ページの本文へ

沖縄の特集記事

  1. NHK沖縄
  2. 沖縄の特集記事
  3. アメリカ軍嘉手納基地 司令官がインタビューに応じた【全文】

アメリカ軍嘉手納基地 司令官がインタビューに応じた【全文】

  • 2023年07月07日

在沖米空軍トップは何を語ったのか

NHKの取材班は、2023年6月26日、嘉手納基地の第18航空団デイビッド・エグリン司令官に、テレビメディアとしては初の単独インタビューを行った。

アメリカ空軍は近年、ACE(Agile Combat Employment=迅速な戦力展開)と呼ばれる新戦略を導入している。中国がミサイル能力を向上させる中、部隊を分散させることで、基地が攻撃を受けても作戦を続けることを可能にするとともに、複数の場所を使うことで敵の攻撃判断を複雑にする狙いがあるという。

アメリカ軍 嘉手納基地

アメリカ空軍はこの分散場所として「パートナー国の軍用・民間空港」を視野に入れている。エグリン司令官はインタビューに対し、この分散場所をめぐり今後日米政府間で交渉が行われるとの見通しを示した。

このほかインタビューにでは、嘉手納基地からの退役が決まっているF15戦闘機や、新たに建設予定の整備格納庫についても質問した。

在沖アメリカ空軍トップは何を語ったのか。インタビューの全文をほぼ原文ママで紹介する。(英文はコチラ

※項目ごとに並べるため一部順番を変えています。

聞き手 NHK沖縄放送局記者 小手森千紗

冒頭 

(記者)まず、なぜ今回インタビューを受けようと思ったのか教えてほしい。 

(エグリン司令官) 受け入れ国との関係構築は、その国で活動する以上、常に重要だと思う。ここ第18航空団では、地域の安全保障を維持し、日米の利益を守る責任がある。オープンにし、透明性を保つことは良いことだと思う。

周辺の安全保障環境

(記者) これまで韓国のオサン(烏山)空軍基地や嘉手納基地などに赴任しこの地域を見てきたと思うが、最近の嘉手納周辺の安全保障環境をどう見ているか?とりわけ、敵対国の技術革新は安全保障環境にどのような影響を与えると見ているか? 

(司令官) 戦略的環境は急速に変化していると思う。これは日米同盟が輝くチャンスだと思う。日米が持つ非対称な優位性というのは、私たちの友情であり、統合運用能力だと思います。 そして、それが環境の変化に対応するための最大の焦点だと思います。我々はより強くなる。私たちは近代化を進め、何が来ても対処できるようにするつもりです。  

(記者) 沖縄周辺の脅威はどう見ているのか。

 (司令官) 北朝鮮は時折、厄介なことをやっている。そして中国もまた、厄介なことをやっている。ここ第18航空団での我々の仕事は、万全の態勢を整え、彼らが我々を追い詰めるようなことをしないようにすることだ。

(記者) 前回アジア地域に赴任ていた時と比べてこの地域に変化は?

(司令官) 私は2009年にも日本に赴任しているので日本について話すことができる。日本政府は、現在進行中の戦略的課題を認識していると思う。そして昨年、アメリカの国家安全保障戦略や防衛戦略と密接に連携した戦略文書を作成した。これは、同盟関係を強化し、密接に連携した相互の利益を確実に守るための重要なステップだと思う。 この地域の環境は、戦略的な意味だけでなく、日本政府の認識という意味でも劇的に変化した。

(記者) CSISなどの研究機関は、中国のミサイル能力を念頭に、嘉手納基地の脆弱性を指摘している。基地の脆弱性についてはどうとらえているか。 

(司令官) まず、嘉手納に特有なこととして、長距離ミサイル(の脅威)がある。私たちが注力する主なことは、備えることだ。備えていれば、それは米空軍も、日本の空軍も、そして自由で開かれたインド太平洋を維持してくれる他の同盟国やパートナー国もだが、中国は戦争をする気を起こさないし、ミサイルは決して落ちないだろう。 

