大谷翔平 チームメートやネビン前監督が語るホームラン王の真実
メジャーリーグで、アジア出身の選手として初めてホームラン王に輝いたエンジェルスの大谷翔平選手。メジャーリーグ史上初となる2年連続2桁勝利2桁ホームランを達成するなど、二刀流として超人的な活躍を見せた一方、シーズン途中で右ひじのじん帯損傷が判明し、手術に踏み切りました。大谷選手は激動の今シーズンをどう過ごしてきたのか。間近に見てきたエンジェルスのチームメートやネビン前監督の言葉からひもときます。
(「クローズアップ現代」取材班)
フィル・ネビン前監督「翔平は言った『100% 出場する準備はできている』」
肉体を酷使する二刀流に挑み続ける大谷選手に対し、エンジェルスのネビン前監督はどう向き合ってきたのでしょうか。
Q.あなたは毎日プレーしたいという大谷選手の考えを尊重してきました。大谷選手とはどんなコミュニケーションを取ってきたのでしょうか。
「調子はどうか、休んだ方がいいのではないかと私が勧める日もありました。今日は休めと言った日もありました。翔平はそれがあまりおもしろくなかったようでした。私のプランでは、シーズン終盤まで持つように、もっと早い段階で彼を休ませるつもりでした。
でも、彼はいつもプレーしたがっています。ポストシーズンが無理になっても、毎日プレーしたがっていました。投球中にひじを痛めたときも、彼は毎日指名打者で出場を望んだし、怪我をする直前まで毎日試合に出たがっていました。
彼は球場にやってきて、毎日闘い、そして治療を受けていました。シーズンを好調で終われるように。彼はそういう人間で、そういう選手です。彼はチームメートと一緒にいたかったのです。残念ながら、それはかなわなかったのですが」
7月、雨天順延の影響で、デトロイトでタイガース相手に1日に2試合を行うダブルヘッダーが行われました。第1試合、大谷選手はメジャーリーグで自身初の完封勝利を飾ります。第2試合は第1試合終了から45分後でした。
「とても蒸し暑い日でした。第一試合で翔平は9回を投げきりました。私は次の試合は彼を休ませようと思っていました。でも彼が来て、こう言ったのです。『100%指名打者で出場する。準備はできている』と」
大谷選手はその試合で2打席連続ホームランを打ちます。1日で完封と2本のホームランという離れ業をやってのけたのです。
しかし、大谷選手の体に異変が起きていました。筋肉のけいれんが起きたとして交代を余儀なくされたのです。
その後も右手のけいれんなどに悩まされながら試合出場を続けた大谷選手。8月23日の試合途中、右ひじを痛めて降板。その後、じん帯の損傷が明らかになりました。
「つらかったし見ているのが悲しかった。翔平がどれだけ傷ついたかわかるからです。肉体的にというより精神的にね。彼はそういうことが起きると人を失望させたと感じるタイプの選手なのです。
彼は僕らにすべてを捧げてくれています。今年は多くの選手が欠場しました。でも彼は毎日、私たちのためにプレーしてくれました。そのことを尊敬しています」
Q.大谷選手の体調を管理するのは難しかったですか?
「私はいつも選手たちのことを考えてきました。選手が何を伝えたいのか、理解しようとしてきました。私が選手だったころは、毎日プレーしたかったし、監督に休みをもらってもうれしくありませんでした。私が翔平を何日か休ませたこともありましたが、彼自身は休むことがあまり好きではありませんでした」
Q.この2年間監督を務めてきて、大谷選手がエンジェルスにもたらしたものは何だと思いますか?
「『特別』という言葉がいちばんしっくりきます。翔平を監督として、コーチとして、マネジメントできたのは名誉なことでしたし、彼がチームの一員であることも名誉なことでした。彼は素晴らしい人間で、特別な人間です。野球とファン、選手、チームメートにすべてを捧げてくれる人です。私は決して忘れることはないでしょう」
ザック・ネト選手「翔平のスイングはとても静かで、打球をはるか遠くに飛ばす」
Q.印象に残っている大谷選手からのアドバイスはありますか?
「けが明けで不調だった時、僕のスイングを見に来てくれて、スイングを一から確認してくれました。それが大谷翔平なんです。彼はただ『ゆっくり、自信をもってベストを尽くして』と言ってくれました
いつも僕のことを気にかけてくれました。キャンプで打撃練習をしているときにとても褒めてくれました。そんなことしなくてはならない義理もないのに、僕の居心地が悪くならないように、試合に出られるようにと気を遣ってくれたのです」
Q.大谷選手から学んだことは何ですか?
「翔平の打撃練習を見ればわかります。驚くべきことに、まるでループする動画のように何度も全く同じスイングが繰り返されます。それが大谷翔平という打者を作り上げています。スイングはとても静かで、力まず打球をはるか遠くに飛ばすんです。
翔平がどれだけすばらしいチームメートか、言葉では言い尽くせません。彼ほど才能がある人間はこれまで見たことがありません」
チャド・ウォラック選手「翔平は誰よりも体のケアをしていた」
Q.今年は大谷選手が先発した試合の大半で捕手を務めました。印象的だったことはありますか?
