北方領土問題解決に向け
粘り強く交渉 岸田首相
「北方領土の日」の7日、返還を求める全国大会が開かれ、岸田総理大臣は領土問題の解決に向け粘り強く交渉を進めていく考えを強調しました。
「北方領土の日」は1855年2月7日に北方四島を日本の領土とする条約がロシアとの間に結ばれたことにちなんで定められました。
返還を求める全国大会は新型コロナの影響で去年と同様、会場の参加者を絞って開かれました。 この中で岸田総理大臣は「戦後76年が経過した今もなお北方領土問題が解決されず、日本とロシアの間に平和条約が締結されていないことは誠に遺憾だ」と述べました。
そのうえで日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速するとした安倍元総理大臣とプーチン大統領による2018年のシンガポールでの合意などを踏まえ、粘り強く交渉を進めていく考えを強調しました。
そして「国民一人一人が関心と理解を深め、政府と国民が一丸となって取り組むことが不可欠だ。高齢になる元島民の方々の思いをしっかりと胸に刻み、取り組みを進めていく」と述べました。
また林外務大臣は「元島民が高齢となっている現実を重く受け止め、次の世代に先送りせず領土問題を解決し、平和条約を締結する方針で粘り強く交渉を進めていく」と述べました。
大会では「北方四島がロシアによって法的根拠のないまま76年にわたって占拠され続けていることは許されない」などとして四島の返還実現を求めるアピールを採択しました。
元島民代表 奥泉さん みずから詠んだ短歌披露
択捉島出身の元島民、奥泉一子さん(82)は7日、東京で開かれた北方領土返還要求全国大会に北海道釧路市からリモートで参加しました。
元島民の代表としてあいさつした奥泉さんは「帰りゆく 日のあるなれや 択捉島の わが生れし村(あれし) トシルリの地に」というみずから詠んだ短歌を披露しました。
奥泉さんは、択捉島北部の太平洋側にある蘂取村のトシルリという集落で生まれました。
祖父が最初に住み着いて開拓した集落で、一家はノリの漁をして生計を立てていたといいます。
1945年8月に旧ソビエト軍が侵攻し、その2年後、1947年9月に奥泉さん一家は島から引き揚げました。
当時2歳だった妹は引き揚げる途中に脱水症状となり亡くなったということです。
樺太経由で函館に渡り、その後、岩手県などを転々として、現在は釧路市で暮らしています。
過去に3回、自由訪問などの枠組みで故郷のトシルリを目指し、岸まで5メートルのところまで近づくことはできましたが、悪天候で波が高かったりコンブが船に絡まったりして上陸できませんでした。
今に至るまで一度も故郷の土を踏むことは叶わないままです。
奥泉さんは、7歳のときに引き揚げたため島の記憶はほとんどありませんが、故郷に帰れずに亡くなった祖父や父の無念な気持ちも込めて、択捉島を題材にした短歌を100首、詠んできました。
このうち「流れゆく 星に願いは ただひとつ ふるさと千島よ わがエトロフよ」という短歌は37年前に初めて詠んだ歌で、島に帰りたいという当時の強い願いを表現したということです。
奥泉さんは、北方四島への交流事業が再開されれば、参加して、故郷トシルリの生家跡で短歌を詠みたいと考えています。
奥泉さんは、大会でのあいさつを終えたあと「亡き家族の思いが乗り移ったような気がして胸がいっぱいになりました。故郷で最後の歌を詠むことがいちばんの願いです」と話していました。
北海道 根室で住民大会 早期の返還訴える
「北方領土の日」の7日、北方四島に近い北海道根室市で住民大会が開かれ、元島民の平均年齢が86歳を超える中、早期の返還を訴えました。
「北方領土の日」は1855年2月7日に北方四島を日本の領土とする条約が日本とロシアの間で結ばれたことにちなんで定められ、根室市では毎年この日に元島民などが参加して住民大会が開かれています。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、去年に続いてことしも一般の参加は見送って登壇する来賓など20人余りに絞り、大会の様子はオンラインで配信されました。
この中で歯舞群島多楽島出身の武隈聰さん(78)が元島民を代表してあいさつし「われわれ元島民には残された時間がない。政府には元島民が1人でも多く生きているうちに返還の道筋をつける、力強い外交交渉を求める」と訴えました。
また返還運動の先頭に立ち、5日に79歳で亡くなった千島歯舞諸島居住者連盟 根室支部長の宮谷内亮一さんに出席者が哀悼の意を示しました。
最後は元島民の2世らが壇上に上がり「北方領土を返せ」と力強くシュプレヒコールを上げました。
ことしは元島民などと北方四島に住むロシア人が入国ビザを取得せずに相互に訪問する「ビザなし交流」の開始から30年の節目の年ですが、新型コロナウイルスの影響で去年まで2年続けて交流事業は中止となりました。
日ロ間の領土交渉も滞っていて、元島民の平均年齢が86歳を超える中、領土交渉の早期の進展や交流事業の再開が焦点となっています。
千島歯舞諸島居住者連盟の河田弘登志副理事長(87)は「コロナ禍で返還運動はこれまでどおりにはいかないが、気持ちの面では返還を求める思いがこれまで以上に大きくなっている。自分も元島民の平均年齢を超えているが、元気なうちは頑張りたい」と話していました。
交流事業 コロナ影響で停滞
元島民などが北方四島を訪問する交流事業は、新型コロナウイルスの影響で2年連続ですべて中止になり、停滞を余儀なくされています。
元島民などによる「北方墓参」や「ビザなし交流」などの交流事業は例年、5月から10月まで行われますが、感染拡大の影響でおととしと去年はすべての日程が中止となりました。
島を訪問することがかなわない人たちの気持ちに応えようと、元島民らでつくる団体は去年10月、北方領土をのぞむ根室市の納沙布岬で慰霊祭を行ったほか、羅臼町や別海町の元島民らが参加して船から慰霊する「洋上慰霊」を行いました。
地元では交流事業に使う専用の船「えとぴりか」を改修して感染対策をとるなど再開に向けた準備を進めていますが、感染状況やロシア側の出方は見通せない状況です。
また北方領土問題の解決に向けた動きは、岸田政権の発足後も対面での日ロ首脳会談が開かれないなど停滞しています。
ロシアのプーチン大統領は去年9月、日本をはじめ外国企業からの投資を誘致しようと北方領土に関税を免除する区域を導入すると発表しましたが、日本政府は日ロ両国による共同経済活動の趣旨と相いれず遺憾だとしています。
ロシアが国後島周辺の領海で8日から射撃訓練 日本は抗議 松野官房長官は7日午前の記者会見で、ロシア政府が北方領土の国後島周辺の日本の領海で8日から来月まで断続的に射撃訓練を行うためとして航行警報を出したことを明らかにしました。日本政府は外交ルートを通じ抗議しました。
この中で松野官房長官は、ロシア政府が北方領土の国後島南東の日本の領海で8日から来月1日まで断続的に射撃訓練を行うためとして航行警報を出したことを明らかにしました。
そのうえで「外交ルートを通じて、本件の射撃訓練を含む北方四島におけるロシアによる軍備の強化はこれらの諸島に関するわが国の立場と相いれず受け入れられない旨、抗議した」と述べました。
一方、松野官房長官はこの時期にロシア側が射撃訓練を行う意図について「ロシア側の意図については答えるのは控えたい」と述べました。