クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2021年6月15日(火)

大谷翔平
驚異の進化の舞台裏

大谷翔平 驚異の進化の舞台裏

打って、投げて、走って、守って、“二刀流”を全面解禁して大躍進する大谷翔平選手。三冠王3回の落合博満さんが生出演し、“オレ流”解説でホームラン量産の秘密を解き明かす。今シーズン、“ショウヘイルール”を撤廃し、起用法を大きく変えた舞台裏に何があったのか?マッドン監督やGM、さらに“二刀流”の生みの親である日本ハム・栗山監督を直撃する。専属取材班がキャンプ中からとらえたのは、独自の練習で新たな打撃・投球フォームを模索する姿。最新の動作解析やデータ解析とともに驚異の進化に迫る。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 落合博満さん (中日ドラゴンズ元監督)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

"二刀流"大谷翔平 驚異の進化 ホームラン連発 衝撃の打法

ホームランで自己最速となる、188キロの弾丸ライナー。

実況
「まるでレーザービームみたいだ。ロケットだよ」

大リーグで自己最長となる、143mの特大アーチ。

今シーズン17本の本塁打を放ち、ホームラン王を争う活躍を見せる、大谷選手。

大谷翔平選手
「いいスイングができれば高くても低くても、内でも外でも、ホームランにできると思う」

今シーズンの大谷選手の驚異的な進化を象徴する、ある指標があります。「バレルゾーン」。バレルゾーンとは、最も長打になりやすい打球の速度と角度を組み合わせたものです。近年、大リーグで特に重視されています。

例えば、速度161キロ・角度20度の打球では、3%の確率でしかホームランになりません。ところが、同じ速度でも角度が27度になり、バレルゾーンに入るとホームランの確率は52%に跳ね上がります。

大谷選手がバレルゾーンの打球を打つ割合は13.8%で、メジャートップを記録。並みいる強打者を抑え、最もホームランに近い理想の打球を放っているのです。

大谷選手が、なぜメジャートップの打球を打てるようになったのか。その鍵は、フォームの劇的な変化にあると指摘するのは、動作解析の第一人者・川村卓(たかし)さんです。

筑波大学 体育系 准教授 川村卓さん
「これで打てるのかなと思いましたね、正直」

「それぐらいムチャクチャな?」

川村卓さん
「ムチャクチャというか、日本人的な常識で考えると、これはやらないほうがいいと思っていたんですね」

川村さんが注目したのは、スイングの軌道です。去年のスイングは、地面に対して水平に近いレベルスイングになっていましたが、ことしは下から上に大きく振り上げる、アッパースイングに変わっています。

打球に角度がつく一方で、重力に逆らってバットを振るため、パワーのある打球を打つのが難しく、軸足の強い筋力が求められるといいます。

川村卓さん
「大谷くんの場合は下から振り上げても、背中側、特に軸足の背中側の筋肉が非常にしっかりと支えていますので、振り上げるスイングでも力強さを失わず振ることができている。とんでもないというか、今までの大谷くんとも違いますし、メジャーでもこれだけ振り上げるスイングはなかなかいない」

新たなスイングはどのようにして生まれたのか。私たちは、大谷選手がバットに何かを装着し練習する姿を、たびたび目撃しました。取り付けていたのは、「ブラストモーション」と呼ばれるハイテク機器。センサーによって、スイングのスピードや角度、バットの軌道がデータ化できるシステムです。

大谷選手は、それらのデータと自分の感覚を照らし合わせながら、スイングの修正を重ねていたのです。

さらに、スイングの改造に欠かせなかったのが、軸足の強化です。自分の体重の2倍以上あるおもりを使った、ウエイトトレーニング。軸足を支える、背筋から太ももの筋肉などを鍛えます。素振りでは、あえて片足を上げてスイングすることで、軸足に重心を乗せる練習をしてきました。

"二刀流"全面解禁の舞台裏 "ショウヘイルール"撤廃

今シーズンの大谷選手の進化の裏には、球団のある決断が大きく関わっていました。

ジョー・マッドン監督
「今シーズンは、"ショウヘイルール"を作りたくない。イニング数も投球数も登板回数も打席に立つ日も、すべて決めない」

二刀流による体の負担を考慮し、出場試合数などを制限していた、通称「ショウヘイルール」の撤廃を決めたのです。これまでは、登板日の前後に必ず休みを取るという制限を課していました。しかし、ことしはその制限をなくそうというのです。その背景には、1試合でも多く出場したいという大谷選手自身の強い意向があったと、チームメートは明かします。