「今年何回も翔平の球を受けて、彼がどれほど先発に向けて努力をしているかを知りました。体のメンテナンスや試合の合間のトレーニングは本当にすごいです。彼は週に2~3回トレーニングに励みます。毎日打って6日に1回投げている間にそういうことを全部こなせるなんて…正直言って信じられません」
Q.大谷選手が1日2試合で完封と2本のホームランを記録した日については?
「あの日のことは忘れられません。野球史上最高の日です。あの日、翔平は本当に調子がよくて、ストライク先行でどんどん三振を奪っていきました。
1試合目のピッチングも素晴らしかったけど、次の試合で2本のホームランを打ったのはクレイジーでしたね。彼が何球投げたか正確にはわからないけど、100球くらいだったと思います。それからすぐに試合に出て、1試合で2本ホームランを打てるなんて。今、そんなことができる人は彼以外いないんじゃないでしょうか。
翔平は歴史に名前を残すだろうし、数多くの試合で彼の捕手を務めたといえるのは素晴らしいことです」
Q.じん帯損傷のニュースを聞いたときどんな気持ちになりましたか?
「とても驚きました。けいれんとかそういうことが起きているのは知っていましたが、彼が腕のことを以前から悩んでいたことは知りませんでした。
本当にがっかりしました。それを聞くのはつらかったです。チームの誰もが彼に同情していました。
正直なところ、おそらくピッチングとバッティングの両方をこなすことによる消耗だと思います。
彼は誰よりもよく体をケアしていました。ただ、毎日打者として出場し、6日に1回はピッチャーとして登板しました。だからそうしたことが起こってもおかしくありません。
彼がどれだけフィールドにいたいと思っているか、チームの勝利に貢献したいと考えているかがわかります。チームとして望むような順位にはいませんでしたが、それでも彼は試合に出たがっていました。そのことが、彼の人間性を示していると思います」
カルロス・エステベス選手「翔平にはもっと休むことも考えてほしい」
Q.大谷選手はけいれんなどを起こしながらプレーを続けていましたね
「翔平は自分のために、そしてチームのために戦うことを願っています。そんな彼を本当に尊敬しています。
でも、今後は必要なときはオフの日を設けたりしてうまくバランスをとってくれることを祈っています。
彼は決してオフを取りたいとは思わない選手ですが、もっと休むことを考えてほしいのです。だって、100試合以上で投げたり打ったりする人なんて他にいないでしょう。ありえないことです。
翔平は時々頑固なところがあります。どこかが痛い時でも(試合に出続けても)なんとかなると思っています。それは悪いことじゃありません。でも同時に、休まなければならないことも知っておく必要があると思います。
誤解しないでほしいのですが、私は彼が間違っていると思っているわけではありません。彼がすごすぎるだけなのです」
Q.将来、子どもや孫に対して大谷選手のことをどう話して聞かせますか?
「間違いなくこう話すでしょう。地球上で最高の二人の選手とプレーをした、一人が大谷選手でもう一人がトラウト選手だと。いっしょの時を過ごし、多くを学びました。大谷選手とオールスターゲームにも出ました。彼は素晴らしい人です。それは何にも代えがたいことでした」
スポーツジャーナリスト「Shoheiは毎晩奇跡を起こしている」
大谷選手の存在は、アメリカ野球界全体にも影響を与えています。
9月に発売され話題になっている本「WHY WE LOVE BASEBALL」。
アメリカのスポーツジャーナリスト、ジョー・ポズナンスキーさんが、アメリカの野球の歴史の中で最も重要な瞬間を50の章にわたって紹介しています。
その中に“SHOHEI”と題された章があります。
「その男、Shoheiは毎晩奇跡を起こしている」
(That man, Shohei, is a nightly miracle)
「大谷は比類なき存在」
(There has never been anyone like him)
著者のポズナンスキーさんは、大谷選手の活躍は、野球ファン以外をも強く引きつけていて、野球の裾野を広げていると語ります。
「特に野球好きというわけではない私の娘たちも大谷翔平選手が大好きです。彼のカリスマ性、笑顔、姿勢…そういったものに私の娘たちはひかれています。彼女たちは野球の歴史に興味がないので、彼の挑戦が過去にほとんど例がないことだとは知りません。彼女たちが知っているのは、彼がハンサムで、笑顔が素敵で、カリスマ性に満ちていて、特大ホームランを打つということです。だからこそ、彼女たちの中で彼がブレイクしているのです」
そして、大谷選手が国籍を超えてアメリカ野球界に新しい風をもたらしているといいます。
「彼が日本人であることは、米国では全く人気に影響していません。彼のことがイギリスやフランス、ドイツなどでも話題にされるのを聞きました。サッカーは国際的で選手も出身地が異なるスターばかりです。それが今野球でも起き始めています。ビッグスターの出身地はどこでもありえる。となると、次のスターがドイツ人かもしれない、中国人かもしれない、オーストラリア人かもしれないし、と感じさせます。彼はそれを可能にし、その物語の語り手となっているのです」