ページの本文へ

沖縄の特集記事

  1. NHK沖縄
  2. 沖縄の特集記事
  3. 沖縄・嘉手納基地で単独取材 米空軍の対中国「分散戦略」とは?

沖縄・嘉手納基地で単独取材 米空軍の対中国「分散戦略」とは?

九州一帯などの自衛隊施設や民間空港が対象か
  • 2023年07月06日

「嘉手納基地内で最新の訓練を取材したい」

在沖米空軍に取材依頼を提出したのは2022年の8月のことだった。交渉の末、約1年後の2023年6月にようやく単独取材の許可を得た。最新の訓練プログラムとは一体どのようなものなのか。私たちは嘉手納基地へと向かった。

(NHK沖縄放送局記者 小手森千紗)

一見普通の拠点設営訓練 しかし…

意外にも、彼らが公開したのは「地味」な訓練だった。基地内の駐車場脇の芝生で、テントを立てたりアンテナを立てたりする10数名ほどの兵士たち。作戦拠点を設営する手順を確認しているという。

実は、彼らはふだんはこうした作業には関わらない、さまざまな部署から集められた隊員なのだという。本来の職種は、制服左肩のワッペンに書かれたアルファベットで判別することができる。例えば、「AVI」はAvionicsを意味し、機体に搭載された電子機器の修理などを担当。「AFE」はAircrew Flight Equipmentの略で、装備品の管理担当。「CYBER」はその名のとおり、サイバー部門の担当だ。実にさまざまな部署からかき集められていた。

訓練では、武装集団にふんした教官が、設置した拠点の中に入ろうとする場面もあった。隊員たちの警備の能力を試すものだ。ふだんは慣れない動きだからだろうか、手順を間違えてしまう隊員もいた。

本来は侵入者に後ろを向かせなければいけない

新戦略「ACE」(エース)とは

2年前に嘉手納基地に導入されたこの訓練プログラム。その前提となっているのがアメリカ空軍の新戦略「ACE=迅速な戦力展開」(エース)だ。Agile Combat Employmentの頭文字を取ったこの戦略は、有事の際、部隊を大きな基地にとどまらせず他の場所に分散させるというもの。資源や人員が限られる分散先でも作戦を続けられるよう、1人1人の隊員たちに複数の能力を身につけさせるのが今回取材した訓練の狙いだという。

念頭にあるのが中国のミサイル能力向上。その危機感は、アメリカ空軍が去年公表したACEの指針書にも記されている。

”Air bases are no longer considered a sanctuary from attack, regardless of their locations.”
「空軍基地は、どこに位置するかにかかわらず、もはや攻撃から逃れられる聖域ではない。」

(U.S. AIR FORCE (2022). ”AIR FORCE DOCTRINE NOTE 1-21 AGILE COMBAT EMPLOYMENT” https://www.doctrine.af.mil/Portals/61/documents/AFDN_1-21/AFDN%201-21%20ACE.pdf)

嘉手納基地の第18航空団のデイビッド・エグリン司令官も、基地が攻撃される可能性を念頭に、分散の必要性を強調した。

「我々が求めているのは、何かが起きて離陸した場所に戻れないような場合に備えて、有事の際に活動できる場所だ。そうすることで作戦を維持できる。そして、敵がこちらを攻撃しようとするときに、敵側の判断は複雑になる。なぜなら敵は1つの大きな施設を見るのではなく、複数の施設を見て標的を探し出さなければいけないからだ。」

分散によってバックアップを得るのみならず、敵の目をくらますこともできるというのだ。

米空軍はどこに「分散」するのか

では、米空軍は有事の際どこに部隊を「分散」しようというのか。司令官に率直に疑問をぶつけてみると。

分散先について具体的にコメントすることはできないが、あらゆる友好・同盟国のために分散場所を探している。こうした同盟国などは、ここ太平洋における解決策と抑止力の基盤の一部になることを望んでいる。日本に関していえば日米両政府の交渉次第だと思う。

今後、日本国内の分散先について、日米両政府の間で交渉が行われるという見通しを示した。

一方、ACEの指針書は、「パートナー国の軍用・民間飛行場へのアクセス」の必要性にも言及している。分散先には日本の民間空港も含まれるのか直球で問うも、司令官は「日米間の交渉がまだ行われていないので、その場所はまだわかっていないと繰り返すにとどめた。

自衛隊も参加 専門家は

今回の嘉手納基地での訓練プログラムには航空自衛隊も初めて参加。ふだんは整備や補給などを担当している隊員およそ15人が4日間にわたって加わった。航空自衛隊によると、隊員の能力向上が参加の狙いだという。

一方、安全保障政策に詳しい拓殖大学の佐藤丙午教授は、自衛隊の参加は、隊員の能力向上にとどまらず、施設の利用も念頭に置いていると指摘。

拓殖大学
佐藤丙午教授

自衛隊もACEを実行するだけの能力を米軍とともに身につけていれば、ACEの拠点もいろんなところに分散することが可能になる。

佐藤教授は民間空港利用の可能性にも言及した。

拓殖大学
佐藤丙午教授

物資の事前集積を行えるポイントでサポートできる能力がある地域となると日本の大都市近郊ということも想定される。九州の一帯の航空基地、また沖縄、第一列島線上の航空拠点が対象として考えられる。日本の自衛隊の施設および民間空港がその対象になることは間違いないと思う。

取材後記

沖縄本島中部に住む人たちにとって、嘉手納基地を離着陸する軍用機の姿や騒音に接しない日はほとんどないはずだ。那覇に住む私でさえも、日々その存在を実感している。しかしそのフェンスの中で、米空軍たちがどのような戦略に基づき、どのような訓練が行っているのか、知る機会はあまりにも少ないと感じている。

米軍の「戦略」とフェンス一枚隔てた隣には、暮らしを営む人々がいる。そして今後、新たな分散戦略によって民間空港が使われることになれば、思いがけず「分散先」と隣り合わせの生活を送ることになる人々も出てくるだろう。日米の安全保障戦略がどこへ向かおうとしているのか、私たちはどのような社会を目指すのか、絶えず伝え、考え続けなければならない。

(エグリン司令官のインタビュー全文はコチラ

  • 小手森 千紗

    NHK冲縄放送局 記者

    小手森 千紗

    2017年入局。岐阜放送局や高山支局を経て2020年9月から沖縄放送局。アメリカ軍担当。人材・観光をテーマに経済分野も取材。

ページトップに戻る