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2023年10月3日(火)

満身創痍のホームラン王 大谷翔平「二刀流」の行方は

満身創痍のホームラン王 大谷翔平「二刀流」の行方は

アジア出身の選手として初めてメジャーリーグのホームラン王を獲得!投手として10勝、打者として自身初の打率3割台。目覚ましい活躍の陰で大谷翔平選手の肉体は消耗していました。右ひじじん帯損傷が明らかとなり9月に手術。この間一体何が起こっていたのか?番組ではエンジェルスのチームメートや関係者らを取材。過酷な二刀流挑戦の“舞台裏”に迫りました。満身創痍の大谷が「偉業」を達成した歴史的意味とは?そして、注目のフリーエージェントの動向についても展望しました。

出演者

  • 井口 資仁さん (元メジャーリーガー)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

ホームラン王と「二刀流」大谷翔平“偉業”の内幕

桑子 真帆キャスター:

10月2日、レギュラーシーズンの全日程が終了したメジャーリーグ。大谷翔平選手が、147年の歴史の中でアジア出身の選手として初めてホームラン王のタイトルを獲得しました。

大谷選手は「これまで活躍された偉大な日本選手たちのことを考えると大変恐縮であり、光栄なことです」とコメントしています。その一方で、シーズン終盤にけがに見舞われ無念の戦線離脱。すっかり見慣れた二刀流がいかに過酷な挑戦か、私たちも改めて気付かされました。

今回、緊急取材したチームメートや関係者が語った大谷選手の知られざる姿とは。

チームメート・関係者が語る大谷翔平

新人内野手として今シーズン初めて大谷とプレーした、ネト選手です。

エンジェルス 内野手 ネト選手
「翔平がどれだけすばらしいチームメートか、言葉では言い尽くせない。彼ほど才能ある人間はこれまで見たことがない」

シーズン終盤、けがで25試合を欠場しながらも最後までホームラントップの座を譲らなかった大谷。好調ぶりを象徴したのが6月。27試合で15本のホームランを量産。ネト選手は、大谷が突出しているのはスイングの“再現性の高さ”だと語りました。

ネト選手
「翔平の打撃練習を見ればわかる。驚いたことにまるでループする動画のように何度も全く同じスイングが繰り返されている。それが大谷翔平という打者を作り上げている。スイングはとても静かで、力まずに打球をはるか遠くに飛ばす」

そして大谷は自分の技術を惜しみなく伝え、ネト選手が不調だったときにはアドバイスをくれたことを明かしました。

ネト選手
「けが明けで不調だったとき、わざわざ僕のスイングを見にきてくれて、スイングを細かく確認してくれました。それが大谷翔平なんだ。彼は『ゆっくり自信を持ってベストを尽くして』と言ってくれた」

投手としてもチーム最多の10勝を挙げ、高いレベルで二刀流を実現した大谷。開幕戦でバッテリーを組んだオホッピー選手は、投手・大谷の緻密さを語ります。

エンジェルス 捕手 オホッピー選手
「翔平はそれぞれの打者に対する攻め方を変えていて、最高にクールだった」

大谷は今シーズン、キャッチャーとのサインの交換方法を変更。自ら配球を決めていました。投手として打者を研究し、打者として投手を分析。二刀流としての準備にも余念がなかったといいます。

オホッピー選手
「翔平がどれほど真剣に野球に取り組んでいるか。翔平から学んだことは細部へのこだわりと、プランを確実に実行する大切さだ」

メジャーリーグ6年目となった今シーズン。大谷はさらなる高みを目指していました。

シーズンを通して、投手として登板する間隔を原則「中5日」に。休養日もほとんど設けずにフル出場を続けていました。

その二刀流・大谷を象徴した1日があります。現地メディアがこぞって「野球史上最高の日」と表現したタイガースとのダブルヘッダーです。この日、バッテリーを組んでいたウォラック選手です。

