成研究会は、どこへいく

まもなく「平成」が終わる。
それでも「平成」の2文字にこだわる派閥がある。
それが竹下派、正式名称を「平成研究会」という。
かつては、党内最大派閥として絶大な力を持っていたが、近年は有力な総裁候補を出せずにいる。
新しい「令和」の時代に、かつての名門派閥はどこに向かうのか。
(政治部 根本幸太郎)

名前は変えない

「平成研究会の名前を変えないのは、大前提だ」
新元号の発表を間近に控えた3月末、竹下派の会長代行を務める茂木敏充経済再生担当大臣(63)は記者団にこう言い切った。

元号はまもなく、平成から令和にかわる。ちまたでは心機一転、会社の名前に令和を入れる企業が相次いでいるが、平成研究会に迷いはない。
「30年前、官房長官だった小渕さんが新しい元号を発表した。それから、グループとして、さまざまな課題に取り組んできた。今後も、引き続き取り組みたい」
背景には、名門派閥としてのプライドがある。

名門派閥

平成研究会は、かつて政界全体に影響力を及ぼす自民党の最大派閥だった。
派閥の起源は、田中角栄元総理大臣が率いた「田中派」から、竹下登氏が分かれる形で旗揚げした「経世会」にさかのぼる。
経世会は、竹下総理大臣が辞任したあとも、最大派閥として君臨。
「経世会支配」とも言われた。
その後、平成7年に、「平成研究会」に名称を変更。

当時、派閥の会長を務めていたのは、竹下内閣の官房長官として「平成」の元号を発表した“平成おじさん”こと、小渕恵三元総理大臣だった。

橋本龍太郎氏を含め3人の総理大臣を輩出した名門派閥は、党幹事長も務めた野中広務氏や、「参議院のドン」と言われた青木幹雄・元参議院議員会長ら多くの有力議員を擁していた。

ポスト安倍の1人と目される石破茂元幹事長(62)や、安倍政権を支える菅義偉官房長官(70)も、かつては所属していた。

派閥をぶっ壊した男

しかし、平成13年に小泉純一郎氏が総理大臣に就任すると、潮目が変わった。
総裁選挙で、「自民党をぶっ壊す」と訴えた小泉氏は、従来のように閣僚人事などで派閥からの推薦を受けることはせず、派閥の存在感は低下。

小泉氏に「抵抗勢力」と位置づけられた平成研究会のメンバーは、党の執行部から外され、派閥幹部の政治資金問題なども明らかになって、所属議員の離脱が相次ぎ、急速に影響力を失っていった。
派閥幹部の1人は、「小泉氏は、自民党ではなく、派閥政治の中心にいた我々の派閥をぶっ壊した」と振り返る。
これ以来、最大派閥の座は、小泉氏が所属し、安倍総理大臣の出身派閥でもある、今の細田派(正式名称は清和政策研究会)に奪われ、近年、有力な総裁候補を出せずにいた。
こうした状況を変えようと、去年1月、所属する参議院議員が、会長を務めていた額賀福志郎元財務大臣(75)に退任を要求。抵抗する額賀氏に、参議院の実力者、吉田博美参議院幹事長(69)らが派閥から離脱する構えを見せた。

分裂含みの展開となり、派閥の創設者・竹下登氏の弟である、竹下亘氏(72)が会長に就任した。

前途多難な船出

ただ、「竹下ブランド」のもとでも、派閥の立て直しは容易ではなかった。
去年9月の総裁選挙では、衆議院側の多くが安倍総理大臣を支持する一方で、参議院側の多くが石破元幹事長を支持。結束した姿を見せることはできなかった。
また会長の竹下氏は、ことし1月、食道がんを公表し、長期不在を余儀なくされた。

そんな中、会長のお膝元である島根県の知事選挙は44年ぶりの保守分裂選挙に。
竹下会長や、今も派閥に影響力を持つ青木幹雄氏らが擁立した候補は敗れた。
兄で平成最初の総理大臣である竹下登氏が築いた「竹下王国」が揺らいでいる。

会長席に茂木氏が

竹下会長は、不在の間の派閥運営を、会長代行である茂木氏と吉田氏、それに前会長の額賀氏の3人に委ねた。

この3人の関係がどうなのか。マスコミ各社が注目するなか、吉田氏の提案で、週に1回行われる派閥の会合での冒頭のあいさつは、茂木氏が行うことになった。派閥幹部の1人は「吉田さんが年長者でありながら、茂木さんをしっかり立ててくれた」と話す。

