【詳しく解説!】
日米首脳会談のポイントは?焦点は?

5月23日に東京で行われる日米首脳会談。
岸田総理大臣とバイデン大統領の対面での本格的な会談は今回が初めてです。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、覇権主義的な行動を強める中国、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮問題、新型コロナウイルス対策など、外交課題が山積する中の今回の日米首脳会談。
会談のポイントや基礎知識を詳しく解説します!

ーーーーー もくじ ーーーーー
◆岸田総理大臣とバイデン大統領
◆ポイント①ロシアの軍事侵攻 制裁は
◆ポイント②ウクライナ情勢めぐる首脳外交
◆ポイント③中国 覇権主義的行動強める
◆ポイント④北朝鮮 ミサイル発射繰り返す
◆ポイント⑤厳しさ増す日本の安全保障環境
◆ポイント⑥日米同盟の拡大抑止 核の傘とは
◆ポイント⑦新型コロナウイルスの水際対策
◆ポイント⑧IPEFとTPP 経済連携は
◆ポイント⑨気候変動問題 どうなる脱炭素
◆過去の日米首脳会談ではパフォーマンスも

きょう日米首脳会談 抑止力と対処力 強化する方針確認へ

岸田総理大臣は23日、日本を訪れているアメリカのバイデン大統領との日米首脳会談に臨みます。ウクライナ情勢をめぐって緊密な連携を確認するとともに、覇権主義的行動を強める中国などを念頭に、日米両国の抑止力と対処力を強化する方針を確認する見通しです。

岸田総理大臣は、就任後初めて日本を訪れているアメリカのバイデン大統領と、23日東京 港区の迎賓館で日米首脳会談を行います。

会談で両首脳は、ウクライナ情勢をめぐって意見を交わし、引き続きG7=主要7か国で結束し、ロシアに対する厳しい制裁や、ウクライナへの支援を継続する方針を確認するものとみられます。

また、ロシアの軍事侵攻や中国の覇権主義的行動など、法の支配に基づく国際秩序が挑戦を受けているという認識のもと、日米同盟を一層揺るぎないものとする方針で一致し、中国などを念頭に地域の安全保障を強化するため、日米両国の抑止力と対処力を強化する方針を確認する見通しです。

そして岸田総理大臣は、弾道ミサイルに対処するための「反撃能力」の保有や防衛費の増額を求める自民党の提言も踏まえ、防衛力を抜本的に強化する考えを伝えるほか、アメリカの核戦力と通常戦力の抑止力によって日本を守る「拡大抑止」の強化を確認したい考えです。

また、核・ミサイル技術の開発を強化する北朝鮮への対応をめぐって、日米両国や、韓国を加えた3か国で緊密に連携していく方針を確認するものとみられます。

さらに、▽ウクライナ情勢を受けたエネルギーの安定的な供給の在り方や、▽世界的に不足している半導体の確保や研究開発に向けた協力の強化を確認するほか、▽ワクチンを含む新型コロナ対策や、▽気候変動対策などをめぐっても意見を交わすものとみられます。

バイデン大統領は、日本滞在中、中国への対抗を念頭においたIPEF=(アイペフ)インド太平洋経済枠組みの立ち上げに向けた協議の開始を表明する見通しで、岸田総理大臣は参加の意向を伝える方向で調整を進めています。

バイデン大統領 IPEFの協議開始も表明か

就任後初めて日本を訪れているアメリカのバイデン大統領は23日、岸田総理大臣と首脳会談を行うほか、みずからが提唱する新たな経済連携IPEF=インド太平洋経済枠組みの立ち上げに向けた協議の開始も表明する見通しで、外交上の最大の課題とする中国を念頭にインド太平洋地域を重視する姿勢を改めて強調する見通しです。

就任後初めてアジアを歴訪しているアメリカのバイデン大統領は22日、最初の訪問国、韓国から東京のアメリカ軍横田基地に到着しました。

バイデン大統領は、23日行われる岸田総理大臣との首脳会談で覇権主義的な行動を強める中国を念頭に、同盟国・日本との安全保障や経済安全保障などさまざまな分野での連携を確認したい考えで、ホワイトハウスは会談について声明で「自由で開かれたインド太平洋にむけた共通の構想を進める」としています。

午後には、みずからが提唱する新たな経済連携IPEF=インド太平洋経済枠組みの立ち上げに向けた協議の開始も表明し、中国を念頭にインド太平洋地域への関与を深める姿勢を改めて強調する見通しです。