マイク・トラウト選手
「これまで彼は休みを取っていたけど、"本当は打ち続けたいんだ"と言っていたよ」

大谷翔平選手
「使う使わないの方針もあると思いますけど、できるかぎり(試合に)出たいし、打ちたい、投げたいというのは常に思っている」

大リーグに挑戦して、4年目の大谷選手。これまでは、たび重なるけがの影響で、思うようなシーズンが送れていませんでした。1年目には右ひじのじん帯を損傷し、手術を経験。2年目には、左ひざの手術も受けました。その後、二刀流に耐えられる肉体にするため、地道な筋力トレーニングを重ねてきたのです。

かつて、大谷選手と共に二刀流を作り上げてきた、日本ハムの栗山英樹監督。シーズン前、大谷選手から大リーグに来て以来、最高のコンディションだと聞いていました。

日本ハム 栗山英樹監督
「これまでの歩んできた翔平の道の中で、去年のオフにもいろいろ話しましたけど、はじめて全力で勝負のできるシーズンになる。体のことと言うのは本当に表に出ない、たくさんいろんなことがあって、はじめていろんなことを気にしないで打って投げてができる年になる」

オフの間、大谷選手の状態を綿密にチェックしていた球団側。首脳陣は大谷選手との話し合いを重ね、出場機会をできるだけ増やしてほしいという本人の意思を尊重すべきだと判断しました。

ペリー・ミナシアンGM
「彼は不可能を可能にする、規格外の選手です。だから監督と相談して、彼の邪魔をしないようにと決めたんです。彼に任せましょうと」

ジョー・マッドン監督
「彼に自由に野球をしてもらうことが、プラスになると思ったんだ。彼と対話を重ねながら、一緒に歩んでいこうと思う」

球団からの厚い信頼を受け、今シーズンの大谷選手は開幕から66試合のうち、欠場は僅か2試合だけ。長打が望まれる、2番・指名打者として、ホームランを量産し続けています。

大谷翔平選手
「期待して使ってもらっているので、1試合1試合、期待に応えられるように、もっとたくさんの人の前でプレーをしたい。もっともっと打てるように頑張りたいなと思います」

"二刀流"大谷翔平 驚異の進化 "オレ流"落合博満さん 生出演

井上:まず、バッティングを見ていきましょう。ことしの大谷選手の成績、いずれもリーグ上位の結果を残しています。中でも際立つのが、ホームランと長打率です。共にリーグ3位と、大リーグのトップクラスのパワーヒッターに成長しています。

保里:落合さん、長打をここまで打てるようになった、これはどうしてだと見ていますか。

落合博満さん (中日ドラゴンズ 元監督)

落合さん:やはり体の状態がいいということが、まず大前提だと思います。

保里:プレーを見ていても、そのように感じられますか。

落合さん:楽しそうにやってますもんね。イヤイヤやっているわけじゃないし。そこがいちばんなのではないかと思います。

井上:技術面を見ていきます。落合さん、バッティングフォームですが、去年とことしだと、どこがいちばん変わったと思いますか。

落合さん:分かりやすく言うと、バットを持ってバックスイングに入るとき、去年までは右の肩が中に入ってたんです。

井上:内側に入ると?

落合さん:はい。内側に入ると、当然ストライク、ベース上の角度が変わります。入ったら近いと思って、打ちに行ったら遠かった、という状況だと思います。ことしの場合は、どっちかというと右の肩があまり中に入らなくなった。だから、ストライクゾーンをベース板の上のストライクとして見ることができるようになってきたのではなないのかなと思います。

井上:スイング面ではどうでしょう。アッパースイングという話もありましたが。

落合さん:われわれの時代だったら、一番先に直されるところです。

井上:それはやってはいけないと。それはどういう理由なのでしょうか。

落合さん:山の上から川が下に流れるように、だんだん下に来るにしたがって速くなる。スイングも一緒です。上から下へ振りおろすのは、そんなに力は要らないのでスピードが増してくるのです。ところが、下から上にしゃくり上げるというのは、相当なパワーがいるということです。去年までも、どちらかというと下からは出ているんです。出ているのだけれども、VTRにあったように器具をつけて計測して、自分に合ったスイングは何なのかを自分で模索して探り当てたというのが、このアッパースイングにつながっているのだろうと思います。

井上:落合さん、冒頭に筋力面のアップの話もされていましたが、重心に力を入れられるようになった。こういうところも、そこにつながってくるのでしょうか。

落合さん:パワーアップするということは、筋力だけ、上半身だけではありませんから、当然、体バランス的に全部強くなってくる。強いところと弱いところがあると、必然的に弱いところに故障が出てきてしまうので、そういう意味ではバランスよく体を作り上げたんだろうと思います。

