【解説】菊池恵楓園の野球場 今後どうなる?
- 2023年11月16日
菊池恵楓園の野球場
合志市にある国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」の敷地に、現在は使われていない野球場があることを皆さんはご存じでしょうか。
恵楓園の東側に、2021年に開校した合志市立楓の森小・中学校からも近い場所に2面あります。
野球場はかつて、恵楓園の入所者以外にも広く利用されていましたが、いまは老朽化が進んでいます。
バックネットが倒れる危険などがあり、利用できない状況が続いているのですが、この野球場を整備したいと市が恵楓園に申し出ているのです。
合志市が野球場を整備したい理由
国立の療養所にある古い野球場を、なぜ市が整備したいのか。それには、国が整備を進めている道路が関係しています。
合志市の野球場は国道387号線沿いにあります。
一方で国は、熊本市と大分市を結ぶ全長およそ120キロの「中九州横断道路」の整備を進めています。
合志市にかかる区間はことし9月に工事が始まっているのですが、この道路の建設予定地がいまの市の野球場と重なっているのです。
このため市は、新たな野球場の用地を探していて、その候補地として恵楓園の野球場が浮かび上がりました。
市は野球場周辺の土地も含めておよそ9万平方メートルを恵楓園から借り入れ、親子連れなども楽しめる運動公園として整備したい考えです。
借り入れの“ハードル”
療養所の地域への開放を進める恵楓園とその入所者は、市の提案を好意的に受け止めています。
ただ、実現にはハードルもあります。
まず1点目は、野球場がある土地の性質です。11月上旬、国と合志市、恵楓園、さらには園の入所者が参加して会議が開かれましたが、ここで入所者の代表からこんな問いかけがありました。
国有地を貸し出す、あるいは売買するにあたってはさまざまな国の取り決めがあるようで、そう簡単にはいかないような感じがしました。園の土地の売却や貸し出しは、実際可能なのでしょうか。
というのも恵楓園は国立の療養所のため、その敷地は国有地なのですが、中でも「行政財産」といって通常、貸し付けや売買ができない土地になっているのです。
このため、園と市で売買や賃貸借の契約を結ぶためには、まずはこの「行政財産」という土地の性質を変える必要があり、今後、園側が国と協議を進めていくことになります。
会議の中で国の担当者は「手間はかかりますが、貸し付けや売却は可能です」と話していました。
ただ、その協議を進める前に、もう1つ考慮しなければならないことがあります。それは、入所者の生活への影響です。市が借り入れを申し出ているエリアの周辺には、恵楓園の入所者の住宅が20棟近くあります。入所者の平均年齢は87歳とかなり高齢化が進んでいます。
また、ここが療養所であるという観点から、園としては騒音や、不審者の立ち入りといった警備上の問題に懸念を感じています。
今後の見通しは
恵楓園の野球場の借り入れや整備の時期について、合志市の荒木義行市長は「来年、再来年などとは簡単には言えない」と、慎重な姿勢を見せる一方で「社会体育施設として市が管理運営できればと思うが、まずは荒れているグラウンドを整備し直さなければならない」と話しています。
恵楓園と合志市、ひいては恵楓園と市民の双方にとって納得のいく活用がなされるには、引き続き慎重な議論が求められています。