エンジェルス 捕手 ウォラック選手
「あの日のことは、ずっと忘れない。あらゆるニュースで“野球史上最高の日”と言っていたが、その通りだ」

ダブルヘッダーの1試合目に投手で先発した大谷。

ウォラック選手
「すばらしい投球だった。特に速球がさえ渡っていた。翔平はストライク先行で素早く三振を奪っていった」

打たれたヒットは、わずか1本。自身初の完封勝利を飾りました。1試合目を終えたあと、ネビン前監督は大谷とあるやりとりを交わしていたと明かしました。

エンジェルス ネビン前監督
「ひどく蒸し暑い日に翔平は9回を投げ切った。私は次の試合を休ませようとしたが、彼がやってきて言った。『100%出場できる』」

第1試合終了から45分後に始まった第2試合。その第2打席。

実況
「翔平!逆方向に叩き込んだ!」

37号ホームラン。さらに。

実況
「もう一発だ!大谷がまたやった!」
ウォラック選手
「投球もすさまじかったが、同じ日にホームラン2本なんてクレイジーだ」

しかしこの時、大谷の体には異変が起きていました。ホームランを打った直後に見せた動作。“筋肉のけいれん”が起きたとして交代を余儀なくされたのです。

その後も右手のけいれんなどにたびたび悩まされた大谷。それでも今シーズンは打率、ホームラン数、打点、勝利数など13の項目でチームのトップを記録し、プレーオフ進出に向けて出場を続けました。

エンジェルス 大谷翔平選手
「みんないっぱいいっぱいの状態でプレーしている。休めるような試合は本当にないと思うので、できるなら1試合1試合、全部出たい」
エンジェルス エステベス投手
「翔平を心の底から尊敬している。けいれんに悩まされながら試合に出続けた。試合に出て、チームに貢献することを望んだ」

そして、126試合目の出場となった8月23日。初回、44号のツーランホームラン。続く2回のマウンド。

オホッピー選手
「ブルペンではいつも通りだったが、試合では違和感があった。すべての球種でスピードが落ちていた。翔平はそれまでもけいれんで降板していたが、明らかにそれ以上の何かが起きていた」

右ひじを痛め、無念の降板。その後、じん帯の損傷が明らかになりました。

エンジェルス 外野手 トラウト選手
「打ちのめされた。本当に気の毒だし、悲しい。チーム、ファン、野球界にとっても本当につらい日だ」

10月3日、解任が発表されたネビン前監督。指揮官として今回の故障をどのように受け止めたのか。

ネビン前監督
「つらく悲しいことだ。翔平がどれだけ傷ついたか分かる。彼はこういうとき『みんなを失望させた』と感じるタイプだ」
取材班
「大谷選手を管理することは難しかったか?」
ネビン前監督
「私はいつも選手のことを考え、彼らが何を伝えたいのか理解しようとしてきた。私が選手だったころは毎日プレーしたかったし、監督に休みをもらってもうれしくなかった。ファンとチームのためにすべてをささげた姿を決して忘れないし、もっと長く彼を見ていたい」

井口資仁さんと振り返る今シーズン

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、元メジャーリーガーで昨シーズンまでロッテの監督を務められていた井口資仁さんです。

まず一緒に今シーズンの大谷選手を振り返っていきたいと思います。こちら出場カレンダーです。

9月までで試合を休んだのは青く塗られた僅か2試合だけでした。さらに、投手としても出場した日を赤くしていますが、これ見ると「中5日」のペースで23試合に先発しました。

さらにさかのぼると、3月にはワールドベースボールクラシックにも7試合出場し、投打で活躍していました。今シーズンとにかくフル稼働だったわけですが、今、終えてどういうことを感じていますか。

スタジオゲスト
井口 資仁さん(元メジャーリーガー・前ロッテ監督)
ワールドシリーズ優勝2回

井口さん:
特に今シーズンは投打と共に好調でしたから、その中でタイトル争いもしていたので、大谷選手の中では「休む」という発想がなかったと思います。そしてネビン前監督も、その大谷選手の意向を受けて尊重しながら出し続けたんだと思います。

桑子:
ただ、途中で離脱せざるをえない結果になってしまった。この辺りはどうでしょう。チームの管理体制、どう考えていますか。

井口さん:
私も監督経験ありますが、選手というのはとにかく試合、グラウンドに立ちたい、出続けたいと思うのが選手なので、そこを監督としてしっかり管理しながら最後まで完走できるように休みを与えるというのが必要だったのかなと思います。大谷選手の中でもある程度体の異変はありましたので、そこで休む決断というのも必要だったのかなと思います。

桑子:
やはり「選手を出させない」というのは大変な決断ですか。

井口さん:
もちろんチームの軸の選手ですから勝ちたいというところがありますし、その選手を出さないという勇気も必要だと思います。

桑子:
今シーズンの大谷選手の打撃を振り返っていきたいと思います。とは言ってもすばらしい成績でしたよね。

ホームラン、打率、盗塁、出塁率、長打率で、1位を取ったのが3つあるわけですが、この中で井口さんが注目されるのが「打率」だそうですね。

井口さん:
はい。ホームランもすごいのですが、やはり打率3割を超えたというのがすばらしいところかなと思います。

昨シーズン終わった中で3割を打ちたいという思いで今シーズン臨んだのですが、普通3割を目指すとコンパクトなスイングになって長打というのが減るのですが、ことし(2023年)はその長打率というところもトップですから。これを両立してできたということは本当にすばらしい打撃ができたんじゃないかなと思います。