井上:下から力をバッティングにつなげいているということですね。あと落合さん、ホームランで注目されている点、1つ挙げていただいていまして、外角の高めの球をライトスタンドのほうに持っていったと。

落合さん:これはアッパーで行きかけているんです。行きかけているけれども、途中で軌道修正して。だからこれは何というか、偶然というのかな。

井上:普通はホームランになるようなものじゃないんですよね。

落合さん:普通だったらファウルか、空振りするような高さ。この軌道からいけばね。手が、途中から上へ上がってきてますよね。これが軌道修正したということです。

保里:一瞬の間に。

井上:規格外なんですね。

落合さん:普通、バットスイングってこういうふうにするでしょう。これが自然のスイングだとすると、このスイングできる回数はそんなにないのです。

だから、どうやって自分の中で、来たボールに対して瞬時に対応能力を発揮できるかというのが、確率が上がってくるということなので。その最たるものだと思います。

井上:まさに、パワーと技術面が備わってきたということですね。対応力といいますか。

落合さん:対応力。技術よりも対応力ですね。

保里:そこを実現したのが、あのホームラン。一方で、今シーズン"二刀流"を全面解禁させたわけですが、マッドン監督はこのようにおっしゃっています。「大谷選手を登板をさせるかどうかの判断は、本人に意思を確認する」と、本人が出るといえば、それを尊重するんだとおっしゃっているのですが、この起用法、落合さんから見るといかがでしょうか。

落合さん:当然だと思います。本人は二刀流ということを目指してアメリカに渡ったわけですから。バッターだけでもだめ、ピッチャーだけでもだめなのです。両方をやって、初めて自分の思い描いている野球スタイルというものを確立できるので。そういう意味では出るか出ないかと言われたら、出ないという選手は1人もいないと思います。

保里:できる限り出たいと、本人もおっしゃっていましたが。

落合さん:よっぽど周りから見て、これはけがしてる、どこか故障があるというときだけはストップをかけるでしょうけれども。それ以外だったら、本人もいくら状態が悪くても、いや大丈夫です、行きます、というのが選手の宿命です。本能です、これは。

井上:ピッチャーとしての大谷さんですが、防御率は2点台と好成績を残しています、奪三振もそうですけれども。

ただ気になるのが、長いシーズン打つのと投げる、ともに高いレベルをどこまで維持できるのだろうかという点です。開幕から66試合で、欠場したのは僅か2試合。

保里:今見ている中で、赤いところで「休」と書いてある2日間のみということですよね。

井上:しかも、シーズンがまだまだ100試合近く残ってます。大谷選手、大丈夫なのでしょうか。

高いレベルで"二刀流"維持へ 大谷翔平 新たな模索

シーズン開幕直後の4月4日。大谷選手は、大リーグで初めて投打で同時出場を果たしました。

実況
「なんてこった!!101マイル(161km/h)だ!!」

160キロ超えを連発し、ストレートの平均球速は、157.8キロを計測。そして、打者としても。

実況
「初球からいきやがったぜ」

二刀流としての新たな可能性を見せつける、さい先のよいスタートを切りました。しかし、1か月半後の6回目の登板。大谷選手の投球に、異変が表れます。

実況
「あれ、ストレートが88マイル(142km/h)だな」

ストレートの平均球速は、146キロ。初登板と比べて、10キロ以上落ちたのです。試合後、記者から質問が相次ぎました。

記者
「ストレートの球速が出ていませんでしたが」

大谷翔平選手
「単純に体が動かなかったという感じ。(ひじの)張りが出てきたりというところではあると思うので」

記者
「休養をとる計画はありませんか」

ジョー・マッドン監督
「それについては、過剰反応したくない。球速は出ていなかったが、よくあることだ」

大谷選手が訴えた、ひじの張り。大リーグでもプレーした、藤川球児さんが指摘したのは…。

阪神やカブスで活躍 藤川球児さん
「変化したところが、ひじなんです。違和感があるんです。別のものがはいっているので。だから同じように体を動かしても、ここだけ違うので合わないんです」

大谷選手が3年前に受けた、右ひじの手術。損傷した、ひじのじん帯を切除して、けんを移植する「トミー・ジョン手術」です。実は、火の玉ストレートと呼ばれる剛速球で活躍した藤川さんも、同じ手術を経験。新しいひじの感覚をつかむまでには、かなりの時間を要しました。しかも投手だけでなく、打者としての負担もかかる大谷選手のようなケースは、誰も経験したことがないと指摘します。