IPEFには日本や韓国が参加の意向を伝える方向で調整を進めていますが、ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は22日、台湾は含まれないことを明らかにしました。

中国を刺激したくない東南アジアの国々が参加しやすくするための配慮とみられ、より多くの国々による立ち上げを優先した形です。

岸田総理大臣とバイデン大統領

岸田総理大臣は、4年半余り務めた外務大臣当時、オバマ政権の副大統領だったバイデン大統領と親交を深めてきました。

総理大臣就任から一夜明けた去年10月5日の午前には、バイデン大統領と電話会談を行いました。
岸田総理大臣にとって外国首脳と行った最初の電話会談でした。

翌11月、イギリスで開かれた気候変動対策の国連の会議、COP26の場では、短時間ではあったものの対面で会談しました。
できるだけ早く時間をかけて会談できる場を設けることで一致し、岸田総理大臣は、早期のアメリカ訪問を目指しましたが、新型コロナの感染拡大やアメリカ国内の政治情勢なども影響し、調整は難航しました。

そして、ことし1月、オンラインで1時間余り会談。
バイデン大統領を日本に招き、オーストラリアとインドを加えた4か国の枠組み、「クアッド」の首脳会合をことし前半に日本で開催する方針を確認しました。

ことし3月、ウクライナ情勢をめぐってベルギーで開かれたG7=主要7か国の首脳会議に出席した際も、対面で短時間会談しました。

岸田総理大臣とバイデン大統領の対面での会談は、これまで短時間にとどまっていて本格的な会談は今回が初めてとなります。

ポイント①ロシアの軍事侵攻 制裁は

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり日本政府は、ことし2月以降、G7と足並みをそろえる形で、ロシアや同盟国のベラルーシに対する制裁を強化してきました。

日本国内にある資産の凍結では、これまでに713人の個人と62の団体を対象としています。

個人には、プーチン大統領やラブロフ外相らロシア政府の関係者、プーチン政権に近いとされる「オリガルヒ」と呼ばれる富豪、それに、ベラルーシのルカシェンコ大統領らが含まれています。
団体では、ロシアの中央銀行やロシア最大の金融機関「ズベルバンク」、民間最大の金融機関「アルファバンク」などが対象となっています。
軍事関連団体への輸出の禁止措置は、ロシアとベラルーシの造船所や研究施設など203の団体が対象となっています。

特定品目のロシア向けの輸出も禁止しています。
対象は、半導体など軍事能力の強化に資する一般向け製品や、石油の生産設備、宝石や酒などのぜいたく品、量子コンピューターや3Dプリンターなどです。

ロシア向けの新規の投資も禁止しています。

さらに、ロシアからの輸入も規制していて、機械類や一部の木材、ウォッカなどの輸入を禁止しています。

そして、G7と足並みをそろえ、ロシアへのエネルギーの依存度を低下させるため、石炭の輸入を段階的に削減し最終的に禁止することに加え、石油も原則禁輸する方針で、今後、輸入の削減時期などを検討することにしています。

また、政府は、貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」を撤回し、ロシアからの輸入品への関税を引き上げる措置も実施しています。
日本政府としては、引き続き、アメリカをはじめとする各国と連携し、ロシアへの圧力を強めていく方針です。

ポイント②ウクライナ情勢めぐる首脳外交

ことし2月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して以降、岸田総理大臣は、各国の首脳らと対面やオンラインなどで会談を重ねてきました。

G7の取り組みを重視していて、3月にはベルギーでの首脳会議に出席するなど、5回にわたり、G7関連の会議に参加しました。
そして、プーチン大統領をはじめとする政府関係者やロシアの銀行などを対象とした資産の凍結、貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」の撤回など、G7各国と協調して厳しい制裁措置の実施を表明しました。

また、G7各国首脳と個別の会談も行いました。
ドイツ、イタリア、イギリスの各首脳とは対面で会談。アメリカ、カナダとは海外の訪問先で短時間会談し、フランスとも電話会談を行いました。

さらに岸田総理大臣は、アジア唯一のG7メンバーとしてアジア各国の首脳とも会談を重ねています。
3月にはインドとカンボジア、大型連休期間中にはインドネシア、ベトナム、タイを相次いで訪問し、ウクライナ情勢をめぐって意見を交わしました。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領とは、侵攻後、電話会談を3回行いました。
緊急人道支援や借款を行うこと、それに、自衛隊が保有する防弾チョッキやヘルメットを提供することなどを説明しました。