桑子:
打率と長打率の両立というのがものすごいことだと。そして「盗塁」にも注目されているということで。

井口さん:
20位なのですが、二刀流での20位ですからね。盗塁というのはけがのリスクもありますし接触プレーもありますので、この辺、投手としてわれわれは「走らないでくれ、けがしないでくれ」と思いながら見てましたけれども、その中で一つでも先の塁をねらっての20盗塁というのはすばらしかったですね。

桑子:
その中で注目している選手がいるということで、紹介していただいてもいいでしょうか。

井口さん:

ブレーブスのアクーニャJr.選手です。今シーズン、ホームラン41本、盗塁73。40-70をクリアした選手ですよね。

桑子:
これはどれだけすごいことなのでしょうか。

井口さん:
1番バッターなのですが、ホームラン41本を打ちながら盗塁も73個できた、ここがやはりすばらしい。すべてを備えている選手ですね。中でも打率も3割超えた選手なので、やはり大谷選手のいちばんのライバルといってもいい選手じゃないでしょうか。

桑子:
来シーズン、この2人の対決も注目したいと思います。

実は大谷選手、もう一つすごいことがありました。この大谷選手のユニフォームですが、今シーズンのメジャーリーグで最も売れたユニフォームになりました。日本選手としては初めてのことです。大谷選手の存在はアメリカ野球界に新たな景色を切り開いています。

大リーグの景色変えた 大谷翔平の存在とは

9月。アメリカで一冊の本が出版され、話題になっています。

アメリカの野球の歴史の中で最も重要な瞬間を50の章にわたって紹介した、この本。伝説的な選手が並ぶ中、「SHOHEI」と題された章があります。


その男 Shoheiは毎晩奇跡を起こしている
彼は比類なき存在

「WHY WE LOVE BASEBALL」より一部抜粋

著者のスポーツジャーナリスト、ジョー・ポズナンスキーさんは、メジャーリーグの歴史を語る上で大谷に触れることは自然なことだったといいます。

スポーツジャーナリスト ジョー・ポズナンスキーさん
「最初にこの本を書くことを思いついた時点で、大谷翔平に関する章を入れると決めていた。私は現在の野球こそが過去最高だと思っている。翔平は、まさにその代表だ」

ポズナンスキーさんが注目しているのが、メジャーリーグの歴史とスターの関係性です。

ジョー・ポズナンスキーさん
「アメリカの危機や野球の危機があるたびに誰かが登場してきた。たとえばベーブ・ルース」

大がかりな八百長事件でリーグの人気が大きく低下したころ、台頭したのがベーブ・ルース。ホームランを量産する姿が多くの人を引きつけ、野球人気を復活させたといわれています。

ジョー・ポズナンスキーさん
「そして第2次世界大戦があり、ジャッキー・ロビンソンが出てきた。彼は黒人選手として初めてメジャーリーグでプレーした」

2000年代、ステロイドなど選手の薬物使用疑惑が報道される中、危機を救ったのがイチローだといいます。

ジョー・ポズナンスキーさん
「彼のイメージがクリーンだったことに加えて、彼のプレースタイルは、それ以前の数年間とは全く違うものだった。そして誰もが野球のすばらしさを思い出した」

今、メジャーリーグが直面する課題は若者の野球離れ。

好きなスポーツの割合はアメリカンフットボール、バスケットボール、サッカーに次ぐ4番目です。その救世主として期待されているのが大谷だとポズナンスキーさんはみています。

2023年からメジャーリーグは、日本の交流戦にあたるインターリーグ(交流戦)の枠組みを変更。全てのチーム同士が対戦することで、より多くの地域で大谷を見られるようになりました。

ジョー・ポズナンスキーさん
「エンジェルスがアメリカンリーグに入っていることで『なぜナショナルリーグで大谷のプレーを見られないのだ』と。誰もがスター選手を見られるようにする枠組みの変更に影響を与えたと思う」

