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「夢は廃炉に携わること」 山梨出身の私が福島に来た理由

「将来は技術面で廃炉に貢献し、情報発信もして福島を大人気にしたい。それが夢」

こう語るのは山梨県出身の塚田愛由希さん、18歳です。東日本大震災が起きたときは幼稚園児で当時の記憶はほとんどありませんが、廃炉技術者の育成に力を入れている福島工業高等専門学校に進学。去年12月には、東京電力福島第一原子力発電所も見学しました。

1人親元を離れて福島県で廃炉について学ぶ、その思いとは。

(報道局 社会番組部 ディレクター 中村 優樹)

塚田 愛由希(つかだ・あゆき)さん
2005年、山梨県北杜市生まれ。現在、福島工業高等専門学校で寮生活を送りながら機械工学を学ぶ。将来の夢は「廃炉に携わる」こと。廃炉ロボコンや震災を学ぶセミナーなどにも積極的に参加し、学びを深めている。

「よく分からないけど」じゃなく「よく分からないから」不安になる

東日本大震災や原発事故とは無縁の生活を送ってきた塚田さん。転機となったのは、小学5年生のときに見た、あるテレビ番組だといいます。

NHKスペシャル「原発メルトダウン 危機の88時間」(2016年3月放送)。世界最悪レベルの原発事故の最前線で何が起きていたのか、事態が最も深刻化した88時間を500人以上の関係者の証言に基づきドラマ化、さらに水素爆発や巨大津波なども詳細に映像化しました。

塚田 愛由希さん
塚田愛由希さん

「自分自身、原発事故の記憶というのはほとんどなくて、このドラマを見て初めてちゃんと原発事故というものを知りました。一回目見たときは単純に“衝撃”しか残らなくて、『この心にひっかかったものは何か』を確かめたくてドラマを見返しました。それで福島第一原発の中に残って事故の被害を最大限少なくするために、一生懸命頑張っていた人たちがいたっていうことに心が刺さったのだと気づいた感じです。感銘を受けたというか」

原発事故に強い関心を持った塚田さん。小学6年生の夏休みの自由研究では、福島第一原発で事故が起きるまでの過程を模造紙18枚分にまとめました。

さらに「実際にどれくらいの自然放射線があるのか自分の目で確かめたい」と、親に線量計を買ってもらい、駐車場や車内など日常のあらゆる場面の放射線量を計測し、天気や場所ごとにノートに記録しました。

小学校6年生のときの自由研究

その後、福島のことをもっと深く知りたくなった塚田さんは、家族とともに足しげく現地に通うようになります。

そして中学1年生のとき、地元の女性から福島県産の桃を他県で試食販売していた時のエピソードとして聞かせてもらった話に、大きなショックを受けます。

『福島産の桃だと分かったとたんに吐き捨てられた』

いわれのない差別や偏見が存在することを知った塚田さん。中学3年生のときに書いた作文には、こう記しています。

中学3年生のときの作文
「福島を知る」
私が福島旅行に行ったことを地元のある場で話したときのことです。
1人の小学生がこう聞きました。
「浜通り地方に行ったら火傷(やけど)するんじゃないの」。
私はすぐに「そんなことはないんだよ」と答えましたが、正直少し驚きました。
なぜ、そうしたことが起きるのでしょうか。
私は、原因の一つに放射線への知識不足や、福島の今についての関心の薄さがあるのではないかと考えます。
「よく分からないけどなんとなく怖いから、福島に行くことや、福島県産の物を食べるのは不安」という人も、まだいると思います。
ところがもう少し探ってみると、それは「よく分からないけど」というより、「よく分からないから」起きる不安ではないでしょうか。
私たちの中の情報が更新されないままでいると、知らず知らずのうちに誤解や偏見を生むことがあります。
まずは、大人から子どもまで正しい情報を得て、正しい知識を持つこと、自ら学ぼうとすることが大切だと私は思います。
私は、実際に原発事故の被害に遭ったわけではありません。
被害に遭われた方々にしか分からない大変な苦労や心境を経験することもできません。
しかし、全てを理解することはできなくても、自分で学べる知識はしっかり学び、それを周りの人に伝えていけたらと思います。
中学生時代の塚田さん

「廃炉に携わりたい」 夢を追い、福島へ

現地に通うなかで、福島のことや原発事故を“自分事”として考えるようになったという塚田さん。次第に廃炉に携わりたいという思いを強くしていきました。

そして、高校進学のタイミングで大きな決断をします。

廃炉に関する知識や技術を学ぼうと、廃炉技術者の育成に力を入れている福島高専(福島県いわき市)に進学することにしたのです。福島高専の学生は9割が福島県出身のなか、山梨県出身の塚田さんは異色の存在でした。

塚田愛由希さん

「自分で経験して大事だなって思ったのは、物理的に福島に対してちゃんと距離を近づける。何かしらのきっかけでもいいから少しでも関心を持って、そうやって実際に現場とか現地に行って近寄って見たときに、初めて、本当の当事者ではないけれども、当事者の意識が生まれるといいますか。だからこそ、ひと事じゃだめだよなって思う部分が出てくるといいますか。だから私も福島の廃炉というのに携わりたいと思うようになりました」

廃炉創造ロボコン 大会の様子

現在は親元を離れ、福島で寮生活を送っている塚田さん。学校では機械工学を専攻し、一般産業を含めた幅広い分野における機械工業の基礎知識だけでなく、風力発電など再生可能エネルギーの開発や廃炉に直結するロボットの開発など、福島の復興に貢献するための技術も学んでいます。