ポイント③中国 覇権主義的行動強める

首脳会談では、覇権主義的行動を強める中国への対応が主要な議題の1つとなります。

両首脳は、中国が東シナ海や南シナ海への進出を強めていることに深刻な懸念を示し、いかなる地域でも力による一方的な現状変更は認められないという認識を共有するものとみられます。
そして、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力を推進していく方針で一致するとともに、日米両国で抑止力と対処力を強化する方針を確認するものとみられます。

また、沖縄県の尖閣諸島がアメリカの防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることをあらためて確認する見通しです。

一方で、バイデン政権は、中国が、将来的に、軍事力を背景に、「核心的利益」と位置づける台湾の統一をはかることへの警戒を強めていることから、台湾をめぐるやりとりも焦点の1つとなります。
このほか、新疆ウイグル自治区や香港などの人権問題も扱われ、深刻な懸念を共有する見通しです。

ポイント④北朝鮮 ミサイル発射繰り返す

首脳会談では弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮への対応も主要な議題の1つとなります。

両首脳は、北朝鮮による核・ミサイル技術の開発の強化は国際社会への明白かつ深刻な挑戦だという認識を共有し、国連安保理決議に沿った北朝鮮の完全な非核化に向け、日米両国や韓国も含めた3か国で緊密に連携していく方針を確認するものとみられます。

またアメリカ当局が、バイデン大統領の韓国、日本の訪問中にも北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射や核実験に踏み切る可能性があるという見方を示していることから、最新の情勢を踏まえ協議する見通しです。

さらに、岸田総理大臣は、拉致問題についても、改めて解決に向けた理解と協力を求め、明確な支持をとりつけたい考えです。

一方、慰安婦問題などをめぐって日韓関係が冷え込む中、日本政府が新たに就任したユン・ソンニョル大統領との間で関係改善を模索するとしていることについて、バイデン大統領が発言するかどうかも注目されます。

ポイント⑤厳しさ増す日本の安全保障環境

政府は、防衛力を抜本的に強化するため「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の安全保障関連の3つの文書を、ことしの年末までに改定する方針で、同盟国のアメリカと双方の戦略をすり合わせていくことにしています。

改定に向けて、自民党は先月、政府への提言をまとめました。
具体的には、「敵基地攻撃能力」という名称を「反撃能力」に変更した上で保有し、対象範囲は敵のミサイル基地に限定せず、指揮統制機能なども含めるとしています。
また、防衛費を増額し、GDP=国内総生産に対する割合で2%以上とするNATO=北大西洋条約機構の加盟国の目標も念頭に、防衛力の抜本的な強化に必要な予算の確保を5年以内に目指すとしています。

先の日米防衛相会談では、岸防衛大臣が、自民党の提言も念頭に、日本の防衛力を抜本的に強化する考えを伝え、オースティン国防長官もこれを歓迎し、日米双方の戦略をすり合わせていくことで一致しました。

ポイント⑥日米同盟の拡大抑止 核の傘とは

日本と核兵器保有国のアメリカは同盟関係にあります。

日米同盟の「拡大抑止」とは、アメリカの核戦力を含む抑止力によって日本を守るという考え方です。
日本は、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という「非核三原則」を堅持しており、アメリカのいわゆる「核の傘」で守られています。

今月、アメリカの国防総省で行われた日米防衛相会談で、オースティン国防長官は「日本に対する、核を含めたアメリカの拡大抑止への関与は揺るぎないものだ」と述べました。
岸防衛大臣は「現下の国際情勢では、核抑止が、信頼でき、強じんなものであり続けるため日米間の取り組みが従来にも増して重要だ」として「拡大抑止」の重要性について認識を共有しました。

ポイント⑦新型コロナウイルスの水際対策

オミクロン株の世界的な感染拡大で去年11月に強化された日本の水際対策。
感染状況なども踏まえ段階的に緩和されています。

政府はことし3月に、厳しすぎるとの指摘もあった外国人の新規入国の停止措置を観光客を除いて解除しました。
1日あたりの入国者数に5000人の上限を設け、入国を再開させました。
その後、入国者数の上限は、3月中に7000人、先月には1万人と、徐々に引き上げられました。
こうした対応に経済界などからは「全面的な受け入れ再開が進む各国と比べて対応が遅く、経済再生の動きから日本が取り残される」として、さらなる緩和を求める声が出ています。

