省の家計調査をもとに試算したところ、個人消費は今後1か月で6兆8000億円減少し、GDPは年間で1.2%程度押し下げられるとしていて、緊急経済対策は経済の落ち込みは緩和できるものの十分、カバーできるには至らないと分析しています。

木内氏は、「経済対策は打たれるものの、ことし4月から3か月間のGDPは、感染が拡大するアメリカやヨーロッパ向けの輸出の落ち込みも含めて、大幅なマイナスとなる可能性もある。今回の対策は、資金繰りの厳しい企業などを支えることに意味があり、まずは一定の期間、外出の自粛などによって感染拡大を防ぐことが先決だ」としています。

専門家「複数回の制度用意したほうがいい」

ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次さんは「現実の問題に施策がかなり集中された。資金が必要なのは個人や中小企業など対象が広いので、いろんな施策を打ち出したことは評価していい」と分析しました。

その一方で「今皆さんが不安なのは、感染拡大が長期化した場合に政府が対策を取ってくれるのか安心して制度を続けてくれるのかにあるのではないか。1回きりではなくて複数回の制度を用意した方がいい」と述べ長期化した場合に備えて対策を検討すべきだという考えを示しました。

経済3団体の受け止めは

政府の緊急事態宣言と緊急経済対策について、経済界からの反応です。

経団連の中西会長は「国際社会は感染拡大の防止と経済活動の維持を同時に達成するという難題と向き合っており、わが国も例外ではない。この未曽有の難局を打開するため、政府は前例のない規模や発想に基づく網羅的な緊急経済対策を閣議決定した。国民の生命・健康・生活を守り、雇用を維持し、事業を継続するための支援は一刻の猶予もならず、補正予算の早期成立と施策の迅速な実行を求めたい」などとするコメントを発表しました。

日本商工会議所の三村会頭は「今般決定された緊急経済対策は、かつてない大規模なものとなり新たな給付金制度の創設をはじめ、財政・金融・税制等のあらゆる面で政策手段が総動員されており、高く評価したい。危機にひんする中小企業の倒産・廃業防止と雇用維持のためにも、今般の政策が迅速かつ末端まで広く行き渡るよう、しっかりとした体制整備を行っていただきたい」などとするコメントを出しました。

また、経済同友会の櫻田代表幹事は「収入が急減した世帯や中小企業や個人事業主を対象に雇用維持や生活支援のため、これまでにない大胆な施策が盛り込まれたことを歓迎する。収束後の経済再生を見据えた対策も重要であり、観光業などの需要喚起策はもとより、今回の危機を契機に国民の間で高まっている社会全体のオンライン化へのニーズに対応していくことが求められる」などとするコメントを発表しました。

布マスク配付に予備費から437億円余支出

政府は全国すべての世帯に布マスクを配布するためなどに必要な経費の一部として、今年度予算の一般会計の予備費から437億円余りを支出することを7日の臨時閣議で決めました。

布マスクの配布は7日決定された緊急経済対策に盛り込まれ、経費は今年度の補正予算案にも計上されていますが、予備費からの支出は補正予算案が成立する前に行うマスクの配布に対応します。

このほか政府は臨時休校で仕事を休まざるをえなくなった保護者への助成金の支給に必要な経費の一部として、今年度予算の予備費から140億円余りを支出することも決めました。