水路や側溝の転落事故
去年 150人以上死亡

用水路や側溝に人が転落する事故が相次ぐ中、NHKが特に死亡事故が多い全国15の道府県の消防に取材したところ、去年1年間に150人以上が死亡し、1800人余りがけがをしていたことがわかりました。死者の数は警察が溺死事故に限ってまとめた統計の3倍以上に上り、専門家は「全国規模で事故の実態が明らかになったのは初めてで、警察や消防などが連携して実態を把握し対策に乗り出すことが必要だ」と指摘しています。

農業用水や生活排水が流れる用水路は農地の宅地化に伴い、住宅地にも張りめぐらされていて、子どもや高齢者が転落する事故が全国で相次いでいます。

しかし、警察は用水路での溺死事故に限って「水難事故」として記録し、頭を打って死亡したりけがをしたりしたケースも含めた「用水路事故」という分類では統計を取っていないため詳しい実態はわかっていません。

NHKは、警察庁の統計でおととしまでの3年間に溺死事故が多かった15の道府県の233の消防本部に、用水路や側溝への転落事故などで出動した件数や死者の数やけがの程度、それに事故の状況について独自に取材しました。

その結果、去年1年間に死亡した人は154人で、警察の統計の47人の3倍以上に上ることがわかりました。

また、けが人は警察の統計の7人に対し1800人余りに上っていることが明らかになりました。

警察の統計が「用水路事故」として一元化されていないため、事故の実態が反映されていないことが浮き彫りになった形で、水難事故に詳しい長岡技術科学大学大学院の斎藤秀俊教授は「全国規模で事故の実態が明らかになったのは初めてだ。実態がわからなければ適切な対策を講じることはできないので、警察や消防、行政は連携して事故の傾向やリスクを把握し、対策に乗り出す必要がある」と指摘しています。

(15道府県=富山県、新潟県、佐賀県、岡山県、熊本県、山形県、秋田県、大阪府、岩手県、山梨県、滋賀県、香川県、北海道、長野県、大分県)

消防の記録と警察の統計に大きな開き

NHKが全国15の道府県の233の消防本部に行った調査で、去年、死者が最も多かったのは新潟県の21人でした。
次いで▽富山県と岡山県が18人、
▽熊本県と大分県が14人、
▽山形県と秋田県が11人、
▽佐賀県、岩手県、長野県が10人、
▽香川県が7人、
▽北海道と滋賀県が3人、
▽大阪府と山梨県が2人となっています。

今回の調査では、消防の記録と、警察庁が溺死事故に限ってまとめた統計に、大きな開きがあることが浮き彫りになりました。

死者の数のかい離が最も大きかったのは、
▽新潟県で15人、
▽岡山県、大分県、熊本県がそれぞれ13人でした。

さらに、警察の統計では死者はいないとされた、
▽長野県で10人、
▽北海道で3人、
▽大阪府で2人がそれぞれ死亡していました。

一方、けが人が最も多かったのは、
▽大阪府で337人、
▽次いで岡山県で259人、
▽香川県で210人、
▽新潟県で179人、
▽熊本県で143人、
▽長野県で140人、
▽滋賀県で106人、
▽大分県で104人、
▽佐賀県で68人、
▽秋田県で67人、
▽富山県で59人、
▽北海道で42人、
▽山形県で39人、
▽岩手県で34人、
▽山梨県で28人となっています。

警察の統計では、このうち5つの道と県では、けが人は1人から3人となっていて、残る10の府県では、いずれもけが人はいないとされていました。

消防は、用水路や側溝での事故で119番通報を受ければ救助に駆けつけますが、けがの場合、交通事故などと違って警察に通報するケースが少ないことが、こうしたかい離が生じる要因になっています。

専門家は「けがをした人からは事故の状況を聞くことができる。けが人のデータを丹念に集めることで危険箇所が把握でき、本格的な事故対策につながる」と指摘しています。