こうしたなか、岸田総理大臣は、先にイギリスで行った講演で、来月には、ほかのG7並みに円滑な入国ができるよう対策を緩和する方針を示しました。

政府は、来月から1日あたりの入国者数の上限を2万人に引き上げることにしています。
また、海外からの入国者に対する検疫措置は、入国する際に行われたこれまでの検査の陽性率など、流入リスクに応じて緩和することになり、8割程度の入国者は検査や待機措置が免除される見通しです。

岸田総理大臣としては、アメリカも含めた各国に、日本が感染対策とのバランスを取りながら、世界に開かれた貿易・投資立国としての取り組みを進める方針を説明し、理解を得たい考えです。

ポイント⑧IPEFとTPP 経済連携は

「IPEF(アイペフ)=インド太平洋経済枠組み」は、去年10月に、アメリカのバイデン大統領が、東アジア首脳会議で提唱した、新たな経済連携の枠組みです。
台頭する中国を念頭に、インド太平洋地域への関与を強めるねらいから、アメリカ側は、日本やASEAN=東南アジア諸国連合、それにオーストラリアなど、各国に参加をよびかけています。

これまでのところ、半導体などの供給網=サプライチェーンの強化や、質の高いインフラへの投資などでの協力が想定されているということです。
ただ、現時点では、関税の引き下げなど、市場アクセスの向上は含まれておらず、具体的な協定の形になるかどうかなど、その全体像は明らかにはなっていません。

インド太平洋地域の経済連携では、関税の引き下げなど市場アクセスの向上が特徴の11か国による協定、TPPがあります。
日本が結ぶ協定の中では、貿易自由化の水準が最も高いものです。
日本政府は、IPEFとTPPは性質が異なり、併存できるものだとしていて、アメリカ側の参加の呼びかけに応じる方針です。

一方で、TPPの拡大も重要だとして、交渉を主導していたにもかかわらず、トランプ政権時代に「自由貿易は雇用を奪う」として協定を離脱したアメリカに重ねて復帰を求めています。
しかし、バイデン政権も「国内の労働者の保護を優先する」として、復帰には否定的で、IPEFをインド太平洋地域での主要な経済連携の枠組みにしたい思惑もあるものとみられ、今回の首脳会談で焦点の1つとなりそうです。

ポイント⑨気候変動問題 どうなる脱炭素

今回の首脳会談では、気候変動問題も取り上げられる見通しです。

日本は2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度に比べて46%削減する目標を掲げ、2050年までに排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するとしています。

一方、アメリカは気候変動問題をバイデン政権の重要課題と位置づけ、2030年までに、温室効果ガスの排出量を2005年に比べ50%から52%削減し、2050年までの実質ゼロを目指すとしています。

去年11月にイギリスで開かれた気候変動対策の国連の会議COP26では世界の平均気温の上昇を1点5度に抑える努力を追求するなどとした成果文書が採択されました。

ウクライナ情勢を受けて、日本はロシアへのエネルギー依存度を減らすため、安全を確保した原子炉の有効活用を図るとともに、再生可能エネルギーの導入を推進する方針で、今回の首脳会談では脱炭素関連の技術協力についても協議が行われる見通しです。

また、気候変動問題では温室効果ガスの世界最大の排出国である中国の協力も必要となるため、中国へのアプローチをめぐっても意見が交わされる可能性もあります。

過去の日米首脳会談ではパフォーマンスも

日米の首脳は、これまで、受け入れる側が趣向を凝らして相手をもてなし、個人的な信頼関係を築いてきました。

1983年、中曽根総理大臣は、レーガン大統領を、東京・日の出町に所有していた別荘に招きました。
「ロン」「ヤス」と互いを愛称で呼び合い、中曽根氏がほら貝を吹く姿も話題になりました。

2006年、ブッシュ大統領が、小泉総理大臣を案内したのは、アメリカの国民的歌手、エルビス・プレスリ-の邸宅でした。
プレスリーの大ファンだという小泉氏はサングラスをかけてパフォーマンスを披露。
両首脳の親密ぶりを印象づけました。

安倍総理大臣とトランプ大統領は、共通の趣味のゴルフを通じて、親交を深めました。
2017年11月にトランプ大統領が初めて日本を訪れた際には、松山英樹選手も交えてプレーを楽しみました。

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