イチから解説 “台湾有事” なぜ? 本当に起きるの?日本の立ち位置は?
最近、ニュースなどでもよく耳にする“台湾有事”。
そもそも、なぜ中国は台湾にこだわり、そこになぜアメリカも深く関わろうとするのでしょうか。
そして、本当に有事は起きるのか。起きるとしたらいつなのか。
“台湾有事”について考えるうえで、知っておきたいポイントをイチから解説します。
(クローズアップ現代 取材班)
なぜ台湾をめぐって米中が対立するのか
中国政府は、台湾はもともと中国の領土だとして、必ず統一すると主張してきました。その目標は1949年に毛沢東が中華人民共和国をつくった時から一貫しています。当時は国力が弱かったため、台湾を武力で統一する力はありませんでしたが、近年、中国が力をつけるなか、軍事力を使ってでも台湾を統一するという構えを見せるようになっているのです。
習近平国家主席は、最高指導者になった翌年の2013年に行われた国際会議で「長期にわたる政治対立を次の世代へ引き継ぐわけにはいかない」と発言。自分の時代に台湾を統一する意欲を明らかにしました。
そして去年、「最大の誠意と努力で平和的な統一を堅持するが、決して武力行使を放棄せずあらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す」と述べ、統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示しました。
一方、アメリカ政府は、長年、中国が武力で台湾統一をはかろうとした場合の対応をあいまいにしています。そうすることで、中国の行動を抑止する戦略をとっているのです。
しかし、バイデン大統領は「中国が台湾に侵攻したらアメリカは軍事的に対応する」とする考えを幾度にもわたり示しています。
アメリカは、かつて共産党の毛沢東が中華人民共和国をつくり、国民党の蒋介石が台湾に逃げた時から、台湾が共産党に支配されないように支援を続けてきました。その後、台湾が民主化され、いまは「民主主義を守る」という点で非常に大事な場所となっています。
また、中国が台湾を統一すれば、中国軍が簡単に太平洋に出られるようになり、アメリカとしては直接的な脅威が高まることにもつながります。更に、台湾の半導体の受託生産が世界一と、経済の面でも台湾が欠かせない存在であることも、重要な要素と考えられています。
緊迫?台湾情勢を巡る最近の動向
去年8月、台湾情勢が緊迫する出来事がありました。
アメリカのペロシ下院議長が中国側の強い反対にも関わらず、アジア歴訪の一環として台湾を訪れたのです。台湾訪問の背景には、アメリカの議会で中国への警戒感がこれまでになく高まっていることがありました。
ペロシ下院議長は台湾の葵英文総統と会談し、「世界は今、民主主義と専制主義のどちらを選ぶのか迫られている。台湾と世界の民主主義を守るためのアメリカの決意は揺らぐことはない」と述べました。
それに対し、中国は即座に激しく反発。
中国外務省が「台湾独立勢力への誤ったシグナルで、厳しく非難する」などとした声明を発表、すぐさま台湾近くで、4日間に渡る軍事演習を行いました。
台湾への攻撃を想定した前例のない演習で、台湾側によると、この演習で41隻の艦船と176機の軍用機が確認され、軍用機はのべ100機以上が、台湾海峡の「中間線」を越えて台湾に近づきました。
初日に発射された11発の弾道ミサイルのうち、4発が台湾の上空を越えて東側の海に着弾したほか、5発が日本のEEZの内側に着弾する事態も起きました。
それ以来、両国の軍どうしが連絡を取り合うためのホットラインが遮断されたままの状況が続いています。
こうしたなか、ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官が、ことし5月上旬、オーストリアのウィーンで中国で外交を統括する王毅政治局委員と会談し、対話を継続していくことで一致。
バイデン大統領からは、中国との関係について「雪解けは近い」という認識も示されました。
しかし、その後、中国軍とアメリカ軍の艦艇や航空機が異常な距離まで接近する事案が相次いで起きています。
5月、アメリカ空軍の偵察機が南シナ海上空の国際空域で通常の偵察活動を行っていたところ、中国軍の戦闘機が前を横切りました。さらに6月には台湾海峡を航行していたアメリカ海軍のミサイル駆逐艦の前方を中国の駆逐艦が横切り、およそ140メートルの距離に接近しました。
アメリカ軍はいずれの事案についても、中国側の対応が意図しない衝突につながりかねない危険なものだと非難しました。
これに対して中国外務省は「アメリカ側の挑発的で危険な行動が根本的な原因だ」などと反発しています。
両国の間で、閣僚などによる対話が行われながらも、対立は深まったままです。
台湾を巡る日本の立ち位置は?
