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“沖縄の自立”を新たな経済で ~IT企業経営者 比屋根隆さん~

  • 2024年01月26日

沖縄県内有数のIT企業を経営する比屋根隆さん。いま新たな沖縄経済の仕組みを作ろうと取り組んでいます。ことしから本格的に始める新たなチャレンジにかける思いを取材しました。

(NHK沖縄放送局キャスター 宮城杏里)

こだわり続ける「沖縄の自立」

ソフト開発を手がけるIT企業などを経営する比屋根隆さんです。本格的に企業を立ち上げたのは、大学卒業から間もない26年前。「沖縄の自立」にこだわり続け、さまざまな取り組みに挑戦してきました。

血気盛んですからね。何かこう“馬鹿にされている沖縄県民”というイメージがあって、悲しさとか悔しさとかがあったので、それを見返してやりたいというのが一番初めの原動力です。みんなが笑顔でいられるような社会、みんながチャレンジしているような、チャレンジする人をめっちゃ応援できている社会に、そういう沖縄にしていきたい。

企業を立ち上げた当時、県はIT産業を観光に次ぐ経済の柱にしようと、企業の誘致に力を入れていました。ただ、比屋根さんは違和感を抱いていたと振り返ります。

当初は多かったコールセンター業務

企業誘致するときも「安くて若い人材が沖縄にいますよ」という風なPRをされていたので、すごく悲しくなりますよね。沖縄のいわゆるIT産業っていうのは東京からの下請け構造になっていて、安い安いというふうにいわれていた。それが悔しいなと思って。沖縄にいても、人件費が安いではなくて、いいものをちゃんと作って、東京と同じような金額でちゃんと仕事ができるようになりたいと。

自立には人材育成が必要

比屋根さんの会社でのミーティング(2015年)

「沖縄から全国で通用するサービスを作る必要がある」

比屋根さんは、県外や海外の企業向けにアプリの開発などを始めます。創業時3人だった社員は、5年ほどで10倍以上に。年商は3億円を突破しました。

そして、沖縄経済の自立には人材育成が必要だと考えた比屋根さん。中学から大学までの世代の若者を、最先端のIT企業が集結するアメリカのシリコンバレーへ派遣する取り組みを始めます。これまで15年続けてきて、海を渡った若者は100人以上に上ります。みなが安定志向になるのではなくチャレンジする人材を少しでも増やす必要があると考えたからです。

県内の大学生を面接すると、ほぼ県内志向だし、安定志向だしという状況を目の当たりにしていくんですよね。沖縄をよくしていこうと思ったときに、やっぱりよいリーダーを作るということです。リーダーは政治の分野にも必要でしょうし、公務員にも必要でしょうし、観光分野にも必要でしょうし、起業家としても必要なんですよね。

新たなファンド「インパクト投資」

比屋根さんはことし、新たなプロジェクトを始めようとしています。目指すのは補助金からの自立。そのために全国でも珍しい「インパクト投資」と呼ばれるファンドをスタートさせるのです。

通常のファンドの目的は、投資家から集めたお金を増やすことです。

これに対して、新たなファンドの目的は、お金だけでなく社会によい影響を与えることです。投資先は「沖縄の課題解決を試みる企業」で、スタートアップ企業も対象になります。その際に、企業が課題を解決できたか可視化できるような仕組みを作ることがこれまでとは異なる特徴です。

比屋根さんの会社も投資先の選択や、経営をサポート。県内の銀行や県内外の企業から2億円ほどを調達しています。

世の中には経済的価値と社会的価値というのがあるんですけど、どちらかというと経済的価値ばかりに目がいっているんですね。経済的価値というのは測りやすい、見えやすい。一方、社会的価値は見えづらかったり、評価しづらかったりするもの。そこで、どれだけ社会的によいインパクトを出すかというのをあらかじめ起業家と話をして、そこに対してお金も出して、経済的なリターンも出しながら、社会的にマイナスだったものがどれだけプラスに転じたのかも、しっかり評価、計測していく。

離婚率が高い沖縄でのシングルマザー向けのIT人材育成支援や、貧困からなる学力低下の問題を解決するための学生支援などを行う企業に投資する予定です。NPOの活動などを補助金で支える方法から、長期的に続くビジネスに転換することで、沖縄の自立につながると期待しています。

沖縄って課題がたくさんあって、解決に向けて補助事業を活用してやっているところが、まだ多いですよね。補助金って時限措置なので、補助金ではなくて、民間の経営の力と企業の力で持続可能な事業モデルを作って、長期的に社会課題解決していきましょうという流れが、とても大事になると思うんですよね。沖縄の社会課題を補助金があってもなくても持続可能な形で継続的に解決できるプレイヤーを増やして、沖縄の課題をどんどん減らしていきたい。

沖縄を変えるアクションを

このインパクト投資は、SDGsの考えが浸透している海外では、すでに導入が進んでいますが、国内ではほとんど例がなく経済産業省も注目しているそうです。比屋根さんは、沖縄が全国のモデルケースとなるよい機会だと話していました。

さらに、比屋根さんはリーダーやスタートアップ企業を応援する環境作りも重要だと考えています。そのため、将来的にはインパクト投資を発展させて、県民ひとりひとりがお金を出してこうした人たちを応援する、県民ファンドも作りたいと話しています。中学生でも参加できる100円単位で投資する新しい投資の形で、2030年までの始動を目指しています。

いま中学生や小学生はSDGsの授業を受けていて、地域や世界や地球をよくしていくためにひとりひとりのアクションが重要だというのが、若い子ほどナチュラルに感じていると思うんです。補助金以外でちゃんと県民の意思で、沖縄を変えるためにアクションをしている人に応援するという財源ができるので、それをしっかり作っていきたいと考えています。

  • 宮城杏里

    キャスター

    宮城杏里

    沖縄市出身。現場の空気を大切に、 沖縄の魅力を心を込めてお伝えしていきます。 取材先で皆さんにお会いできることを楽しみにしています。

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