んぽ生命 契約3千万件
顧客に不利益がないか検証へ

かんぽ生命の不適切な保険販売問題で、日本郵政グループはおよそ3000万件の契約すべてを対象に、顧客が意向に沿わず不利益を被ったものがないか、検証することを明らかにしました。会社は「顧客の意向に沿わずに生じさせた不利益については解消し、信頼回復に全力で取り組む」としています。

この問題で日本郵政グループは、経営トップによる記者会見を開き、冒頭、日本郵政の長門正貢社長は「かんぽ生命、日本郵便の保険営業についてお客様のご意向に沿わず、不利益を発生させている可能性のある案件が多数判明しました。郵便局に対する信頼を大きく裏切ることとなり、断腸の思いです。ご迷惑、ご心配をおかけし深くおわび申し上げます」と陳謝しました。

そのうえで、かんぽ生命は、過去5年間に消滅した契約を含めおよそ3000万件の契約すべてを対象に、顧客が意向に沿わず不利益を被ったものがないか、検証することを明らかにしました。

そして、不適切に保険を販売した可能性がある契約として、これまでの見込みのほぼ2倍にあたるおよそ18万3000件の顧客を対象に来月中に書面で連絡し、その後個別に顧客を訪問するなどして詳しく調査する方針も明らかにしました。

これについて会社は「顧客の意向に沿わずに生じさせた不利益については解消し、信頼回復に全力で取り組む」としていて、顧客の意向を確認したうえで、元の契約に戻したり払いすぎた保険料を返したりする方針です。

長門社長は「1日も早くお客様の不利益の解消をきちんとやっていくというのが今のミッションだと思っている」と述べました。

また、長門社長は経営責任について「陣頭指揮をとってまい進することが職責であると考えている」と述べて、辞任しない考えを示しました。

さらに、顧客が不利益を受けた可能性のある契約の調査について、ことし9月中に中間報告をまとめる考えを示しました。

一方、かんぽ生命の保険の販売を担う日本郵便の横山邦男社長は記者会見で、不適切な保険販売の背景について「営業目標が新契約の獲得に偏っていた点にあると、現時点では考えている」と述べました。

そのうえで、過剰とされる保険の営業目標、いわゆるノルマについて、今年度は目標を廃止し、来年度以降は顧客本位の営業になるよう、抜本的に見直す考えを示しました。

日本郵便 横山社長「営業目標が背景に」

かんぽ生命の保険の販売を担う日本郵便の横山邦男社長は記者会見で、今回の問題の背景について「今般の事態を招いたそもそもの要因は、貯蓄性商品の魅力の低下など営業が困難になったにもかかわらず、組織マネージメントを状況に応じて変えることができず、営業目標が新契約の獲得に偏っていた点にあると、現時点では考えております」と述べました。

保険金額は最大2000万円

かんぽ生命は12年前の平成19年10月の郵政民営化で発足した生命保険会社です。

保険の大半は全国2万余りの郵便局の窓口や、1万5000人の営業担当の郵便局員が販売しています。

かんぽ生命によりますと契約はおよそ2900万に上り、貯蓄性のある養老保険では生命保険会社全体の新規契約の80%のシェアを持っているということです。

また、ことし3月末時点の総資産は73兆9000億円余りと、78兆8000億円余りの日本生命に匹敵する規模になっています。

現在は日本郵政が株式の64%余りを保有していることから、ほかの民間生命保険会社との競争環境を確保するため、一定の規制がかけられています。

具体的には1人にかけられる保険金の額が最大で2000万円とされているほか、新しい商品を開発する際には国の認可が必要になっています。

さまざまな不利益が顧客に

かんぽ生命は、今回、平成26年度から平成30年度までの5年間の新規契約のうち、古い契約を解約して新しい契約に移る「乗り換え」の際に不適切な販売だった可能性がある18万3000件を詳しく調査します。

病院が保存するカルテで契約時点の健康状態が確認できることから、過去5年間を対象にしました。

具体的には乗り換えの際、古い契約と新しい契約が7か月から9か月間重なり、顧客が保険料を二重払いしていた事例がおよそ7万件。

逆に古い契約の解約から新しい契約まで4か月から半年の間無保険の状態になっていた事例が5年間でおよそ4万6000件となっています。

そして、保険を乗り換えずに古い契約の特約だけを変更するなどしたほうが顧客の利益になった事例がおよそ2万5000件。

予定利率と呼ばれる運用利回りが低い同じ種類の保険に乗り換えたことで古い契約よりも保険料が高くなった事例がおよそ2万件となっています。

このほか、保険を乗り換えようとして古い保険を解約したものの、健康状態が変わったため新しい保険の審査に通らなかった事例がおよそ1万9000件。乗り換えの際の健康状態の申告に不備があったことを理由に、保険金が支払われなかった事例がおよそ3000件となっています。

