熊本地震から8年 福祉避難所の現状
- 2024年04月12日
熊本地震からまもなく8年。
熊本地震では、地震による直接死ではなく、避難先などで亡くなる災害関連死が犠牲者のうち8割を占めています。また、その多くが高齢者です。
当時から課題となったのが、福祉避難所です。
一般避難所で過ごすのが難しい認知症の高齢者や、障がい者などが避難します。
この福祉避難所、熊本地震の際、熊本市で5月20日までに開設できたのは176施設中、73施設。4割以下です。
そして、今年起きた能登半島地震の被災地・奥能登では2月1日の時点で、39施設中、15施設。8年たっても4割以下しか開設できなかったのです。
福祉避難所の現状を取材しました。
(熊本放送局 アナウンサー・後藤 佑太郎)
なぜ開設できない?
3年前に甲佐町と福祉避難所を開設する協定を結んだ高齢者施設は、災害時、実際に開設ができるか不安だと言います。
やはり職員が被災したときに、自宅から来られる状態にあるのか。
施設まで来られたとしても何人集まるか、どれだけ職員が集まって対応できるか。いちばん心配ですね。
課題は施設のマンパワー不足。
大規模な災害では、自治体職員は、一般避難所の対応で助けに来られない可能性があるほか、ほかの高齢者施設に協力を求めるのも難しくなることが想定されます。
施設単独での開設について施設長は次のように話します。
私たちの施設だけで開設していくのは 無理がある。
職員を守り、マンパワー確保へ
福祉避難所の課題「マンパワー不足」をどう解決するのか。
8年前の熊本地震をきっかけに 独自の対策を始めたところがあります。
熊本地震で震度6弱を観測した 御船町にある、特別養護老人ホームです。
熊本地震では、助けを求めてきた地域住民200人を受け入れた結果、150人分の物資が不足。
また、職員が被災し出勤できず、マンパワー不足も深刻になりました。
そうした中で、施設長の 吉本 洋(よしもと・ひろし)さんは職員を守る大切さに気づきました。
とにかく、どうやったら職員が 安心して出勤できるのか考えたときに、いちばん最初に思いついたのは「職員まるごとこっちに避難してきていいよ、家族を連れてきなさい」ということでした。
職員がいち早く施設に来られるよう、職員とその家族が過ごせるスペースを設けました。
また、その後には職員の被災状況などを報告するチャットグループも作りました。
こうした対策で、この施設単独でも福祉避難所の運営ができると考えています。
職員がとにかく安心して出勤できる環境っていうのはいちばんだと思う。
職員が心配する部分を確保できている、それが結果防災意識につながっている。
複数施設でマンパワーを出し合う「熊本モデル」
一方で、普段は接点がほとんどない福祉施設同士が 災害のために連携して、福祉避難所を開設しようという新たな動きが熊本から広がっています。
熊本市の高齢者施設で働く、木村 准治(きむら・じゅんじ)さん。
災害時に派遣される福祉専門の部隊「熊本DWAT」としても活動しています。
木村さんが考えたのは、福祉施設などの場所だけを借りて、そこに人員を出せる別の福祉施設が介護職員などを派遣。
その人たちで福祉避難所を開設する、通称「熊本モデル」です。
木村さんが、熊本地震の際に福祉避難所を1つの施設だけで開設した経験から考え出しました。
実際に令和2年7月豪雨の際には、木村さんはじめ被災を免れた施設から 職員などを派遣し、被災地で2つの福祉避難所を開設しました。
みんなで福祉避難所をやろうというひとつの目標に対して、顔見知りの関係でいろんなことを進められたので、非常にスムーズに物事が進められた。
施設同士の連携の難しさを洗い出せ
いま、この「熊本モデル」を参考にしたいと、全国各地から研修の依頼が相次いでいます。
この日、山口県萩市で行われた研修には、萩市内にある福祉施設の管理職など、30人余りが集まりました。
1つのテーブルを囲むのは、違う施設の職員同士。ほとんどが初対面です。
この研修で使うのが、木村さんが開発した災害シミュレーションゲーム。
それぞれの施設の実情に即した形で、水や電気などのインフラや、災害用発電機などの備蓄品、それに職員の数など、さまざまカードが1人1人の手札となります。
『本日朝9時、集中豪雨により災害が発生しました。』
災害が発生すると、被害の大きさが示されたカードがランダムに配られます。
その被害に応じて、手札のカードを手放すことになります。
そして各施設は、今の現状を報告します。
連携した福祉避難所の立ち上げは、ほかの施設の状況を知ることから始まります。
その後、各施設が人や物資を出し、助け合いながら、1つの福祉避難所の開設を目指します。
このテーブルに集まった職員の施設だけでは 1つ開設することも、難しいことがわかりました。
参加者は、より広い連携が必要だと感じていました。
市内の各施設と連携をしっかりいかして、いざというとき助けていただける助けられる、そういうものに進化していければいいなと 今回の研修を通じて感じました。
これを機会に福祉避難所を1施設で立ち上げるのではなく、連携した立ち上げ方ができるようなコーディネートができれば、社会福祉協議会の役割ができるのではと思った。
木村さんは、地域の連携ができてくれば、能登半島地震のような外部からの支援が難しい場合でも対応できるのではないかと考えています。
地域単位で横のつながりをしっかり持って、近い施設地域の人たち、企業、そういうところがうまく連携して 福祉避難所を立ち上げていくということになると、地元地元で福祉避難所がもっと機能していくのかなと思う。
私たちにできること
福祉避難所の開設のため連携する必要があるのは、実は福祉関係者だけではありません。
福祉施設の防災に詳しい 熊本学園大学の黒木邦弘教授は、私たちいち住民も、福祉職員を支えることを考えてほしいと話します。
黒木教授
子どもと一緒に避難しておかないといけないような職員がいた場合、職員の子どもを施設の中で見守ってくれるような協力、こういったことも地域の人たちと一緒に考えていけることではないかなと思う。
ふだんから地域の人と災害を想定して、どのような協力関係がお互いにできるかどうか、考えておくことが重要ではないかなと思う。
福祉施設だけに任せるのではなく、一人ひとりの共助の意識で地域全体が連携していくことが、福祉避難所の開設、さらには、災害による犠牲者を減らすことにつながると感じました。