エンジェルスが相手本拠地で行った試合の観客数は、昨シーズンに比べ、およそ6,000人増加。その敵地での試合では珍しい現象が。

実況
「そして大谷に回ります。おっと、申告敬遠。これはさすがにホームのファンからもブーイング」

敵味方関係なく、観客は大谷に声援を送ります。

ドジャースのファン
「みんなが見たいと思う、いい選手。100%大谷のファン。いつかドジャースでも輝いてほしい」

メジャーリーグを長年取材するスコット・ミラー記者は、若者たちが大谷に引きつけられる理由をこう分析します。

メジャーリーグ ベテラン記者 スコット・ミラーさん
「大谷はカジュアルなファンを連れてきた。『彼に会ってみたい』『打つところを見たい』と。彼を見ていると何でもできるような気分になるので、人々のイマジネーションがかきたてられる。本当にクールだ。メジャーリーグは間違いなく大谷を野球の“顔”にしたいのだと思う」
ジョー・ポズナンスキーさん
「“(著者の)翔平に関する章”は何度も書き換えている。常に新しいことを達成しているからだ。彼は過去にない挑戦をし、その道を切り開こうとした。そんな人間はほとんどいない。次の10年も翔平の章を書き換え続けたい」

どうなる“大谷争奪戦”「二刀流」の行方は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
井口さんは大谷選手がアメリカの人々をひきつける魅力、どういうところだと思いますか。

井口さん:
常に笑顔を絶やさずコミュニケーションを取れているところじゃないでしょうか。試合中でも他のチームの選手と笑顔でコミュニケーションを取っている。この辺りだと思います。

桑子:
違うチームの選手が大谷選手のところへ寄っていくというシーンもよく見かけますよね。

井口さん:
審判の方も寄って大谷選手に話しに行っている姿が見られますよね。

桑子:
そしてシーズンが終わっても大谷選手への注目まだまだ続きます。ワールドシリーズ終了後、フリーエージェントとなって移籍を巡り争奪戦が予想されるからです。今回私たちが取材したメジャーの取材歴30年以上のベテラン、スコット・ミラー記者が移籍先の候補として名前を挙げたのがこちらです。

大本命がエンジェルスと同じロサンゼルスに本拠地を置く、強豪ドジャース。そして対抗がシアトル・マリナーズ、サンディエゴ・パドレス、さらに大穴、もしかしたらロサンゼルス・エンジェルスもあるのではないかということで、いずれも西海岸のチームです。

井口さん、ポイントが2つあるということで1つ目が…

井口さん:
一つは「温暖な気候」というところがあります。2024年は投手としてのリハビリになりますから、やはり暖かい気候の中でしっかりとプログラムをしながらリハビリしていく。これが大事になってくると思います。

桑子:
そしてもう一つが、井口さんの左手に輝く…。こちらは?

井口さん:

もう一つは「チャンピオンリング」ですね。ワールドシリーズを優勝した選手たちがもらえるリングです。

桑子:
(優勝した選手)しかもらえない。

井口さん:
(優勝した選手)しかもらえないです。これを目指してやっているといっても過言ではないぐらいメジャーの選手は優勝を目指しています。大谷選手もやはり「優勝したい」と常々言っていますので、優勝できるチームに移籍というのもあるかもしれません。

桑子:
どこに行くのか大変興味深いです。来シーズンに向けては大谷選手の手術を担当した医師がこのように言っています。

手術を行った ニール・エルアトラッシュ医師
「バッターとしては来シーズンの開幕から。ピッチャーとしては再来年から復帰できる見通し」

また、大谷選手は10月2日に自身のSNSで「すぐにリハビリを始めて以前より強くなって戻ってくるためにベストを尽くします」と投稿していました。

井口さん、とにかく二刀流、持続可能である必要があるわけですが、そのために必要なことはどういうことでしょうか。

井口さん:
やはり1年でも長く二刀流としてプレーし続けるためには、ある程度の休みを取りながらリカバリーしてやることが大事です。1年間を完走して戦い抜くということが大事ですから。その辺りしっかりとプランを立ててやっていってもらいたいなと思います。

桑子:
前例がないことをしているわけですから、それなりの体制を組むということも必要になってきますか。

井口さん:
大谷選手専用のメディカルチームというのを作るのも、ひとつ案かなと思います。

桑子:
戻ってきてどんな姿になるのか。強くなって戻ってくると言っていますから、私たちもそんな姿を楽しみに待ちたいと思います。井口さん、大谷選手にエールをひと言いただけますか。

井口さん:
来シーズンは、まずは打者として三冠王を目指して頑張ってもらいたいと思います。

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