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NHK長崎 諫早市・本明川沿いの町内会がタイムライン防災

  • 2022年11月07日

諌早市を流れる本明川が大雨で氾濫したときに備えて、あらかじめとるべき行動を時系列で定めておく「タイムライン」の策定に向けて、川沿いにある合わせて18の町内会が最初の検討会を開きました。

タイムライン防災・検討会スタート

「タイムライン防災」は災害時に発生する状況を想定したうえで、あらかじめ、いつ、誰が、どのような行動を取るべきかを時系列で策定した行動計画です。

今月4日、諌早市を流れる本明川が大雨で氾濫したときに備えて「タイムライン」を策定しようと川沿いにある合わせて18の町内会が集まり、最初の検討会を開きました。

出席した町内会長たちは4つのグループに分かれて、それぞれの地域が抱える災害リスクや課題について意見交換し、続いてグループごとに発表を行いました。このなかでは、住民からさまざまな意見が出されました。

 

A町内会

橋の水位標が暗くて見えず、川の状況が分からないので、いつ町民に避難を促せばよいのか分からない

B町内会

自分は大丈夫だと考えている住民が多いため、危険性を自覚させることが課題だ

C町内会

土地が低いので避難するには町の外に出るしかないが、高齢者が多く情報の伝え方が難しいことに困っている

本明川流域地域の検討会は、今後議論を重ねて、来年の出水期までに具体的なタイムラインを策定することにしてます。

参加した八坂町の古賀文朗町内会長
「タイムラインの作業を通じて、住民の間で”自助の意識”を高めたい。”自助の意識”が高まれば”共助の意識”も高まる。諌早を防災先進地にしていきたい」

タイムライン防災に詳しい専門家は、住民が主体となって行動計画を作る意義を強調します。

東京大学大学院の松尾一郎 客員教授
「行政によるトップダウンの防災計画は使われません。自分たちで考えて作ったボトムアップの防災計画が必要です。長崎県は急流河川が多く、雨が降ったら大量の水があふれる可能性があり、県内全体で必要な取り組みかもしれません」

「タイムライン防災」ってなに?

 

佐藤アナ

取材にあたった上原記者です。そもそも「タイムライン防災」とはなんですか?

上原記者

「タイムライン防災」とは、災害時に取るべき行動を時系列で策定する行動計画を指していて、早めの避難につなげることが主な狙いです。

もともと「タイムライン防災」は、アメリカでハリケーン対策として生まれました。日本国内では、11年前の紀伊半島豪雨で大きな被害を受けたことを受け、8年前に三重県紀宝町が全国で初めて運用を始めました。

その後、タイムラインは広がりを見せ、▼市や町が策定する「自治体タイムライン」、▼町内会がつくる「コミュニティ・タイムライン」、▼各世帯がつくる「マイ・タイムライン」など、さまざまな主体が策定に乗り出しています。

県内で「タイムライン」が策定されたケースはありますか?

あります。本明川沿いにある諌早市八坂町の町内会が、3年前に町内会としてのタイムラインを作りました。この町内会では▼大雨警報が出た場合は、町内の各世帯に情報を伝達し、要支援者から支援要請があるかを確認する。次に▼河川が避難判断水位に達したら町内会として避難指示を出す。▼氾濫危険水位に達したら避難を完了させると定めています。

一方、きょうから検討が始まったのは、本明川沿いの合わせて25の町内会で、単独ではなく、合同で「コミュニティ・タイムライン」を策定することにしています。合同で一緒に考えながら策定することで、いざというときのため、横のつながりや支援を強化することが期待されています。

「タイムライン」で実際に成果はあがっているのでしょうか?

はい。熊本県球磨村(くまM)では、おととし、記録的な豪雨に襲われました。球磨村の中渡徹防災管理官は、NHKの取材に対し、「一番被害がひどかった茶屋地区では、全員が助け合いながら避難を完了した。場所によって災害リスクが違うということをしっかりと認識することが極めて重要。それがすべてだと思う。(タイムライン策定の)作業を通じて、住民たちのなかで防災に対する意識、地域コミュニティが復活していく。避難について話し合う場を作ると、みんなが集まり、新たに人と人のつながりが生まれてくる」と話していました。

取材後記

きょうの検討会を取材すると、住民側が主体的に意見を出していて、次第に会場は熱気を帯び、目の前で参加者の防災意識が高まっていくように感じました。災害対策を行政に任せきりにせず、町内会や住民が自主的に考えていく。タイムライン防災はそうした意識改革を促すきっかけになると感じました。

一方で、タイムライン防災を広めるには課題もあります。取材した松尾客員教授は、タイムライン防災を広めるためには、策定を支援するサポーターのような存在が必要だと話していました。今回の諫早市の取り組みが先進的な成功事例となり、各地へ波及していけば、防災力の底上げにつながるのではないかと感じます。来年の出水期に、タイムラインがどのように活用されるのか、注目していきたいです。

  • 上原聡太

    長崎放送局 記者

    上原聡太

    平成30年入局
     警察担当、佐世保支局を経て、現在は遊軍担当として災害や原爆を取材
    趣味はロードバイク

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