新戦略「ACE=迅速な戦力展開」

(記者) アメリカ空軍はACE(迅速な戦力展開)と呼ばれる概念に取り組んでいる。この新概念における、嘉手納基地の役割は何か。 

(司令官)嘉手納での我々の役割は、ACEの下でも変わらない。しかし、本来の職種ではやらないようなさまざまなことに対応できるよう、空軍兵を訓練する必要がある。 だから、あなたが見たMCA(Multi Capable Airmen=多機能空軍兵)の訓練は、有事の際に複数のことができるようにするためのものであり、潜在的にそのようなことをしなければならない場合に備えて、私たちはそのような訓練を行っているのだ。 

(記者) 嘉手納基地のほか、韓国やグアムの米空軍基地もACEに関係していると思うが、それぞれの基地の役割はどう違うのか? 

(司令官) それは各基地が与えられた任務によると思うし、嘉手納以外の基地についてここで具体的なことはコメントしない。ただ、空軍兵が与えられた任務をこなすために準備が十分できるようにするだけだ。 

MCA(多機能空軍兵)訓練の様子

(記者) 新概念ACEでは一か所に集中したインフラよりも、小さく分散した場所を使うということだが、それでもなお嘉手納基地のような大きな基地が必要なのか? 

(司令官)嘉手納基地での活動に、大きな変化はないだろう。嘉手納基地は地域の部隊を訓練し統合することができる戦略的な基盤なのだ。 「ACEにおける部隊の分散」というのは、有事の際に、敵の判断を複雑化させて作戦を継続するために、部隊を分散せるための条件のことを意味する。したがって、ふだん起こるのは少しの変化だ。 

(記者) このACEという概念が、具体的にこの国で・この地域でどのように運用されるかについて詳しく知りたい。「分散場所」というのは、日本の、沖縄のどの場所を指すのか。

(司令官)具体的にはコメントできないが、あらゆるパートナー国・同盟国のために分散場所を探している。 彼ら(同盟国など)は、ここ太平洋における解決策と抑止力の基盤の一部になりたがっている。日本に関しては、日米両政府の交渉次第だ。 

(記者) ACEの指針書には、パートナー国の軍用・民間空港の使用が必要だと書かれているが、どうなのか。

(司令官) 繰り返しになるが、その交渉は日米両政府間で行われるだろう。我々が求めているのは、何かが起きて離陸した場所に戻れない場合に備えて、有事の際に活動できる場所だ。そうすることで作戦を維持できる。それが重要なのだ。 そして敵がこちらを攻撃しようとするときに、敵側の判断は複雑になる。なぜなら敵は1つの大きな施設を見るのではなく、複数の施設を見て標的を探し出さなければいけないからだ。 

(記者) つまり民間空港も含まれるのか。 

(司令官) 日米間の交渉がまだ行われていないので、その場所はまだわかっていない。

MCA訓練に参加した航空自衛隊員(青っぽい制服)

(記者) 新概念ACEにおける自衛隊との連携の重要性は? 

(司令官) それは非常に重要なことだと思う。同盟としての非対称的な優位性について述べたが、それは、統合的な運用が可能であればこそ可能なことだ。一緒に訓練を行うことができ、どのように物事を行うかについて共通の基準を持つことができれば、戦闘状況下でそれらのスキルを必要とするときに、私たちにとって有益なものとなるはずだ。 

(記者) ACEの課題は何か。

(司令官) 課題はたくさんある。その1つは、飛行士が複数の仕事をこなせるようにすることで、そのうちのいくつかは本来の職種から外れている。だから、あなたが見たMCA訓練は、彼らが自分の本来の職種の外に出ることができるように設計されている。また、飛行機を1つの大きな場所に配置することで、効果的かつ効率的な活動を行うことができるが、飛行機を分散させ始めると、効果的かつ効率的な活動を行うことが難しくなる。しかし、この活動によってそれを可能にするのだ。だから、我々はそれに取り組まなければならない。そうすることで、必要とされたときにそれを実行できる経験と能力を私たちが持っていることを確認することができる。

(記者) ACEについて「より少ない人員でより多くのことをやるようなものだ」との不満もあるのではないか。

 (司令官) そうとも言えるだろう。ただ、私たちが直面している戦略的環境に基づいて、しなければいけないことの必然性はある。他の解決策もあるのかもしれないが、大量の空軍兵が控えているわけでもなければ、大量の資金があるわけでもない。今日、私がここにいる空軍兵たちとともに、この問題に取り組まなければならないのだ。

