舞いあがれ!のばんば 高畑淳子さんが五島の魅力を語る
- 2023年01月24日

俳優の高畑淳子さんは、連続テレビ小説『舞いあがれ!』で、長崎県 五島列島に住むヒロイン舞の祖母“祥子ばんば”を演じています。「(祥子ばんばは)老いも含めて自然のサイクルと一緒に暮らしてる人」と語る高畑さんに、役を通じて知った五島の人と自然、そして文化の魅力を聞きました。
NHK長崎放送局 記者 池田麻由美
“祥子ばんば”はわたしの宝

みなさま、明けましておめでとうございます。祥子ばんばです。「祥子ばんばです」って言いながら、きょうはちょっとすごいメークとなってますが…(笑)。
この役を頂けて、本当にありがたいなと思っています。人間は確実に老いていきますし、どんどん自分も変化しております。「お芝居がやりたいな」と思って四国(香川県出身)を飛び出したのが、もう40年50年ぐらい前になるんだと思うとびっくりしますが、何年かたってこうして、何回も何回も何回も落ちた朝ドラでこのようなお役と巡り会えたことを非常にうれしく思っています。
きっと、祥子ばんばの“考え方”とか“ことば”が、私も台本を読んだときすごくしみ渡ったように、みなさまの心の中にもしみ渡ったんではないかと、とてもうれしく思っています。あれは私が考え出したことではなくて、作者の桑原さんがいろいろな経緯の中で、お感じになって生み出したことばです。それを私は言わせていただいたんですけども、あのことばが言えたこと、あのドラマで祥子ばんばとして言えたことが幸せだなと思っています。役者というのは「どんな役に出会えたか」というのがいちばんの自分の宝物であるらしいです。祥子ばんばはわたしの宝となる役です。ことしもまた、みなさんと祥子ばんばでお会いできることを楽しみにしています。ばんばのことばが、皆さんの毎日を少しでも和らげて、生きづらいことが多い日々ではありますが、何かの礎になればと心から願っております。
うどん県民がハマった五島うどん
香川育ちなのでうどんが大好物で、3食うどんでもいいぐらいな讃岐うどん派なんですけど、五島うどんがすごくおいしくて。食感がよくさらさらしていて、讃岐うどんみたいにごってり・もちもち・でぶっとしていないんですね。最近ちょっと讃岐うどんには申し上げないんですけど、「五島うどんおいしいな」と思ってハマってます。あとちょっと乾燥する季節なので、五島の椿オイルをずっと使っています。

ロケはとにかくきれいで。目の前に夕焼けが広がって、太陽が東京の2倍ぐらい、立派な卵みたいな夕日が落ちていったり。ふっと思うと目の前に海が見えて、後ろを向くと緑がきれいな山が見える。そういう風土がすごく心地よく、みなさんとても優しくって温かい。海水浴場も遠浅で真っ白な砂浜がばーって続いていて、そこをなんの加工もせずに「どうぞ」っていう感じで、ここは天国かって。「夏は絶対ここに来よう」と思うぐらい、「ここでぷかーと浮いてたら気持ちいいだろうな」って。
あと、釣りがすぐできる。港のすぐ近くで糸を垂らしたらすぐ釣れるみたいな感じもあって、釣り好きな方にはたまらないだろうと思います。いろんな島が点在しているので、船を出してもらえれば、そこでもまた釣りが楽しめる。すごいところだなと思いましたね。
“五島ことば”に助けられた役作り

おばあちゃん役はまだまだたくさん演じたことがあるわけじゃないです。(祥子ばんばは)土地に根ざしていて、ちょっと頑固で。何しろ娘と10何年音信不通って…。娘さんも相当の頑固者同士ですよね。まして船を運転して漁をしてるっていう、ちょっと男っぽい、そういうお役は初めてで。
ドラマでかつらをかぶったり、作ったりしたくなかったので「白髪も自分で伸ばしたいです」って自分から言って。「なるべくありのままでやらないとこれはできないな」と思ったんです。自然のサイクルと一緒に暮らしてる人というか、自分の老いも含めてそのサイクルを受け入れている人(を演じる)というのは初めてでした。でも五島ことばにすごく助けられたと思っています。五島のことばはちょっと男性っぽいところの中に優しさもすごくあって、あのことばに助けられたと思っています。
ばらもん凧に胸アツ

凧あげも感動しました。子どもの時に凧あげをやっても何にも感じなかったのに、「なんでこんなに胸が熱くなるんだろう」と。みんなが力を合わせて、子どもの成長とかいろんなことを願って、思いをひとつにして空を見上げるという行為がたまらなく感動したんでしょうね。コロナのことも含めてつながりが薄くなっている昨今、(一太の父親役の)鈴木浩介さん演じるおうちに新しい赤ちゃんができたっていうことで、知り合いみんなで子どもの成長を願って凧をあげて。そういうお互いを思い合う心っていうのがもっとあってもいいんじゃないかな。
高畑さんが信じる“ドラマの力”
私たちが作っているのは平和を願うドラマ。私たちの仕事の力はそれしかないと思うんですね。テレビを見てちょっと心が緩んで「そうだな」って少し優しくなれたり、勇気をもらったり…。ドラマって全世界に配信されているから、そういうふうに役立ったらいいなって。芸術はそういう力があると私は信じています。芸術なんていうものじゃないかもしれないけど、ドラマとか映画にはそういう力があると思っています。祥子ばんばが言う「どがん向かい風にも負けんでたくましく生きるとぞ」って言葉が伝播していったらいいなって。すばらしい言葉だと思います。
ことしの「舞いあがれ!」は?

その後、祥子ばんばがどういう形でまた登場するかっていうのが非常に楽しみです。どういう形になるか。そしてまた(舞が)五島にも来るといううわさも聞いているので、なぜ五島に来るのか。その辺になるともう祥子ばんばの最晩年になると思うんですけど。どうも出して頂けそうなのでその辺の「舞いあがれ!」に期待しております。
取材後記
高畑淳子さんは、インタビュー会場に真っ赤なドレスを着て現れ、「舞いあがれ!」の「祥子ばんば」とは全く違う姿に、「俳優さんって、お芝居ってすごいんだな…」と圧倒されたことを覚えています。しかしインタビューが始まると、とても気さくにお話を聞かせてくださり、特に話題がロケ地・五島列島に移ると、瞳を輝かせながら思い出や気に入った食べ物などをたくさん教えてくださいました。「長崎県内に本社がある地元のスーパーマーケットで買ったお刺身がとてもおいしかった」というお話を聞いて、地元に近いところで五島列島の思い出を作られたのだなと思い、長崎に住む者として誇らしく感じました。高畑さんが感じた五島の魅力が、もっともっと多くの人に伝わるとうれしいです。