藤川球児さん
「戦いながら、そして野手をしながらやっていますから。今度は体の疲労や、『二刀流の疲労』との戦いになると思います」

のしかかる二刀流の疲労。大谷選手は、投打共に新たな取り組みを始めました。投球では、ひじへの負担を減らすためフォームの改造を決断しました。

トミー・ジョン手術を100件以上執刀してきた、医師の馬見塚尚孝さんです。手術前のフォームと比べ、馬見塚さんが注目したのは、左足が地面についた瞬間。手術前は両肩が水平に近い状態であるのに対し、現在は右肩が下がっています。

重心を後ろに傾けてタメを作ることで、腕の力に頼らず、体全体を使って投げることができるといいます。

スポーツ医学が専門 馬見塚尚孝医師
「体が1回セカンド(2塁)方向に倒れて投げることによって、大きな運動エネルギーを体で生んで、そうするとここは非常に質量が大きいですから、大きな運動エネルギーが生まれます。結果として、腕はここで生んだエネルギーを前の方向にコントロールよく伝えるだけで済む。そうするとケガが減っていく」

さらに大谷選手は、新しいフォームがひじに与える負荷を可視化することにしました。右腕につけた黒いバンド。内蔵されたセンサーが、ひじの角度や腕のスピードを計測し、スマートフォンに数値を送ります。

大谷翔平選手
「腕にかかるストレスなどのデータを集めて、自分が1年間回るのに一番いい登板の感覚の過ごし方、球数を探していこうというものです」

打撃でも疲労をためないように、練習量を見直すことにしました。試合前、チームメートがフリーバッティングを行う中、大谷選手の姿は外野に。首脳陣と相談し、その時間を体のケアなどに費やすことにしたのです。

大谷翔平選手
「監督にも結構『練習のしすぎだ』と言われていたので。もちろん160試合あるなかで、毎日毎日何百本も振るのが効率がいいのか悪いのか」

模索を続ける大谷選手。日本ハムの栗山監督は、これを乗り越えた先に二刀流の新境地が開けると期待しています。

日本ハム 栗山英樹監督
「(試合に)出すぎだとか、いろんなことは言われているし、僕の中でいろんな考えはありますけれど、それはどうでもよくて。やっぱり誰も無理だと思うようなことをやるの大好きだし、先入観なく、これよりもっとできる可能性もあるわけですよね。翔平の真価が問われるのはこれからだし、ちょっとつまずいたりするときに、それをはねのけるのは翔平の良さだと思うので。世界一の選手になれると信じて、その道をしっかりと歩んでほしいと思う」

"二刀流"大谷翔平 驚異の進化 今後の期待

井上:栗山監督へのインタビュー、詳しくは関連記事からもご覧いただけます。

保里:落合さん、毎日のように大谷選手の活躍が見られる、うれしいなと思う一方で出場し続けて、けがの心配はないか、不安にもなってしまうのですが。

落合さん:けがは、つきものなので。自分がしようと思ってするわけではないし、それは不慮の事故として割り切らなきゃいけないと思います。でも、ゲームに出続けることが、いちばんの目的なんだろうと。だから、変に気を使って休ますと、休み癖がついて疲労感が逆に抜けなくなるということがあるので。アメリカに行って4年目でしょう。二刀流、ことし初めてやっているようなものですから、これからの積み重ねとして休むことは絶対勧めません、私は。

井上:去年、おととしとフルシーズンは投げていないので、そういう意味で、この1年が1つの試金石というか、次のシーズンも見据えられるという。

落合さん:そうです。蓄積していくものであって、ことしがどうの、これから先どうのということは、1年終わってからの結果で初めて精査するだけであって、今論ずることではないだろうと思います。

井上:あと落合さん、大谷選手の理想像なのですが、二刀流というのは2つ追いかけると、なかなか活躍は数字には表れにくい部分があると思います。彼は楽しい部分とか、どういうことを求めているんだと思いますか。

落合さん:野球の原点でしょう。要するに、昔で言えば野球の一番うまいのがピッチャーであり、4番バッターだったという、その覚悟があるだけに今、自分がそれを実践してやっているようなものじゃないですか。

井上:今後、まだシーズン長いですが、どんな事を期待しますか?けがをせずにということですけど。

落合さん:今までどおり、結果に左右されないで、一日一日楽しく野球ができれば、それが結果としていちばんいい方向に出てくるんだろうと思います。けがは、つきものなのでね。したときにどうするかというだけであって、する前に考えることじゃないと思うので、無事ことし、シーズン乗り切るということだけを考えて、それが来年、再来年と続いてくるんだろうと思います。

井上:ありがとうございました。

関連キーワード