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岩手 育休の取得日数 全国1位 でも“とるだけ育休”に??

  • 2023年10月12日

 

男性の育休取得日数は全国1位なのに、1週間のうち家事、育児にかける時間は全国で37位―。
大手住宅メーカーの調査で、岩手県の男性が育休を取得しているにも関わらず、家事や育児にしっかり時間をかけていないという現状が浮き彫りになりました。
それって、いわゆる「とるだけ育休」?
いったいどういうことなのでしょうか。
(NHK盛岡 記者 村田理帆)

岩手は「とるだけ育休」??

大手住宅メーカーが行ったアンケート調査の結果です。
岩手県は男性の育休取得日数が43日で全国1位に。全国平均の23.7日を大きく上回りました。
その一方で、「女性が認める育休を取った男性の1週間の家事、育児時間」は11.8時間で全国37位。
これは1日に換算すると1.6時間ほど。
育休はとっても、十分なサポートになっていないと感じている女性が多いようです。
まずは、盛岡市内で子育て中の人に話を聞いてみました。

「子どもと遊ぶのは好きなんですけど、家事は確かに、あまり手伝えていないかもしれませんね。頼まれればやるんですけど、気づいたときにはもう妻がやってくれてしまっているので…」

「何やってるんですかね?お休みを取って何してるんでしょう?うちの夫は育休は取ってないですが、次は2人目なので、そのときは取ってほしいかなと思います。でも育休を取って何もしないんだったら働いてほしいですよね」

女性の社会活躍や、男性の育休取得を推進している県の担当者は。 

県の担当者も困惑

岩手県若者女性協働推進室 藤井茂樹課長
やはり男性は仕事、女性が家庭、みたいな無意識の思い込みみたいなものが根強く残っていることが、影響しているんじゃないかなと思います。引き続き企業向けのセミナーなどを通じて働きかけをしていきたいとは思います

「とるだけ育休」防ぐヒントは…

味のある育休にするには、どうしたらいいのか。
育休の取得に積極的に取り組んでいる盛岡市の地ビール会社の取り組みに、ヒントがありました。
 

県内の地ビール会社

この会社では、4年前に「男性育休100%宣言」を出しました。
「こういうのはトップダウンでやってしまった方がいい」
社長の鶴の一声で決まり、「やる」と決めたあとにどうすればいいか、考えていこうということになりました。

そして、実際に「宣言」をしてから、男性社員が育休を取るタイミングが訪れたのは1年後のこと。
その男性は、店舗の店長でした。
育休を取って仕事を離れることで、現場に迷惑がかかるのではないかと戸惑ったといいます。
さらに、第一子の時は育休を取得せず、育児にもあまり関わってこなかったことから、妻にも「もう1人子どもが増えるようなものだから、育休を取る必要はない」と言われてしまったのです。

この話を聞いた社長。会社の公式ブログでは、社長が当時についてこのように振り返っています。

“男性育休を進めるには職場環境を整えるだけではダメなんだなと知らされました。しかし、これであきらめるわけにもいかず、お父さん学校を紹介したり、短期間でもいいからと説得したりを繰り返してようやく、1週間という短い期間でしたが男性育休をとることになったのです”。

同時に、店長不在でも店舗の業務が回るよう、店長がいなくなると困る仕事を列記し、だれか代わりにできないか、代わりの方法はないかなどを検討。その結果、厨房スタッフなどもホールやレジ締めを手伝うなど、協力関係を築けるようになりました。

この経験を皮切りに、社内全体で「男女関わらず、育休を取るのは当たり前」という風土が醸成されていったといいます。そして、いまでは配偶者が妊娠・出産した男性社員全員にあたる11人が、育休を取得しました。

去年、育休を取得した内舘康喜さんは第一子となる長男が生まれ3か月間育休を取りました。
ふだんは貿易などを担当し海外の卸業者などと直接会話する機会も多いといいます。
社内で唯一、英語が堪能は内舘さんは、育休を取得できることはうれしく思いつつも、業務を離れることに不安もありました。
そんな場合でも育休を取得しやすいようにと、会社側はあえて、育休中でも仕事に関わってもらうことを推奨。内舘さんも、緊急時は自宅から対応するなどしていました。

内舘さん
完全にシャットアウトするのではなくて、少しボリュームダウンをするというイメージ。そうすることで、仕事に復帰するときも、スムーズに職場に戻れたと思います。

では、育休中は、どのように過ごしていたのでしょうか?

内舘さん
ビクビクさせながらもく浴をさせたりとか、大変だった時期を妻と一緒に経験して、協力してやって来たあの期間があったから、その気持ちを忘れずにいまも育児に参加できているのかなと思っています。

内舘さんなど、育休中の男性社員が、充実した育休を過ごせる鍵となっているのが、社内報です。

社内報には、社員が育休中、どのように過ごしたか、報告するコーナーがあります。

内舘さんの報告にも、育児に奮闘する様子が事細かに記されていました。

▼今後の目標はおむつを替えた瞬間にうんちをされてもイラッとせず笑顔で受け流せる男になる。
▼子どもは泣くことしかできません。我が子から相手を思いやる気持ち、人をおもう心を教えてもらってる気がします。

育休中に何を経験し、どんなことを感じたのか、書いてもらうことは、今後の仕事にもつながると、会社は考えています。

ベアレン醸造所 総務部 菅原聡子部長
育休を取って、家庭のことを夫婦2人でやることによって視野が広がり、必ず仕事にもプラスに働くのではないかと思っています。
また、育休中に先輩社員がどのように過ごしたか、みんなで共有することで、これから子どもをほしいと考えている若手スタッフにとっても参考になるし、励みになるんじゃないかと思います。

社内で見守り合う風潮は、「とるだけ育休」にならないための、1つのヒントになりそうです。

  • 村田理帆

    NHK盛岡放送局 記者

    村田理帆


    沖縄局、釜石支局を経て、2023年9月から盛岡放送局

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