日本政府は、台湾との関係に関してどのような立場をとっているのでしょうか。
51年前の日中国交正常化を受けて日本は台湾との外交関係を断絶しましたが、その後も緊密な経済関係を維持・発展させ、民間の交流も盛んに行われるなど、良好な関係を築いてきました。
ただ、台湾との関係について、日本政府はいまも「日中共同声明」を引き継ぐとしていて、外務省のホームページには、「台湾との関係に関する日本の基本的立場は、日中共同声明にあるとおりであり、台湾との関係について非政府間の実務関係として維持していく」と記されています。
そのうえで、「台湾をめぐる問題が両岸の当事者間の直接の話し合いを通じて、平和的に解決されることを希望する」という立場を示しています。
今年、中国は、海軍の空母「山東」を沖縄県・宮古島の南の太平洋上を航行させるなど、沖縄県・尖閣諸島や台湾周辺での軍事活動を活発化させています。
今月15日には、沖縄県の尖閣諸島の沖合で中国海警局の船4隻がおよそ1時間40分にわたって日本の領海に侵入しました。尖閣諸島の沖合で、中国海警局の船が日本の領海に侵入したのは、今年に入って23件目でした。
日本政府は中国政府に懸念を示すとともに、領海侵入の即時停止を強く求めています。
そうした中、台湾の台北にある日本の窓口機関の事務所に、現役の防衛省職員が初めて派遣され、ことし春から常駐していることがわかりました。
台湾有事への懸念が高まるなか、情報収集などの体制が強化されたことになります。ただ、日本は依然として、現役の自衛官を派遣することはしていません。台湾を自国の一部と主張する中国の反発を和らげたいためとみられます。
“台湾有事” 起きる可能性は?
“台湾有事”は起きるのか? 起きるならばいつなのか?
アメリカ政府は、ことし3月、国家情報長官室が世界の脅威を分析した年次報告書を公表。2027年という具体的な数字に触れました。
「中国は習近平指導部が3期目に入る中、台湾に統一を迫るとともに、台湾へのアメリカの影響力を弱らせようとする」としたうえで、「台湾有事の際にアメリカの介入を抑止できるだけの軍の態勢を2027年までに整えるという目標に向けて取り組みを進めている」と指摘したのです。
実際、中国の軍備増強は著しい状況です。
特に、中国海軍は、急速にその戦力を増強していて、隻数で見ればすでにアメリカをしのぎ世界1位です。また、アメリカ海軍情報局によると、中国海軍は2025年までに400隻、2030年までに440隻体制に増強される見通しです。
しかし、今回話を聞いた、複数の異なる軍事に詳しい専門家の見立ては、“台湾有事”がすぐに起きる兆候はないという点で一致していました。それでは、いつ起きる可能性があるのか、そもそも起きるのか、という点については、見解は様々です。
また、台湾が独立を宣言した場合や、意図せぬ偶発的な衝突が、深刻な武力衝突を引き起こす可能性なども指摘されており、「台湾有事はすぐには起きないと断言する難しさ」も、専門家が共通して指摘するところでした。
来年1月には、蔡英文総統の任期満了に伴う台湾総統選が控えています。
総統選の大きな争点は対中政策です。中国が独立志向が強いとみなして強く警戒する与党・民進党か、対中融和路線をとる最大野党・国民党か、それとも第3の候補者なのか。今後の台湾情勢に大きな影響を及ぼすことになると見られ、世界の目が注がれています。