優生保護法で不妊手術を
受けた人救済する法律が成立

旧優生保護法のもとで不妊手術を受けた人たちを救済するため、おわびや、一時金として320万円を支払うことなどを盛り込んだ法律が、24日、参議院本会議で全会一致で可決され、成立しました。

平成8年まで施行された旧優生保護法のもとで不妊手術を受けた人たちを救済するための法案は、24日午前の参議院本会議で採決が行われ、全会一致で可決され、成立しました。

成立した法律では、旧優生保護法を制定した国会や政府を意味する「我々」が「真摯(しんし)に反省し、心から深くおわびする」としています。

そのうえで、本人が同意したケースも含め、精神障害や遺伝性の疾患などを理由に不妊手術を受けた人を対象に、医師や弁護士などで構成する審査会で手術を受けたことが認められれば、一時金として、一律320万円を支給するとしています。

一時金の請求は本人が行う必要があり、その期限は、法律の施行から5年以内と定められています。

厚生労働省では、一時金の対象となるのは、およそ2万5000人と見込んでいます。また、国が同じ事態を繰り返さないよう旧優生保護法を制定したいきさつなども調査するとしています。

法律は24日夕方施行され、都道府県で一時金の請求の受け付けが始まります。

救済法の内容は

この法律は、昭和23年から平成8年まで施行された旧優生保護法のもとで不妊手術などを受けた人たちを、一時金の支給によって救済することが目的です。

法律の前文では、旧優生保護法のもとで不妊手術などを受けた人が「心身に多大な苦痛を受けてきた」として、法律を制定した国会や、執行した政府を意味する「我々」が「真摯に反省し、心から深くおわびする」としています。

一時金の支給対象となるのは、本人が同意したケースを含め、精神障害や遺伝性の疾患などを理由に不妊手術を受けた人で、およそ2万5000人が見込まれています。

一時金は一律320万円で、手術を受けた本人が、法律の施行から5年以内に、住んでいる都道府県に対して請求する必要がありますが、国や都道府県からは通知されません。

精神障害や遺伝性の疾患を理由に手術を受けたことが記録などから明らかな場合のほか、医師や弁護士などで作る国の審査会が医師の診断資料や治療の記録などをもとに審査した結果、手術を受けたと認められれば一時金が支払われます。

また、強制的に不妊手術が行われる事態が二度と繰り返されないよう、国が旧優生保護法を制定したいきさつなどを調査するとしています。

厚労省 一時金受け付け対応に配慮求める

法律の施行を受け、厚生労働省は一時金の請求をする人たちが、高齢だったり障害があったりするケースが多いことを踏まえ、都道府県に対して、受け付ける際の対応に配慮するよう求めています。

具体的には、請求を受け付ける都道府県庁の窓口で、筆談や手話通訳ができるよう態勢を整備するほか、書類の記入が難しい人に対しては、職員が口頭で聞き取って申請書類などを代筆することも認めるとしています。また、一時金の請求に関する専用の電話相談窓口を設置することも求めています。

救済法成立までの経緯

終戦直後の昭和23年から平成8年まで施行された旧優生保護法のもとでは、遺伝性の疾患や精神障害などを理由に不妊手術が行われてきました。

背景には、親の障害や疾患は子どもに遺伝するという考え方があり、法律にも「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」と明記されていました。

これに対し、基本的人権を踏みにじられたとして、去年1月、全国で初めて、不妊手術を受けた宮城県の60代の女性が国に損害賠償を求める裁判を起こしました。

現在、札幌や仙台、大阪、神戸など全国7つの地方裁判所で、合わせて20人が同様の裁判を起こしています。

こうした動きを受けて、去年3月、救済策を検討するために、自民・公明両党の作業チームと、野党も参加した超党派の議員連盟がそれぞれ発足し、議員立法の形式で救済法案を提出することを目指して、検討を進めてきました。

その結果、手術を受けた人たちに一時金320万円を支払うことなどで与野党が合意しました。

これを受けて、衆議院厚生労働委員長が提案する形で法案が国会に提出され、今月11日に衆議院を通過していました。

全国の国家賠償訴訟の状況

旧優生保護法をめぐっては、法律のもとで不妊手術を受けたと訴える人たちが、各地で国を相手に損害賠償を求める裁判を起こしています。

弁護団によりますと、去年1月に仙台で最初の訴えを起こして以降、札幌や東京、それに大阪など、合わせて7つの地方裁判所で男女20人が、1人当たり1100万円から3850万円の損害賠償を求めています。

