「おんせん県おおいた」9年前からつかわれている大分県の観光PRキャッチフレーズです
空港でも駅でも、街のいたるところでこのフレーズをみることができますよねそんな温泉大国・大分の中でも源泉の数と、お湯の湧出量ともに日本一なのが「別府市」
「別府八湯」と呼ばれる8つのエリアを中心に、泉質が異なる多彩な温泉が数百も存在しています
別府には、市の責任の下で管理運営されている「市営温泉」のほかに地域の人たちで維持管理している「共同温泉」があります
ただ、管理者の高齢化などで廃業に追い込まれる施設も増えているんです
そうした現状を見たひとりの大学生が立ち上がりました別府の文化「共同温泉」を守れるのか?大学生の挑戦を見つめました
別府に根付く文化“共同温泉”
NHKに入局し初めての任地として大分に来た私は別府の文化に触れたいと、このカードを手に入れました
これは「スパポート」というもの簡単に言えば、温泉のスタンプラリーです
別府に数多くある温泉のうち88か所のスタンプを集めると「温泉名人」の称号が与えられます
料金箱にお金を入れ(100円~500円のところがほとんど!)温泉に入ったあと、スタンプを押します
番台さんが押してくれることもありますが、いないところは入口や脱衣所に置いてあるスタンプを自分で押します
市営温泉や、大型施設の温泉、旅館の立ち寄り湯などさまざまな種類の温泉がありますが私が心惹かれたのは「共同温泉」これが、なんともいえない味があるんです
「共同温泉」の多くは洗い場にシャワーはなく湯船からすくったお湯で頭や体を洗いますシャンプーやリンスもありません利用する人は「マイお風呂セット」を持参します湯船には蛇口があり、そこからは水が出るようになっています別府の温泉は、直接源泉を引いている所も多く温度が“激熱”なので、お湯の温度を下げたいときにはこの蛇口をひねるのですその時、勝手に水を出そうとすると…地元の人に怒られてしまいます「共同温泉」はみんなのもの温度調整ひとつとっても「水出してもいいですか?」と相席する人に尋ねてコミュニケーションをとるのがマナーだと知りました
別府に住む人とくに年配の方の世帯では家風呂がない人も多くいますそうした世代を中心に「共同温泉」はにぎわいます「もう6時やけんAさんが来る時間や」「きょうはお友達とランチにいったんよ」なんて会話に混ぜてもらうのが次第に私の週末の楽しみになりました誰とどんな話をしたか、スタンプの横に書き残しています住吉温泉に行ったときのことは、こう記しました「温泉を管理するおばちゃんに会った ここは一度閉じた温泉だけど、この方が立て直したんだそう(略) こういう地元の人がいるから、 我々は温泉を楽しめているんだな…ありがたい」
この時、共同温泉の後継者不足の問題を初めて知りました
共同温泉に押し寄せる 後継者不足の波
この言葉が心に残り共同温泉の取材を始めました「住吉温泉」は話をしたおばちゃん含めて3人で経営
おばちゃんはテレビに出るのが恥ずかしいということで代表の菅さんに話を聞きました
菅裕之さん高校時代からほぼ毎日、住吉温泉を利用してきました。
地区の自慢だったと言う住吉温泉が経営難や人手不足が原因で閉鎖したのは6年前
「なくなると困る」という地域の人達の声を受け常連客だった菅さんたちが立ち上がりました
しかし、温泉の管理は重労働とくに大変なのが清掃です衛生面から毎日行わねばなりませんがそれを営業が終わった時間からほぼ休みなく行うのは菅さんにとって体力的に厳しいもの
管理しているメンバーは全員70歳以上目の前の作業をこなすのが精いっぱいの日々です
だんだん年をとってきて、10年後、今と同じ働き方はできない将来的なことは何も考えられなくて、とりあえず今できることでいっぱいいっぱい若い人が力を貸してくれたら・・・
別府の文化を“若い力”が守る
おなじ別府市内の「前田温泉」管理者の高齢化が原因で廃止の危機にありましたが若い力で存続できた共同温泉です
ここでは、菅さんが重労働と語っていた清掃作業をアルバイトの大学生が担っています複数人で担当していますがそのなかで中心となっているのが別府大学3年生の重光宏哉さんです
重光さんの清掃に密着すると…作業がはじまる時間は温泉が閉まる午後10時
まず栓を抜いてお湯をすべて流しますそのあと、溝に溜まった汚れを洗浄機を使って洗い流しますさらにはロッカーや靴箱も入念に
1人黙々と作業すること、30分時計が10時半を指したころバイクに乗った重光さんは一言 「次に行きます」
前田温泉を軸に1日3か所の温泉を清掃することもあるそうで帰宅は日付をまたぐことも…
こうした生活を続けること2年清掃した回数は、1200回にのぼっています
重光さんがこの活動を始めたきっかけは大学の講義で別府の共同温泉が人手不足だと知ったことでした
始めた頃は、ほかのアルバイトと掛け持ちできるからという気持ちもあったそうですしかしあるときから別の気持ちがわいてきたといいます
これは、温泉の利用者から届いた“感謝の手紙”こんな言葉が書かれています
「こんなに立派な明るい前田温泉にしてくださり なんだか心まで浮き浮きしてきました ありがとう 心から感謝しています…」
こうした手紙をもらった重光さんには次第に共同温泉という“文化財”を守りたいという責任感が芽生えてきました
共同温泉に未来はあるのか?
しかし、重光さんもいつまでもこの活動ができるわけではありません卒業後はふるさとで飲食店を開くという夢がある重光さん自分が中心に行っている清掃作業が滞り共同温泉という文化がまた危機に瀕するのではと考えています
そこで、共同温泉を守ってくれる仲間をさがすため自分と同じ世代に温泉の魅力を発信する活動を始めました
11月26日の「いい風呂の日」に学生の入浴料を無料にするイベントを開くなど精力的に活動しています
またSNSも開設し、学生たちで知恵を出し合い共同温泉の魅力を発信しています
自分と同じ思いを持った若者が現れてほしいその一念での重光さんの活動が続きます
学生と地域の方が交流できるイベントを通して前田温泉の魅力を多くの学生に認知してほしい後継者を探して一種の文化財である共同温泉を守っていってもらいたい
慢性的に続く共同温泉の担い手不足
別府の文化を守り受け継いでいくためいまこそ、具体的な対策を考える時が来ています