東地域への自衛隊派遣を
命令 河野防衛相

中東地域への自衛隊派遣について、河野防衛大臣は10日夕方、防衛省・自衛隊の幹部を集めて防衛会議を開き、護衛艦1隻と哨戒機2機の派遣を命令しました。哨戒機部隊は11日に日本を出発して今月20日から情報収集にあたり、護衛艦は来月2日に日本を出港することにしています。

中東地域の緊張が続く中、政府は日本関係船舶の航行の安全を確保するため、情報収集態勢を強化するとして、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機の派遣を決めています。

河野防衛大臣は10日夕方、防衛省・自衛隊の幹部を集めて防衛会議を開き、護衛艦1隻と哨戒機2機の派遣を命令したうえで、「中東地域の日本関係船舶の航行の安全を確保することは非常に重要で、自衛隊による情報収集活動は大きな意義がある」と述べました。

派遣の命令では活動期間は今月20日からことし12月26日までとなっています。延長する場合は、改めて閣議決定が必要となります。

これを受けて哨戒機部隊は11日、沖縄県にある那覇基地を出発し、今月20日から現地で情報収集にあたります。

護衛艦はヘリコプターを搭載する「たかなみ」が来月2日に神奈川県にある横須賀基地から出港し、来月下旬に現地で活動を始める予定です。

哨戒機と護衛艦は船舶の運航や海域の状況などについて、上空や海上から目視やレーダーなどで監視し、不審な船がいないかや特異な事態が起きていないかなど、情報収集することにしています。

こうした活動で得た情報は国土交通省を通じて日本関係船舶の運航者に伝えるなど、関係者と共有するほか、アメリカや関係国とも共有し、船舶の安全確保に向け、連携して対応していくことにしています。

また防衛省は今回の部隊派遣で、現地で活動を行っているほかの国からも情報を得やすくなるとしています。

自衛隊の活動海域は

命令では自衛隊の活動海域について、オマーン湾、北緯12度より北側のアラビア海北部と、バーブルマンデブ海峡東側のアデン湾で、沿岸国の排他的経済水域を含む公海としています。

このうち哨戒機での情報収集活動はアフリカ東部のジブチを拠点に現在、取り組んでいる海賊対策に支障を及ぼさないよう、海賊対策の活動海域でもあるアデン湾を中心に行う方針です。

また護衛艦はオマーン湾やアラビア海北部の公海のうち、日本関係船舶が集中して航航することが見込まれる海域で活動する方針です。

このため主に西側で哨戒機が、東側で護衛艦が、それぞれ活動することになります。

また活動海域にはイランにより近いホルムズ海峡やペルシャ湾は含まれていない一方、去年6月、オマーン湾で日本の海運会社が運航するタンカーなどが攻撃を受けた海域は含まれています。

政府は日本に関係する船舶の航行が、年間でホルムズ海峡はおよそ3900隻に上り、うちおよそ2600隻がタンカーとしています。

またバーブルマンデブ海峡はおよそ1800隻の日本関係船舶が通過するとしています。

今回 活動地域は法律上明記されず

過去に行われた主な自衛隊の海外派遣では、武力衝突に巻き込まれることや、他国の武力行使との一体化を避けるため、法律で活動地域を定めていました。

海上自衛隊のインド洋での給油活動や、陸上自衛隊のイラクでの復興支援活動ではそれぞれ特別法に基づいて、活動地域を戦闘が行われていない「非戦闘地域」としてきました。

今回の派遣は防衛省設置法の「調査・研究」に基づいて行われ、法律上、活動地域については明記されておらず、閣議決定で他国の領海や、イランにより近いホルムズ海峡やペルシャ湾を活動地域に含めない形をとりました。

防衛省は派遣部隊が活動する地域の情勢について、緊張は高まっているが、戦闘などが起こる状況にはなく、閣議決定の前提を覆すような大きな変化はないとしています。

必要に応じ「海上警備行動」に切り替え対応

防衛省は「調査・研究」に基づく活動はあくまでも情報収集が目的で、日本に関係する船舶であっても、この法的根拠に基づいて船舶の護衛を行うことは難しいとしています。

このため今回の命令では日本船籍のタンカーが何者かによって襲撃されるなど、不測の事態が生じた場合は現地の部隊からすみやかに防衛大臣に報告すると定めていて、政府は必要に応じて、活動を「調査・研究」から「海上警備行動」に切り替えて対応するとしています。

「海上警備行動」は自衛隊法に基づいて、閣議決定により防衛大臣が海上で人命や財産を守り、治安を維持するために自衛隊に必要な行動をとるよう命じるものです。

発令されれば、不審船などを見つけた場合、拡声器を使った警告や針路妨害のほか、憲法で禁じられる「武力の行使」に至らない範囲で、警告射撃など、武器の使用も認められます。

ただ国際法上、船舶の保護は船籍を登録している国の政府が行う原則があることなどから、防衛省は外国籍の船の場合、日本人が乗船していたり、日本の会社が運航していたりしても、武器を使用した実力行使は難しいとしています。

このため外国籍の船が攻撃を受けているのを発見した場合について、防衛省は「何ができるかはケースバイケースだが、沿岸国や、船籍を登録している国に通報したり、拡声器で警告したりするなど人道上、必要とされる措置を行うことは可能だ」としています。

防衛省は派遣にあたって部隊の安全確保に万全を期すため、中東地域の情勢について、アメリカなど関係国に駐在する自衛官など、さまざまなルートを通じて情報収集を進めるとともに、必要な機材の搭載や、不測の事態に備えた訓練などを行ってきました。

河野防衛大臣は9日、海上自衛隊の施設で図上演習を視察し、どのような特徴の船を特に警戒すべきかや、関係する部隊や省庁との情報共有の手順などを確認し、準備を尽くすよう、指示しました。

防衛相「緊張高まっているからこそ情報収集活動を」

河野防衛大臣は自衛隊の派遣を命令したあと、記者会見し、「原油輸入の9割はこの海域を通って日本に入ってくることを考えれば、原油、天然ガスを積んだ船舶の航航の安全は日本経済にとっての生命線だ。わが国へのエネルギーの供給が途絶えることが万が一にも起こらないように、万全の準備をしていきたい」と述べました。

そのうえで、「中東の緊張が高まっている状況にはあると思うが、だからこそ日本関係船舶の航航の安全に必要な情報収集活動をしっかりと強化をしていかなければならない」と述べました。

また記者団が中東情勢の変化を受けて活動海域を変更することはあるのかと質問したのに対し、河野大臣は「閣議決定を変更する予定は今のところない。ホルムズ海峡あるいはペルシャ湾に派遣された護衛艦が入るということはない」と述べました。

自民 森山氏「予定どおり一定の役割を」

自民党の森山国会対策委員長は記者団に対し、「自衛隊が予定どおり一定の役割を果たすことが大事だ。ただ、野党側の意見は非常に重いので、総理大臣官邸にその考えは伝える」と述べました。

立民 安住氏「閣議決定後に状況変化 危険性高い」

立憲民主党の安住国会対策委員長は記者団に対し、「自衛隊を中東に派遣する閣議決定をしたあとに状況は変わっており、危険性が高い。今まで外交的に中立を保ち、アメリカとイランの仲介役を自任してきた日本が国際社会からどう思われるのか。国会論戦を通してぎりぎりまで派遣の中止を求めていきたい」と述べました。