一方で、今回成立した救済法では、当事者に支払う一時金は320万円となっていて、裁判での請求金額と大きな隔たりがあります。

首相「真摯に反省し深くおわび」

安倍総理大臣は「多くの方々が、生殖を不能にする手術などを受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてこられたことに対して、政府としても旧優生保護法を執行していた立場から真摯(しんし)に反省し、心から深くおわび申し上げる」としています。

そのうえで「法律の趣旨や内容について、広く国民への周知などに努めるとともに、着実に一時金の支給が行われるよう全力を尽くしていく」としています。

そして「このような事態を二度と繰り返さないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、政府として最大限の努力を尽くしていく」としています。

官房長官「政府としても真摯に反省」

菅官房長官は、午前の記者会見で「法律の前文では、旧優生保護法のもと、多くの方々が生殖を不能にする手術などを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、われわれはそれぞれの立場において真摯に反省し、心から深くおわびするとされており、政府としても真摯に反省し心からおわびを申し上げたい」と述べました。

そのうえで菅官房長官は、このあと安倍総理大臣が談話を発表することを明らかにしました。

厚労相「着実な支給に向け全力で取り組む」

根本厚生労働大臣は、国会内で記者団に対し「多くの方が、特定の疾病や障害があることを理由に生殖を不能にする手術を強いられ、心身に多大な苦痛を受けてこられた。旧優生保護法は、旧厚生省が所管し執行していたことから、真摯に反省し、心からおわび申し上げる」と述べました。

そのうえで「対象の方の多くが障害者であることを踏まえ、地方自治体などの協力を得て、一時金の支給手続きについて、十分かつ速やかに周知を行っていく。厚生労働大臣として、着実な一時金の支給に向け全力で取り組みたい」と述べました。

自民 岸田氏「一時金の着実な支給を」

自民党の岸田政務調査会長は記者会見で、「多大な苦痛を受けた被害者を救済するための法律が成立しよかった。政府には、一時金の着実な支給に向けて全力で取り組んでもらわなければならない」と述べました。

公明 山口氏「一日も早い救済を」

公明党の山口代表は、党の参議院議員総会で「幅広い合意を作り出して解決の道筋をつけた。つらい目にあった方々に対する救済を一日も早く遂げていくことが大切だ」と述べました。

公明党の石田政務調査会長は記者会見で、「被害に遭われた方に心からお見舞いを申し上げたい。与党で作業チームを作り、超党派の議員連盟でもいろいろと調整し、立法府として最大限の努力をしたと確信している」と述べました。

共産 穀田氏「人権回復に全力尽くしたい」

共産党の穀田国会対策委員長は記者会見で、「心身に多大な苦痛を受けてきた被害者の皆さんに対し、立法府の一員として、責任を痛感するとともに、改めて反省とおわびを申し上げたい。これを第一歩として、二度と繰り返さないという決意のもと、引き続き、被害者の人権回復のために全力を尽くしていきたい」と述べました。

超党派議員連盟「これで終わりでない」

救済策を検討してきた与党の作業チームと野党を含む超党派の議員連盟は国会内でそろって記者会見しました。

この中で、超党派の議員連盟の会長を務める自民党の尾辻元参議院副議長は、「関係する皆さんがお年を召しており、まずはおわびを示したいという思いで作業してきた。短い期間で成立させることができたことは大変よかった」と述べました。

一方、おわびの主体を「我々」としたことについて、議員連盟のメンバーで立憲民主党の西村智奈美衆議院議員は「主に念頭に置いているのは旧優生保護法を制定した立法府と、執行した行政府だ。戦後初めて議員立法で成立した法律への立法府の責任は重く、けじめをつけなければいけないという思いがあった」と述べました。

また旧優生保護法をめぐる裁判で求められている損害賠償額と一時金の額に隔たりが大きいことについて、西村氏は、「いろいろな意見があると思うが、スウェーデンの例を参考に、今の物価に照らしてできるだけ高い額ということで320万円とした。当事者が高齢になっていて、一日も早く成立させたいという思いがあった」と説明しました。

そのうえで、尾辻氏は「この法律ができて、これで終わりというつもりは全くない。細かなことで皆さんのご意見を十分にくめているのだろうかと思っている部分はある。今後の調査の中で解決していければいい」と述べました。

不妊手術受けた男性は

都内に住む76歳の男性は、非行を理由に宮城県の福祉施設に入所していた14歳の時に、突然、施設の職員から「これから病院に行く」とだけ告げられて、病院に連れて行かれ、不妊手術を受けさせられたといいます。

この時、何の手術を受けるのかは親などから知らされず、およそ1か月後、施設の先輩の話から自身が受けたのは不妊手術だったことを知りました。

男性は29歳の時に結婚し妻は子どもを望んでいましたが、手術によって子どもを持つことができないことを打ち明けられずにいました。

男性は6年前、妻が亡くなる直前に手術のことを打ち明けると、妻は責めることなく、「きちんとごはんを食べてね」などと言って、最後まで男性のことを気遣いながら、息を引き取ったといいます。

