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新米師匠の挑戦! 宇佐市出身・雷親方(元小結・垣添)

2023年3月 大分県向けに放送
  • 2024年01月15日

アナウンサーの戸部眞輔です。
大分県宇佐市出身の元小結・垣添の雷親方が、2023(令和5)年2月、定年を前にした入間川親方から部屋を継承し、雷部屋の師匠となりました。
新米師匠となった雷親方の奮闘ぶりを取材しました。

大分県産材を使った新しい看板

宇佐市出身の雷親方は、引退から11年、44歳で幕下以下7人の弟子を預かる師匠になりました。

新たに掲げた部屋の看板には、大分県産のクスノキが使われています。県内で木材業を営む弟の雅俊さんから贈られました。

雷親方

僕の宝物ですね。本当に弟が僕にいいものをプレゼントしてくれました。この看板を光らせなきゃなと思っています。師匠としては1年生。自分の経験を教えられたらいいなと思っています

大切にしている“けがをしない体作り”

現役時代の垣添

現役時代、スピードを生かした相撲で小結まで番付を上げた雷親方は、同じ武蔵川部屋の横綱・武蔵丸などとの激しい稽古で力をつけました。

その一方で、両ひざのけがに苦しめられた土俵人生でもありました。
そんな雷親方が大切にしているのは、けがをしない体作りです。弟子たちには、稽古開始から1時間は相撲を取らせず、しこやすり足などで体を鍛えさせます。
年齢も性格も違う7人の弟子たち。雷親方は、一人一人に声をかけ、その力士に合ったアドバイスを送るようにしています。

雷親方

現役時代、両ひざを手術しました。けがをすると、気持ちは前向きでがんばりたいと思っても、体がついてこないんですよね。気合が抜けるとけがもしやすくなります。集中した稽古で、本場所でけがをしない体を作っていくことが大事です

“世界一”のおかみさん

師匠ともなると、後援者との連絡や弟子のスカウトなど、相撲部屋の経営のすべてに責任を持つため毎日が大忙しです。
そんな雷親方には、強力な味方がいます。妻の栄美(えみ)さんです。

実は栄美さん、相撲の経験者で、世界大会での優勝経験もあるトップクラスの選手でした。
今は、たくさんの人に雷部屋について知ってもらうために、情報発信を担当しています。
新たにSNSのアカウントを立ち上げ、稽古の様子やオフショットを公開しています。

雷部屋では、部屋のみんなでちゃんこを囲みます。
栄美さんは力士たちとの距離を縮めようと、積極的に話しかけています。

「若い子からしたら、私はお母さんたちと年齢が変わらないと思うんですよね。少しでも支えにならなければと思っています。たぶん親方に言えないこともあると思うので、そういうことをこれからは聞いていけるようにしたいです」

稽古は厳しく 土俵を離れれば家族のように

土俵を離れれば家族のように接したいという雷親方ですが、「稽古は厳しく」というのがモットーです。
自らスカウトしてきた序二段の雷道(いかずちどう)です。

東京の強豪校で柔道をしてきましたが、相撲の経験はありませんでした。
柔道の癖で投げを狙うことがある雷道。
雷親方は、相撲の基本である「前に出る攻め」を徹底させます。
こうした稽古の成果が出て、雷道は令和5年の初場所では初めて6勝1敗の好成績を収めました。

雷道さん

前は相撲にならなかったんですけど、まわしを取って前に出るという相撲が増えてきました。基礎をやったから、相撲ができていると思います。親方は優しくて、ちゃんと自分たちを見てくれているいい親方だと思います。部屋で一番強くなりたいです。

初めて育てた関取 ウクライナ出身 獅司

その雷部屋から、初めて新十両力士が誕生しました。
ウクライナ出身の獅司(しし)です。
2023(令和5)年5月31日に行われた名古屋場所の番付編成会議で十両に昇進することが決まりました。雷親方にとって、2月に部屋を継承してから、わずか3か月での関取誕生です。

雷親方

ほっとしました。自分の新十両がかかった場所と同じくらい、今場所は緊張しました。まさか2月に部屋を継承してから、きょうこの場に獅司と2人でいるのが信じられません。

雷親方が徹底させた”体作り” 持ち前の圧力に磨きがかかる

獅司はウクライナ南部のザポリージャ州出身。
相撲の世界選手権の重量級で3位に入った実績があり、令和2年に入間川部屋に入門しました。
身長1メートル92センチ、体重174キロの恵まれた体格を生かした相撲で番付を上げてきましたが、幕下の上位で、なかなか勝てない時期が続きました。

そうした中、部屋を継承した雷親方は、獅司に”体作り”を徹底させてきました。

もともと上半身の力は強かった獅司は、しこやすり足、ぶつかり稽古などを重点的に行い、強じんな下半身を作ってきました。
また、2023(令和5)年2月に取材した日には、たまごかけごはんをどんぶりで2杯食べるなど、”食べる稽古”にも積極的に取り組んできました。

その結果、体重は、雷親方が部屋を継承した2月から15キロも増え、持ち前の圧力に磨きがかかりました。令和5年5月の夏場所では、西幕下2枚目で6勝1敗の好成績を収め、新十両の座をつかみました。
 

獅司関

雷部屋になってから15キロ太りました。力が出ます。

雷親方

15キロ太るのは生半可なことではない。食事も自分で工夫して食べて、体を大きくして、稽古も自分から一生懸命頑張るようになった。

ふるさとウクライナに住む家族への思い

獅司は、ウクライナに住んでいるという両親に毎日電話していて、新十両昇進も報告したということです。

獅司関

みんな、うれしいと喜んでいました。ウクライナは大変。もっとがんばります。関取になって、ママとパパを助けます。

雷親方

体幹を強くして、腕も脚も強くなれば、もっともっと上で相撲がとれる力士だと思っている。初心を忘れずに、今からがスタートラインだと思って、心変わらず、一生懸命稽古をしてほしいと思います。

日本語を勉強中の獅司ですが、この日の会見では、記者の質問に、ひとつひとつ誠実に答えていました。
雷親方も「真面目な性格」と評する獅司。そうした姿は、決して大きくない体でこつこつと努力を重ね、めいっぱい幕内の土俵で暴れまわった現役時代の垣添の姿とも重なります。

 

そんな雷親方には、夢があります。

「一生懸命稽古して勝った時の喜び、負けたときの悔しさ、自分が現役時代のことを思い浮かべながら指導していきたいです。稽古も私生活も大変つらいと思うんですけど、頑張れば、いいことが倍になって戻ってくると考えてやってもらいたいです。今、大分の力士が部屋にはいないんですけど、ぜひ僕ががんばって勧誘して、ひとつでも番付を上げられるような力士を、また、お客さんから応援していただけるような力士を育てたいです」

  • 戸部眞輔

    NHK大分 アナウンサー

    戸部眞輔

    初任地も大分。着任した当時は、大関・千代大海、垣添、嘉風と、3人の幕内力士がいました。今思うと、すごい顔ぶれです。今は、琴太豪の関取昇進を日々、願ってます。

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