長門社長「不退転の決意でやっていく」

日本郵政の長門正貢社長は記者会見で「大変恥ずかしく断腸の思いだがこういう事態になった。1日も早くお客様の不利益の解消をきちんとやっていくというのが今のミッションだと思っている。厳正なレポートが特別調査委員会から出て参りますから、これも参考にしっかりと責任問題も考えたいと思うが、今やれることは、本当に不退転の決意でやっていきたい」と述べました。

また、長門社長は郵便局の信頼について問われたのに対し「本当に申し訳ないと思っているが、著しく本当にお客様の期待を裏切り、ブランドイメージを損なってしまったと、感じている。大変責任を痛感しているからこそ、なるべく早く信頼を回復できるように全力を尽くして頑張りたい。もう簡単に前のイメージは戻らないと思うが、一刻も早く戻すべく、たすきをつなぐというのが仕事だと思っている」としました。

郵便局内に強いプレッシャー

日本郵政グループは民営化された上場企業として成長を目指す必要がある一方、法律上、郵便や金融のサービスを全国一律で維持していくことが義務づけられています。

このため、厳しい収益環境にある郵便事業をゆうちょ銀行、かんぽ生命の金融2社が支える構図になっています。

具体的には日本郵便がゆうちょ銀行やかんぽ生命から販売委託を受けて投資信託や保険商品を販売し、手数料を受け取っています。

保険の場合、かんぽ生命と日本郵便は、両社で1年間の販売目標を決めていて、それを全国の支社を通じて個別の郵便局や局員に割りふっています。

郵便局の関係者からはノルマは常に高く、達成に向けた郵便局内のプレッシャーも強いといった声が聞かれ、不適切な販売につながったと指摘されています。

これについて日本郵便の横山邦男社長は記者会見で、「今般の事態を招いたそもそもの要因は、貯蓄性商品の魅力の低下など営業が困難になったにもかかわらず、営業目標が新契約の獲得に偏っていた点にあると考えている。現場の社員に負荷をかけてしまったのではないかというのが私の強い反省だ」と述べました。

また、横山社長は営業を担当する社員の年収のうち、一般的に25%程度が契約の獲得に伴う手当だということを明らかにしました。

日本郵便は、今回の問題を受けて今年度は営業目標を廃止し、来年度以降は抜本的に見直す方向で検討を進めています。

「信じ切っていた」

郵便局の局員による保険の販売をめぐって、契約者の家族からは憤りの声も聞かれます。

京都市に住む50代の会社員の女性は、同居している81歳の母親が、かんぽ生命の保険を、何度も不自然に契約したり解約したりしていたと話しています。

母親は、4年前、夫を被保険者とした満期10年の養老保険を2つ契約しました。しかし、それから1年余りで2つとも解約し、払い込んだ保険料に比べて、戻った返戻金が80万円余り少なく、損失が出たと言います。

そして母親はその2か月後、別の終身保険に加入しました。夫が死亡した場合に300万円受け取れる内容でしたが、すでにかんぽ生命の別の終身保険に入っていたため必要のない保険だったとしています。

この終身保険は不信に感じた女性の判断でことしになって解約。ほかにも、孫を被保険者にした保険に契約してわずか半年で解約するなどしており、女性は、母親が契約したり解約したりした保険全体で、300万円を超える損失が出たと考えています。

なぜこうしたことが起きたのか。

女性によると、母親は、自宅を訪ねてきた郵便局の担当者の勧めで契約をしていたということです。

女性は、「若い20代の男性が担当で、孫のようなかわいい存在だと思っているようなところがあった。孫のような年の担当者が悪いことするはずがないと信じ切っていたのだと思います」と話しています。

また、「保険に入ったという自覚が正直全くなく、母としては貯金のようなつもりだったんですね。解約すると損失が生まれるという意識も全くなかったみたいで、勧められるがまま、貯金を預け替えるような感覚だったのだと思う」と話しました。

そして、「今の報道を見るかぎり、新しい契約を取らないといけないという気持ちからこういうことをしたんじゃないかと思います。いったん契約して解約してっていう保険がたくさんあるのはどう考えても不自然で、ありえないです」と憤りをあらわにしていました。