男性はニュースで、旧優生保護法をめぐって国を訴える動きが出てきたことを知り、医療機関で自分の体に残る手術の痕を確認したうえで、去年5月、国を相手に裁判を起こしました。

また、去年12月には手術を受けた当事者たちが「被害者の会」を設立し、男性はこの会の共同代表を務め、先頭にたって国に謝罪を求め続けています。

男性は「手術のことを長年誰にも言うことができず、つらい思いをしてきました。妻にも申し訳ない気持ちでいっぱいです。私たちは人生をやり直すことはできず、一生この問題を背負って生きていくことになります」と話しています。

そして、24日成立した救済法については、「問題の解決に向けた第一歩だが、国の謝罪が明記されていないなどまだ不十分な点があるので、見直しを求めていきたい」と話しています。

原告団「内容不十分 見直しを」

旧優生保護法のもとで不妊手術を受けた人たちを救済するための法律が成立したことを受けて、国を相手に裁判を起こしている原告や弁護団が、24日都内で会見を開き、法律の内容が不十分だとして見直しを求めました。

会見には宮城県の70代の男女と東京都の76歳の男性の原告3人や、当事者の家族、それに全国弁護団のメンバーなどが出席しました。

この中で、新里宏二弁護士は救済法が成立したことについて「長年放置されてきた被害に国が向き合い、短期間で法律が成立したことは、被害回復の第一歩として歓迎したい」とした一方で、内容には不十分な点もあると指摘しました。

具体的には、おわびの主体が「我々」となっていることについて、国による謝罪が明記されていないと批判しています。

安倍総理大臣が24日、「政府として真摯(しんし)に反省し、心から深くおわび申し上げる」などとした談話を発表しましたが、新里弁護士は国による謝罪は法律に明記すべきだと訴えています。

また、今回の法律で一時金の金額が320万円となっていることについて、「被害の実態に見合わない低い金額だ」としています。

さらに、手術を受けた当事者に対し行政側が個別の通知を行わず、救済を受けるには、本人の申請が必要とされていることについて、「自分が不妊手術を受けたことを知らない人が救済されなくなる」と指摘しています。

全国優生保護法被害弁護団の新里宏二弁護士は「被害者の声が国会を動かし、救済への扉が開いた第一歩として評価はするが、まだ不十分な点が多い。裁判の判決も踏まえて、法律の見直しを求めていきたい」と話しています。

当事者団体の共同代表を務め、14歳の時に手術を強制されたという都内に住む76歳の男性は「強制手術は国が進めてきたことを明らかにするため、法律に『国の謝罪』を明記してほしい。被害者の立場としてはまだ納得できる法律ではない」と話しています。

16歳の時に手術を強制されたとして、20年以上、国に謝罪と補償を求める活動を続けてきた、宮城県の70代の女性は、「法律ができたとしても私の人生は返ってこない。16歳に戻れるなら人生を返してもらいたい」と話しています。

裁判は継続 弁護団が会見 神戸

旧優生保護法のもと不妊手術を受けさせられた人を救済するための法律が成立したことを受けて、神戸地方裁判所で国に賠償を求める裁判をしている原告の弁護団が記者会見し、今後も裁判を続ける方針を明らかにしました。

神戸地方裁判所では、聴覚に障害のある人など5人が、旧優生保護法のもと不妊手術を強制されたとして国に謝罪と賠償を求めて裁判をしています。

旧優生保護法のもとで不妊手術を受けさせられた人を救済するための法律が、24日成立したことを受けて原告の弁護団が記者会見しました。

藤原精吾団長は「国は、裁判で、旧優生保護法が憲法に違反するかどうか答える必要はないとしており、弁護団としては、憲法に違反する法律を生み出した背景を解明していきたい」と述べ、裁判を続ける方針を明らかにしました。

そのうえで、法律についての原告のコメントを公表しました。

このうち聴覚障害のある兵庫県明石市の小林喜美子さん(86)と夫の寳二さん(87)は、「夫婦2人で長い間、つらい思いをしてきたのに、手術を受けた本人しか補償を受けられないのはおかしいと思います」としています。

また、神戸市の80代の男性と妻は「不妊手術を受けさせられて大切なものを奪われました。一時金を払って終わりにするのではなく、被害者のことを考えた真の法律を作ってほしい」とコメントしました。

先天性の脳性まひのある神戸市の鈴木由美さん(63)は、「残念ながら、法律は、私たちの気持ちに沿ったようには感じられません。新しい法律ができても、国がきちんと謝罪し、対応するまでは闘いたい」としています。