ことし初めての会合で、最前列中央の会長席に茂木氏が座り、その横に吉田氏が座った。
これまで吉田氏は最前列には座らず、むしろ最後列、しかも事務所の入り口に近い、いわゆる下座の席を陣取ってきた。
派閥全体に睨みをきかすよう、実力者でありながら下座に座り続けていたのだ。吉田氏の「席替え」は、派閥が結束した姿を見せようとした計らいに見えた。

茂木氏が躍動

その計らいに応じたのか。
「茂木さんは変わった」
派閥関係者からは、こんな声を聞くことが増えた。

茂木氏は「優秀であるがゆえに他人にも厳しい」(派閥幹部)と言われることもあった。それが、最近は若手に気さくに声をかける姿が見られるなど、雰囲気が変わったという。

茂木氏は、これまで経済産業大臣や、党の選挙対策委員長、政務調査会長などを歴任。
現在は、経済再生担当大臣として日米の新たな貿易交渉にあたり、政権の看板政策である全世代型社会保障改革も担当する。

安倍総理大臣から派閥のパーティーで次のように紹介された。
「茂木さんには安倍内閣の枢要な政策を担ってもらっている。昨年、トランプ大統領と夕食を食べている時に『これから日本とアメリカの経済交渉を担当する茂木大臣ですよ』と紹介したら、トランプ大統領が『なかなか手ごわそうだな』と述べられた。あのトランプ大統領が手ごわそうな男だという人は、あまり世の中にはいないのではないか」

派内では、茂木氏を、ポスト安倍候補として総裁選挙に擁立すべきだという声が上がる。
中堅議員が、「内閣改造などの際に、茂木さんが実質的な調整をやってくれていることはみんな知っている」と話すなど、存在感は増している。
茂木氏が派内の議員と積極的に接触する機会を増やしているのは、みずからの足場を固める意味合いもありそうだ。

「総理狙える人材を支える」

茂木氏を「立てた」吉田博美参議院幹事長。23日、引退を発表した。
記者会見で、今後の平成研について、次のように述べた。

「いろいろなことがあったが、平成研として、総理総裁を狙える人材が登場してきて、それを衆参できちっと支えていく、このことが大事なことじゃないかと思っている。みんなで仲良くやっていくことが大事だ」

加藤氏も急浮上

派内にはもう1人、将来の総裁候補として名前が取り沙汰される人物がいる。
茂木氏と同い年の加藤勝信氏(63)だ。
第2次安倍政権発足後、官房副長官や厚生労働大臣などを歴任し、去年、党の重量級ポストである総務会長に就任し、ポスト安倍候補の1人に躍り出た。
加藤氏自身、「常に“高み”を見据えながら進みたい」と意欲を見せる。
茂木氏をライバル視しているか、加藤氏に聞くと、「いやいや、茂木さんは派閥の会長代行。私は派閥の一会員だから」と笑ってかわされた。

加藤氏は、派閥の幹部は務めておらず、派閥運営に深く関わっているわけではない。
安倍総理大臣もパーティーで、「加藤氏はたまに派閥が清和政策研究会ではないかと言われる」と述べて、笑いを誘ったほどだ。

「派内の面倒見がよくない」(派閥幹部)とも言われる加藤氏だが、ことし1月、日本記者クラブで行った記者会見で、派閥と総裁選挙の関係について、次のように語っている。

「いろんなことを進めるには1人じゃ何も出来ないので、1つのかたまりとして活動する基盤は必要だ。派閥もあるかもしれないけれど、そうじゃないところのつながりというものが、それぞれの総裁候補を生み出していくことになると思っている」

所属する派閥だけでなく、派閥横断的な人脈づくりの大切さを指摘した加藤氏。
実際、ほかの派閥の若手議員と積極的に勉強会を開くなど、横のつながりを広げようとしているようにも見える。

平成研はどこへ

現在、56人の議員が所属し、麻生派と並ぶ自民党第2派閥の竹下派。
茂木氏と加藤氏に加えて、派内には小渕優子元経済産業大臣(45)らもいる。

中堅議員には厚生労働行政や安全保障問題など、政策通の議員も多く、所属議員の失言、不祥事も少ない。派閥幹部は「筋肉質な派閥になってきている」と語る。

ただ、ほかの派閥の領袖からは、茂木氏らについて、「ポスト安倍にはまだ遠い」という批評も聞かれ、衆目の一致する総裁候補にはなれていないのが現状だ。
また、会長交代劇や総裁選挙で対応が割れた衆参の所属議員が、今も一枚岩になれていないという見方もある。
かつての名門派閥「平成研究会」は復活するのか。

その答えは、新しい令和の時代に持ち越された。

政治部記者
根本 幸太郎
平成20年入局。水戸局を経て政治部。現在、平成研究会などを担当。