「進撃の巨人」主人公エレンの声優・梶裕貴さん 生成AIとの向き合い方を語る
進化し続ける生成AI技術と声優や俳優といった実演家たちは、どう向き合うのか。
今回、この難しい問題にアニメ『進撃の巨人』の主人公、エレン・イェーガー役などで知られる声優の梶裕貴さんが答えてくれました。AIの可能性を感じつつ「恐ろしくもある」とホンネを漏らす梶さん。生成AIの発展は「人間が演じることの面白さとは何か」を突きつめて考えるきっかけになったとも言います。
クロ現取材班だけに語ってくれた独占インタビュー。
放送未公開部分をたっぷりと含むスペシャル記事です。
(クローズアップ現代取材班)
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初めてAIカバーを試聴する梶さん「不気味で恐ろしい」「心がザワザワする」
―本日はインタビューの機会を頂き誠にありがとうございます。早速ですが、梶さんは今SNSで流行しているAIカバー(※)はご存知ですか?
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梶さん
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存在は知っていますが、見ることには抵抗を感じていました。その動画の再生回数に加担してしまうのもどうなんだろう、という思いもあって触れていないですね。
―複雑なお気持ちがある中で大変恐縮です。今日は当事者の方でしか感じられない、お気持ちやご意見をうかがいたいと思っております。そのために少し試聴していただくことはできますか?
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梶さん
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そういった趣旨であれば構いません。
※AIカバー:声優や歌手の「声」を音声生成AIを使って複製し、流行の歌などを歌わせたもの。梶さんが演じた人気アニメのキャラクターの声も無許可で使われ、SNSに多数投稿されている。
―試聴してみて、いかがでしたか?
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梶さん
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うーん・・・。まあ自分の声の要素を一番把握している身としては、(完成度は)まだまだだな、という感覚ですけれど、一般の方からすると、かなり僕自身の声に近く聞こえる部分はあるのだろうなとは思いますね。
そうですね・・・。やっぱり不気味というか、自分が歌っていなかったこと、話していなかったはずのことが、さもあったことかのように世間に広まる、残ってしまうというのは、恐ろしいなと感じます。
―コメント欄を見ると梶さんのファンの方も喜んでしまっているような雰囲気があります。
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梶さん
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実際に(僕が)カバーするには数々の段取りが必要で、それこそ様々なハードルがあるわけです。それを越えての“夢の共演”を手軽に実現できるというところに、魅力があるんでしょうね。その気持ちは分からなくもないです。
ですけれど、そこには声優はもちろん、キャラクターたちを生み出した多くの方がいらっしゃるわけで、そう考えると、何だか心がザワザワするというか、そのキャラクターや作品を作りあげてきた人たちの思いが、どこか無下にされてしまっている気がします。こうして自分勝手に遊ぶ、いわゆる“おもちゃ”にしてしまうと、そういった人たちの誇りを壊してしまうことになりかねないですし、作品への愛とかリスペクトという部分でも非常に残念で、配慮に欠けているのかなと感じてしまいますね。
ネットにあふれる梶裕貴の“声” 「役者として歯がゆい」「僕はキャラクターと一緒に生きている」
―こうした生成AIによる梶さんやエレンの“声”がネットにあふれていることに関してはどう思いますか?
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梶さん
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声優は「声を使ってお芝居をする仕事」ですが、実際には声だけを提供しているわけではなくて、キャラクターに魂や命を吹き込むという覚悟と責任で作品と向き合っています。
僕自身は、そのキャラクターと「一緒に生きている」それくらいの感覚があります。ですので、それを表面だけなぞって別の形でアウトプットされてしまうというのは、役者として歯がゆいというか悔しい、複雑な思いがあります。
―音声生成AIという技術に関しては、どう思いますか?
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梶さん
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この技術自体は当然悪いことではなくて、これからの時代、エンタメだけじゃなく、教育や医療、福祉など様々な分野で役に立っていくものだと思います。パソコンやスマホが台頭してきたときには「未知のものへの恐怖」という意味で、きっといろいろな風当たりがあったのではないかと想像しますが、そんな中でも、いろんな人が努力して少しずつルールが出来あがってきたのだと思うんです。
だからこそ今度は僕らの世代が、このAI技術と、どう向き合っていくかをしっかり考えていかなくてはならないと思います。技術そのものの是非ではなく、一人一人のモラルや倫理観が問われているのではないか、そう感じますね。
声の権利に関して思うこと
現在の日本の法律では「声」は著作物として認められていません。俳優や声優の権利を守るために組織された業界団体・日本俳優連合は、今年6月に「生成系AI技術の活用に関する提言」を発表し、「声の肖像権」の確立などを業界や国に求めるなど、法律やガイドラインの制定を求める動きが始まっています。
―「声の権利」に関して、梶さんはどのようにお考えですか?
