「認知症とともに生きていく」 名古屋市の女性の思い
- 2023年11月29日
51歳の時に認知症と診断された名古屋市の女性の体験をもとに、ひとつの紙芝居がこのほど完成しました。作品に込められた女性の思いを取材しました。
(NHK名古屋 記者 松岡康子)
紙芝居のモデル 近藤葉子さん
認知症になる前、ようこさんはいろいろなおうちへ一軒一軒行き、使った水の量を調べる仕事をしていました。
(中略)
しかしある日、いつもと同じように、あるお家へ行ったところ・・・
「あれ? このおうちの水道の器械はどこだっけ? 次は何をするんだったかしら・・・」
(紙芝居『認知症とともに生きていく ようこさんの物語』より)
2023年10月、名古屋市内で開かれた認知症の講習会で披露された紙芝居です。
紙芝居のモデルになった近藤葉子さんも、講師として参加しました。
近藤葉子さん(63)
「私の思いが全部こもった紙芝居です。本当におひとりおひとりの記憶に残ればいいなと思っています」
50歳のころ異変が
近藤さんは、水道メーターの検針員として仕事をしていた50歳のころ、異変を感じるようになりました。
メーターの位置が分からない、訪問の時間を忘れるなど、ミスが相次ぐようになったのです。
近藤葉子さん
「ミスをしないように工夫した上でも、なおかつミスをしている自分がすごくつらくて、こんなことでは仲間も失うなと思っていたら、やっぱりどんどん離れていく。今までやってきた自信と今までやってきた信頼が一気になくなってしまった」
脳に異常があるのではないか。
受診した病院で、近藤さんはアルツハイマー型認知症と診断されました。
そしてまもなく、仕事の契約も打ち切られました。
近藤葉子さん
「すごく私のことを信用してくれて、娘みたいだと言ってくれたお客様もいて、本当にそういったつながりも切れてしまって。本当に居場所がないなって、社会とのつながりが断ち切られたっていう思いがあって、毎日泣いていましたね、そのころ」
ふさぎこんでいた近藤さん。
そんな時救われたのは、同じ認知症の人たちとの出会いでした。
近藤葉子さん
「認知症だからっていうレッテルを抜きにして、普通に接してくれるのね、みんな。みんな認知症だから。自分のありのままの姿でいいんだよっていうところが、とても居心地がよかったです」
その後近藤さんは、愛知県から認知症希望大使に任命され、認知症への理解を広める活動を進めてきました。
そして今回、県や作業療法士会のメンバーとともに、紙芝居を制作。
小さな子どもにもわかりやすい内容を目指しました。
紙芝居で伝えたい思いとは
初めての上演の日。
近藤さんの体験をもとに、認知症の人にどう接してほしいかが伝えられました。
(ようこ)
「きょうは確かお友達とのランチの約束だったはず・・・」
(友人)
「もしもしようこさん、今日はランチの約束の日だよ。手帳に書いてあると思うけど約束通りで大丈夫?」
(ようこ)
「大丈夫!教えてくれてありがとう」
(紙芝居『認知症とともに生きていく ようこさんの物語』より)
紙芝居を見た人
「認知症になってしまうと、何もできなくなってしまって、生活も普段とがらっと変わってしまうイメージを勝手に抱いていたんですが、周りの人のちょっとした工夫だったり気遣いで、ふだんの生活がほぼ変わらずにできるということを知れて、すごく良い機会になりました」
紙芝居を見た人
「5歳の息子がいて、おじいちゃんおばあちゃんもそういう年代にさしかかってきているので、息子もどこかの機会で、この紙芝居を見る機会があったらいいなって思って聞いていました」
近藤葉子さん
「あなたのすぐ隣にあるんだよ、こういう病気があるんだよということを知ってもらいたい。その人のやれること、やりたいことを聞き取っていただいて、ちょっとした手助けによって、その人が生き生きと暮らせるなら、そんな世の中になっていけたらなって思います」
編集後記
誰に対しても、明るく笑顔で接する近藤さん。その人柄に、記者の私はいつも元気をもらっています。
認知症になっても、すべてができなくなるわけではない。周りのちょっとした手助けがあれば、自分らしく生き生きと暮らしていけることを、近藤さんは私たちに教えてくれています。
近いうちに高齢者の5人に1人が認知症と推計される今、子どもの時から認知症を学ぶ1つのツールとして、この紙芝居が広がることを願います。