ページの本文へ

  1. トップページ
  2. 科学・文化
  3. 13年ぶり宇宙飛行士選抜試験 筑波大学院生の挑戦

13年ぶり宇宙飛行士選抜試験 筑波大学院生の挑戦

執筆者のアイコン画像浦林李紗(記者)
2023年08月21日 (月)

茨城県つくば市に宇宙センターがあるJAXA(=宇宙航空研究開発機構)が、13年ぶりに行った宇宙飛行士選抜試験。過去最多の4127人が応募した選抜試験では、さまざまな選考を経て、10人が最終候補に選ばれました。

そのなかの1人が、筑波大学の大学院に通う有屋田健一さんです。医師として患者の命を救いながら、宇宙への夢をかなえようとした有屋田さんの挑戦を追いました。

つくばで始まった最終試験


JAXA筑波宇宙センターで、ことし1月、新たな宇宙飛行士の最終試験が始まりました。ここに残ったのは、男性8人、女性2人のあわせて10人です。

20230814u_1.jpg試験会場となるのは、国際宇宙ステーションと同じような狭い環境が再現された「閉鎖環境施設」。10人は、常に監視されたストレスのかかる環境で、6日間の共同生活に挑みました。

20230814u_2.jpg

「宇宙医学の旗振り役」に

 その1人が、筑波大学の大学院に通う、有屋田健一さんです。   

有屋田さんは脳神経外科医で、救命救急の現場で働いています。

20230814u_3.jpg小学生のときにつくば市で開かれたイベントで宇宙飛行士の星出彰彦さんに出会いました。宇宙の未知の可能性を探る「宇宙開発」に魅力を感じたといいます。

20230814u_4.jpgその後、医師の道に進んだ有屋田さんは、宇宙が医療の可能性を広げる舞台になると知り、「宇宙医学」に関わることが目標のひとつになりました。

有屋田さんは医師として東京で働きながら、去年から、筑波大学の大学院で学んでいます。そうしたなかで、新たに募集された宇宙飛行士に挑戦することにしたのです。 

20230814u_5.jpg

有屋田健一さん
広い視野で宇宙医学の旗振り役ができるのは宇宙飛行士だと思うので、やっぱり自分の目的を達成するのに一番の職業だと思います

選抜試験 その内容とは

4000人を超える応募があった選抜試験は、およそ1年にも及ぶ長期戦でした。書類選抜や筆記試験、プレゼンテーション能力をみる試験なども行われました。
身体能力を測る検査では、四足歩行でどれだけ早く進めるかを測るテストや、ボールを壁に投げることを繰り返すテストまでありました。
宇宙飛行士になれば、8時間ぶっ続けで船外活動を行うこともあり、集中力を切らさずに体を動かし続ける身体能力が求められます。小学生から大学時代までバスケットボールに取り組んだ有屋田さん。身体能力のテストもクリアし、最終試験の10人に残ったのです。

20230814u_6.jpg

月面を想定した試験も

4000人あまりから絞られた10人が挑んだ、閉鎖環境の試験。課題の1つは、月面で走らせることを想定して、できるだけ多くの目的地を経由して小型の探査車をつくるというものでした。

20230814u_7.jpg患者の命を預かり、失敗が許されない医療の現場にいる有屋田さん。最悪の事態も考えて、欲張らず確実にゴールにたどりつこうと、チームのメンバーに提案しました。そのときのことを有屋田さんはこう振り返ります。

有屋田健一さん
月面の状況は想定できないことがきっとたくさん起こるだろうと思いました。より複雑な構造にするよりは一番必要なものをシンプルに備え付けて身軽に帰還しようという作戦でした

20230814u_8.jpg後日、製作した探査車を走らせるレースが行われました。有屋田さんのチームは、作戦が功を奏し、トラブルなく見事1着でゴールしました。

宇宙飛行士候補者に選ばれたのは・・・

6日間の閉鎖環境試験をともに乗り越えた10人。最終試験の結果、選ばれたのは、諏訪理さんと米田あゆさんの2人でした。

20230814u_9.jpgJAXAからの合否の通知を受け、有屋田さんが取材に応じてくれました。

有屋田健一さん
結果は残念ながら一歩及ばず、宇宙飛行士に今回なることはできなかったんですけど、結果は思い通りにならなかったんですけど、後悔はしていないので、これがすごく大事なのかなと思っています。ああしておけばよかったなということはあまりないです

次の目標は「フライトサージャン」

最終試験にチャレンジした有屋田さんには、次の目標が生まれています。宇宙飛行士の健康を支える「フライトサージャン(※)」になって、選ばれた2人を医師として地上からサポートすることです。

(※宇宙飛行士と日々コミュニケーションを取りながら、訓練から飛行、帰還後まで身体的・精神的な健康状態を管理する専門の医師)

20230814u_10.jpg

有屋田健一さん
親友の諏訪さんと米田さんの専任のフライトサージャンになるという夢が、今までの夢に加わりました。ポジティブな気持ちをモチベーションに変えて、引き続きがんばっていきたいなと思います

20230814u_11.jpg

有屋田健一さん
宇宙の中で何がしたいのか、どこに自分が興味があるのかっていうところを改めて考えさせてくれるような期間でもありましたし、とても充実していた1年だったと思います。どこかで宇宙と医学が結びつくような仕事ができればいいなと思っています

 今回の選抜試験で選ばれた諏訪さんと米田さんは、将来、月面に降り立つ可能性もあります。2人と一緒に宇宙への思いを叶えるという新たな夢に向かって挑戦を続ける有屋田さんに、今後も注目していきたいと思います。

 

 

この記事に関連するタグ

最新の記事

茨城県内の地震リスクは? 専門家「いずれ大地震の宿命」

2011年3月11日の東日本大震災。茨城県内は広い地域で建物の倒壊などの被害が相次ぎました。しかし、県内で今後、起こりうる地震の被害はさらに深刻です。災害リスク評価の専門家は「茨城県は地震の頻度が高く、いずれ大地震が起こってしまう宿命にある地域だと理解しなくてはいけない。特に地震の激しい揺れに対してきちんと備えることが重要だ」と指摘しています。あらためて地震の揺れの恐ろしさを知り、被害を防ぐためにできることを考えてみませんか。 茨城県内の将来の地震リスクは? 東日本大震災で、茨城県内では24人が死亡、1人が行方不明、42人が災害関連死に認定されています。もうあんな経験はしたくない、と誰もが思うところですが、茨城県内で今後予測されている地震のリスクは決して安心できるものではありません。 政府の地震調査委員会が公開している「全国地震動予測地図」では、今後30年以内に震度6弱以上の激しい揺れに襲われる確率が水戸市で81%に上るなど、県内広い範囲で高くなっています。この予測地図は防災科学技術研究所のウェブサイト「地震ハザードステーション」で拡大するなどして詳しく見ることができます。 また、東北から関東の沖合にある、陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込んでいる「日本海溝」沿いで今後30年以内にマグニチュード7クラスの大地震が発生する確率についても、茨城県沖は80%程度などと推計され、「高い」と評価されています。 そして、茨城県はこれと別に震源域などから次の7つのタイプの地震に分けて、大地震の被害想定をまとめています。

執筆者 田淵慎輔(記者),浦林李紗(記者),丸山彩季(記者)
2024年01月18日 (木)