F15戦闘機の退役と代替機

(記者) F15戦闘機の退役が公表されたとき「中国に誤ったメッセージを送った」などの批判をはじめ、その戦略的な意味合いをめぐり論争が起きたが、どう考えているか。 

(司令官) アメリカと同盟国は長い間、プレゼンスによる安心感・抑止力を示してきた。そして我々は米空軍で最も古い戦闘機を引き払っている。我々は、現在と同レベルの能力・カバー力を維持するために、世界中から最前線の第5世代戦闘機を配備している。 そして最終的には、日米同盟における合意を維持し支えるために、恒久的な後続機を駐留させるという長期的な解決策を講じるつもりだ。 

(記者) その長期的な解決策について、最新の状況は。 

(司令官) 米空軍は現在、代替機について取り組んでいる。それが何なのかは私にはまだわからない。それを聞くのが待ち遠しいし、できるだけ早く発表したい。 

退役するF15

(記者) 暫定的に配備されているF35などの代替機について、騒音がひどくなったと住民は指摘している。戦闘機の構造そのものの特性や、暫定的に配備されているパイロットが従来とは違う飛び方をしている可能性も指摘されている。こうした声に対し、どう応えていく? 

(司令官) 第一に、私たちは現地の運航手順書に従って運航している。また、ホスト国との協定を順守し、地域社会への影響を最小限に抑えるようにしている。飛行機にはそれぞれ異なる音響特性がある。そのため、彼らの耳に聞こえる音が少し違うのは確かだと思う。しかし、手続き上は、(暫定配備のパイロットが)この場所に何年もいるF15チームと異なる運用をすることはないはずだ。 

(記者) 音の種類という意味でで、F15と、第5世代戦闘機はどのように異なるのか。 

(司令官) どの機体も形が異なる。戦闘機がどのように空中を移動するのか、どのように空気が動くのか、機体によって異なる。エンジンも違う。インテイク(機体の吸気口)の型が違うから、飛行機の空気の取り入れ方も違う。そしてもちろん、異なる方法で圧縮された空気は異なる推力を発生させるため、異なる方法で排気される。だから、どれも個性的なのだ。 だから私たちはこのオフィスに座っていてもほぼ100%「あれはF16、あれはF22。F15、あれはE3だ」と言いあてることができる。なぜなら、どれも非常に個性的な音を持っているからだ。

整備格納庫などの建設

(記者) 整備格納庫建設をめぐり住民は落胆している。なぜ建設が必要なのか、そして人々の騒音や悪臭への懸念にどうこたえていくのか?

(司令官) 我々の使命は、即応態勢を維持し、殺傷能力を持ち、同盟への関与を維持することだ。そのためには、航空機を維持するためのインフラを整備する必要がある。それについて地元がどう感じているかについては、あまりコメントしたくない。しかし、私たちのインフラへの投資を確かなものにするにすぎないと断言する。私たちは引き続き有事に備え、準備を続けていく。

(記者) 格納庫以外にも整備予定のものはあるのか。

(司令官) 嘉手納での運用のありかたに違いを見ることはないと思うが、訓練のしかたには変化があるだろう。ACEの概念などを取り入れるために、私たちはそこに関与している。しかし、フェンス外から私たちを見るだけなら、嘉手納では大きな違いは見られないと思う。

(記者) RAND研究所のリポートでは、嘉手納基地に堅牢なシェルターが必要だと指摘されていたが、これはどう思うか。

(司令官) 嘉手納基地は、おそらく歴史上かつてないほど戦略的に重要な基地だと思う。そして、基地をより致命的なものにし、準備万端にしてくれるなら、何でも歓迎する。もちろん、それは私が決めることではない。そのようなことをするための資金を配分するかどうかは米議会次第だが、我々はそれを歓迎するだろう。

  • 小手森 千紗

    NHK冲縄放送局 記者

    小手森 千紗

    2017年入局。岐阜放送局や高山支局を経て2020年9月から沖縄放送局。在沖アメリカ軍を担当しているほか、人材や観光もテーマに取材している。

ページトップに戻る