さらに部活動として「ロボット技術研究会」に所属し、放課後に毎日2時間ほど「廃炉創造ロボコン」に向けた活動にも取り組んでいます。

廃炉創造ロボコン:全国の高等専門学校が参加する大会で、福島第一原発の廃炉作業を想定して、ロボットに必要な構造や機能などを論理的に考案・設計し、その技術やアイデアを競う。

「廃炉に携わる」という夢に向かって歩み出した塚田さん。しかし東日本大震災から10年以上がたち、強く感じていることがあることも明かしてくれました。

全国の同世代の間で、原発事故や廃炉に対する関心が決して高くないという現実です。

塚田愛由希さん

「福島高専に入って、廃炉ロボコンなど全国各地の同世代と交流することが増えました。ある交流会のときに『震災や福島に対するイメージってどんな感じですか?』って聞いてみたんです。そしたら関西の高校生から『そもそも距離の離れた遠いところの話。印象と言われても言えるものがない』という答えがありました。物理的な距離は心の距離ではないですけど、離れれば離れるほど関心もなくなるのだなと感じました」

震災や原発事故、そして福島の現状に関心がない人にどう伝えていけばいいのか。廃炉の技術だけでなく、塚田さんの中で「廃炉や福島についてどう伝えていくか」も大きなテーマになっていきました。

福島第一原発を見学 東京電力担当者に投げかけたことば

「人に伝えるためには、自分がもっと震災や原発に対する理解を深めなくてはならない」と、塚田さんは去年10月、新たな挑戦を始めました。

フィールドワークを軸に福島や被災地の課題について考える中高校生向けのセミナー「福島学カレッジ」への参加です。福島県双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館で半年間(全5回)行われ、13人の中高生が集まりました。

そして去年12月には、福島第一原発の構内を訪れる機会を得ました。

福島第一原発を訪れる塚田さん(写真:右)

メルトダウンを起こした1号機から3号機の建屋などを90分にわたって見学。ことしの春から夏にかけて海洋放出されるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水や、その水を1基で1000トン貯めることができるタンクがたくさん並ぶ「K4」と呼ばれるタンクエリアなどを、自分の目で確認することができました。

塚田愛由希さん

「ずっと関心を持って勉強していたので、『あ、本で見ていた光景だ!』とか『あの建屋の中にデブリがあるのか』って。過去あった原発事故に思いを馳せる部分もあったけど、どちらかと言えば、自分自身がここで廃炉に携わるという未来のことを考える場面が多かったです」

福島第一原発を訪れる塚田さん(写真左)

塚田さんは廃炉の技術や自分自身の将来について、より具体的にイメージできるようになったと言います。

塚田愛由希さん

「例えば、一番の課題である“デブリの取り出し”っていろんな技術が集結するんだろうなと。線量が高い極限状態の中でロボットの回路を守りつつデブリを取り出すっていうのは、環境としては宇宙空間とも似ている。被害を受けている方もいますし、難しい部分ではあるんですけど、廃炉の技術って廃炉だけで終わりじゃないよっていう。廃炉で使われた技術が例えば宇宙開発とか別の分野で役に立ちましたよって言えるような未来が、一番理想なのかなと考えるようになりました」

この日、構内を案内してもらった東京電力の担当者に対して、塚田さんが質問をぶつける場面がありました。実際に処理水を排水し、海に流すための設備を見学していたときのことでした。

塚田さん

「やっぱり漁業関係者の方とかが不安に思っているのって、それ(処理水の海洋放出)による“風評”だと思う。まずは消費者側に理解を求めてから『理解してもらったよ』っていうのを、漁業関係者とか本当に関係のある人たちに伝えていくっていうのが大事なのかなと思う部分があって。実際難しい部分ではあると思うんですけど」

東京電力 担当者

「おっしゃる通りで、“生産、加工、流通、消費”っていう各段階があるんですけれども。お魚を買っていただかないことには、漁業関係者の方も最終的には風評っていうところから影響が出てしまうので。その買っていただく方々、流通の方々含めて、ご理解いただけるようにしっかりやっていきたいなとは思っています」

東京電力担当者に質問する塚田さん
塚田愛由希さん

「廃炉のどの行程においても現場だけが一人歩きするのではなく、福島に暮らす周辺住民、もっといえば国民というか直接関係ない人たちも一緒に進んでいかないと意味がないかなと感じました」

廃炉作業が少しずつ進みつつあると実感した塚田さん。その一方で、廃炉に関する情報は全国の人たちにまだ十分届いていない面もあると感じています。

自分の代で廃炉を成し遂げたい

最長で40年続くと言われる“廃炉”。

塚田さんは今回の福島第一原発での学びを通して、技術だけでなくさまざまな面で廃炉に携わり、そして自分の代で廃炉を成し遂げたいとの思いを新たにしました。

塚田愛由希さん

「自分の中で『(廃炉に)興味まっしぐら』っていうのが今まで多かった部分はあるんですけど、いかにそれを他人の興味とうまい具合に合致させて、廃炉に興味を持ってもらうか、福島に関心を持たせていくかっていう部分を今後重視できたらまたおもしろくなるのかなと思います。今までも、誰かしらに伝えたいっていう思いはあったんですけど。関心のない人たちの個人個人に着目して、その人たちはふだん何に関心を持っているんだろう。それとうまく廃炉を、福島を結び付けるためにはどうすればいいんだろうっていうところを考えていくのが大事なのかなとか今回感じました。将来、技術面で廃炉に貢献しつつ情報発信も。福島を大人気にするぐらい。それが夢ですね」

担当 中村ディレクターの
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みんなのコメント(1件)

感想
りんご好き
30代 女性
2023年3月12日
廃炉について、関心のない方に正しい知識・理解を広めていくことを「福島を大人気にする」という未来へ向けた前向きな発想に繋がっているところが、とても素敵だと感じました。