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長崎・長与が舞台 映画「サバカン SABAKAN」 金沢知樹監督の夢

NHK長崎 新春ちゃんぽんインタビュー
  • 2023年02月02日

長崎県長与町出身の脚本家・金沢知樹さんです。去年、地元を舞台にした映画「サバカン SABAKAN」で初監督を務めました。「長崎をエンタメの発信地にしたい」と語る金沢さんに、映画やふるさとへの思いを聞きました。(長崎放送局 記者 山口真路)

コロナ禍にこそ届けたい映画

映画監督 金沢知樹さん

あけましておめでとうございます。映画「サバカン SABAKAN」の監督を務めました、金沢知樹と申します。(映画のストーリーは)自分の実体験だったり、弟やいとこ、友達の話だったり、日記みたいな話です。(劇中で)ブーメラン島にイルカを見に行くのも実際にあった話だし。「コロナの期間で会いたい人に会えない。とんでもない時間にこそ、サバカンのような家族や友達、大事な人を描いたテーマの作品をやるべきじゃないか」ということで制作することになりました。

絶対に長与を舞台に映画を撮る

 長崎県長与町

たまに帰ってくる長崎がやけにきれいというか。特に実家が長与なので「こんなに山に囲まれてたんだ」とか「こんなに川がきれいだったんだ」とか。「雲がきれいだ」とか「雲が高いんだ・低いんだ」とかね。東京に出たからこそ分かる長崎の美しさ、魅力というかね。

長与町にある洗切小学校
映画では主人公たちが通う小学校として撮影に使用

(映画は)僕の自伝的な話でもあるので、「(撮影場所は)絶対長与にしたい」という思いが元からありましたね。俺は覚えてないですけど、長与の幼馴染には酒を飲んで酔うと「絶対に長与を舞台に映画を撮る」と言ってたみたいで。当時友達は全員無理だって思っていたらしいです。

「あんたすごかね」が聞きたくて

うちの父ちゃんが、ずっとがんだったんですよ。父親がそういう状況だからいずれ母ちゃんに負担がかかると思って、家族で(福岡に)引っ越してきたんですけど。サバカンの(撮影で)東京から出発する日に母ちゃんから電話があって、「私もがんになった」って。「すい臓がんのステージ4」だって。もう目の前が真っ暗になりましたね。
長与で映画撮るというのも、僕はずっと勉強もスポーツもできるわけでもなく、親を喜ばしたことがなかったんですよ。振り返ると、親に「あんたすごかね」って言ってほしくて、今まで頑張ってきた部分がやっぱりあったなと思って。そう考えたときに「2人死んだら、俺は何のためにここから頑張っていくんだろう」みたいな。本当に人生で一番落ちこんだと思います。次の日からサバカンの撮影だったんですけど、もし(撮影が)なかったらさらに落ちてた。撮影があったら朝から晩までカメラ回して、やることも死ぬほどある。だからサバカンに救われたなって。

公開前にプロデューサーに言って、「ちょっとこういう状況なんで見せたいんです」って(父親に)DVDで渡したんですけど、「見る見る」って(言いながら)、ずっと「釣りバカ日誌」見てましたね。だから同じ魚なんですけど、「釣りバカ日誌」に勝てなかったです。で、見ずに死んでいきました。多分内容とかはどうでも良くて、長与で映画を撮ったっていうことが父ちゃんにとってはなんかこう誇らしいことだったみたいですね。

長崎をエンタメの発信地に

いや結構ね、人来てるんですよ。(サバカンを見て長崎に)東京からとかいろんな各地から。メジャーなところじゃなくてもいっぱい良いとこあるじゃないですか。だからそういうところを舞台にした映画なりドラマなりを作って、聖地巡礼じゃないけど行ってみたいとかってなって行くといいなって思ってますね。
サバカンはサバカンでやるじゃないですか。でも一過性なんですよね。じゃなくサバカンもあるし、ほかの映画、ほかの映画、ほかの映画っていうこういう点を打っていった時に初めてバーってつながってくるんじゃないかなと、そういうことをやれたらいいなって思ってるんですよね。

撮影地となった洗切小学校では
児童もエキストラとして 映画に出演

今回音楽をやっていただいた大島ミチルさん(長崎市出身)、大御所ですよ。ミチルさんの「風笛」って曲が大好きで、それこそNHKの朝ドラ(「あすか」)の主題歌でね。で、ミチルさんに「テーマ曲を作ってください、大ファンなんです」って言ったらシナリオ読んでくれて「これは私に全部やらせてくれ」って言ってくれてね。少ない予算の中で、「やっぱり長崎が好きだから」っていう、そういう人もいるし。
長崎愛が強い人は、有名な方も芸能の方も、裏方の方もクリエイターの方にもいるから。映画祭みたいな皿をつくれば(そういう人たちが)呼べるじゃないですか。「福山雅治さん、ちょっと特別審査員長をやっていただけませんか?」って言ったら、スケジュールさえ合えばやってくれると思うんですよね。

(例えば)10年後、20年後に、時津町出身の子が「時津を舞台にしたサバカンみたいな作品を作れたらいいな」と思う。そのために大切なのは、小さいときからいろんな舞台や映画を見せること、エンタメにふれさせることが大事だなと思っていて。長崎もいろんなところに劇場があるから、そこで見せてあげるだけで、エンタメについて前のめりになるというか。そういうことを僕は県に提案して、県と協力してくれる企業を見つけてやっていけたらと思うんですよね。そしたらその子たちが10年後、20年後にどんどん長崎を舞台に作品を作っていったら、輪が永久期間でずっとつながり続けるんじゃないかなって。

ことしの抱負は…?

これが今年でも来年でも再来年でも、大きな作品であろうが小さな作品だろうが書き続けていくと思いますね。みなさんの目に届く作品もあれば届かない作品もあるかもしれないけどずっと書いていきたいなって思いますね。全部長続きしなかった人生で、剣道やってたけど剣道も続かなかったし、塾行ってたけど塾も続かない、芸人やった続かない、芸人やめて構成作家になりました、続かない。初めてなんですよ、続いている仕事。だから好きなんだろうなって、自分でものを作っていくっていうね。もうそれがお金になろうがなるまいがどうでもよくて、書いていくだろうなと思いますね。
書くためにちゃんと毎日7時間寝て、食べて、健康に気をつけて、書くということを中心に23年もやっていけたらなと思います。

 

取材後記
長崎県長与町出身の金沢監督。実は、取材を担当した記者の私も金沢監督と同じ長与町出身で、憧れの地元の先輩に念願かなって、今回のインタビューが実現しました。金沢監督は、とても気さくな方で、インタビューの最中も、冗談で場の空気を和ませていただきました。私が特に心に残っているのが、金沢監督ご自身の両親への思いについての話です。「親にあんたすごかねって、言ってほしくて」、「両親が死んだら、俺は何のためにこれから頑張っていくんだろう」。いざ両親から直接褒められると照れくさいですが、私も金沢監督のように心のどこかで両親に褒められたいという思いで勉強や部活を頑張っていたこと、そしてそれは社会人になった今も全く変わっていないことに気づかされました。

  • 山口真路

    長崎局記者

    山口真路

    2022年入局。長崎出身。警察•スポーツ担当。
    好きな映画は「ライフ・イズ・ビューティフル」。過酷な状況でも、明るく困難を乗り越えようとする主人公の姿に胸を打たれました。

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