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梶さん
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普通に考えれば、その声の持ち主、本人にしか権利はないと思うんですけど、それをどう証明するかが難しいところですよね。何が本物で何が偽物なのかは、最終的には本人にしか分からないことだと思いますし。ただ現状では、音源さえあれば、それを抽出して手軽に別の形でアウトプットできてしまうので、そこが大きな問題なんだろうなと感じています。だからこそ僕は、自分の音声合成プロジェクト(※)では、自分自身が権利を持って、それを公式として提示することで、逆に秩序が生まれるのではないか、という期待と希望を持って活動しています。
技術的なことは勉強中で、まだまだ詳しい知識はないんですけど、例えばブロックチェーン技術(※)のようなものを使って、声を含めた音源データに番号みたいなものをつけることが出来きれば、元々は誰のものなのかという証明も可能になるのではないかと思っています。NFT(※)なんかは、まさにそういう形のものだと思いますが、出どころをはっきりさせるというのは、今後、間違いなく大事になってくる部分だろうなと感じています。
※梶さんのプロジェクト:今年9月、梶さんは民間企業の協力を得ながら、自ら合成音声ソフトの開発プロジェクトを進めて行くことを発表。梶さんの声を基にした合成音声のサンプルも公開した。
※ブロックチェーン技術:取引履歴を暗号技術によって過去から1本の鎖のようにつなげ、正確な取引履歴を維持しようとする技術。暗号資産などの取引で利用されている。ブロックチェーン上のデジタルデータは、参加者相互の検証が入ることでコピーや改ざんをしにくくし、デジタルデータに資産価値を持たせることが可能になった。
※NFT:偽造不可能な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータのこと。暗号資産と同じようにブロックチェーン上で発行及び取引される。
AIに突きつけられた課題 「人間が演じることの面白さとは何か」
―声優や俳優として、今後、生成AI技術とどう向き合っていきますか?
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梶さん
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AIに関する話題が増えてから、僕は「人間が演じることの面白さとは何だろう」と考えるようになりました。声優は一つの役を演じる上で、原作の漫画や小説があれば、それを丁寧に読み込み時間をかけて咀しゃくしていきます。ところが、それがAIの場合、原作テキストやイラストのデータをインプットしてしまえば一瞬で作業完了なわけです。むしろ、そのキャラクターや作品への純粋な理解度は、もしかしたらAIの方が圧倒的に優れているのかもしれません。
では、そのインプットした情報に対して何を感じ、どう考えるのか。同じ物事が起きたとしても、それに対してどう思うかは(人間ならば)当然人それぞれですし、どうやってアウトプットさせるのかも、それぞれ皆違います。例えば「楽しい」とか「悲しい」という感情を考えてみても、楽しいから涙が出てしまうこともあれば、悲しいけど無理して笑うことだってあるのが人間なんですよね。そのさじ加減は、なかなか統計のデータだけでは引っ張り出せない部分なのかなと思うんですよ。
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梶さん
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僕ら声優というのは、作品を読んで「このキャラクターの、この時の気持ちはこうだろうな」というのを自分の中で分析して、もしくは実際に演じてみて、いろんなパターンを試してからアフレコ現場に行くわけですけど、実際にマイクの前に立って、他の役者が演じるキャラクターのせりふを聞いてみると、それまでは自分一人では考えてもみなかった表現や芝居が出てくることがあるんです。そんなサプライズが、僕は芝居をしていてすごく楽しいことだと思うんですよね。そして、それこそが、まさに人間らしいというか。
まっすぐで美しい声を出すだけが正解ではない。(声が)かすれるからこそ伝わってくる感情だってあると思うし、一度もかまずにきれいに読むことだけが正解じゃなくて、言いよどんでしまったり、口がうまく回らなかったりっていうところに、細かい感情の機微が表れる気がするんですよね。だとしたら、その「ブレ」みたいな感覚は、人間にしか出せないものなのかなと思います。
―生成AIに人は勝てるのでしょうか?
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梶さん
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AIと戦おうというつもりはありません。ただ、これからもっともっとAIが進化していった先では、声優業界だけじゃなく様々な分野で、AIが突きつける現実と向き合わなくてはならない場面が増えると思います。
そのときに「対立」ではなくて「共存」という道を探るためにも、今のうちから人間にしかできない表現とは何か、人間が演じる面白さとは何かを、しっかり探していかなきゃいけないんだろうなと考えていますね。
―今日は貴重なお話、ありがとうございました。
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