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地域でいきいきと!「まちの保健室」

~みんなが安心して暮らせる地域づくり~
  • 2024年03月08日

地域の高齢者の暮らしを支える「まちの保健室」が、
八代市坂本町の鶴喰(つるばみ)地区というところにあります。

鶴喰地区は、高齢化率50%を超える坂本町のなかでも、特に高齢化が進む地域です。
そこに追い打ちをかけたのが令和2年7月の豪雨災害。
かかりつけの病院や近くのスーパー、道路などが被災したことで、不安に感じる一人暮らしの高齢者が多くいました。

看護師の蓑田由貴さんは、豪雨災害の直後にボランティアでこの地域を訪れたことをきっかけに、保健室を開くことを決めました。

この「まちの保健室」がどのように地域の高齢者を支えているのか、取材しました。
(熊本放送局アナウンサー 佐藤茉那)

高齢者の暮らし支える「まちの保健室」

八代市坂本町鶴喰地区の集会所では、月に一回、まちの保健室が開かれています。
その名も「やっちろ保健室」。
※地元では、八代(やつしろ)のことをやっちろと言うことがあるそうです。

参加者は、主に地域の高齢者。
血圧や脈拍をはかったり、日常生活で気になることを相談したりします。

(保健室で相談する女性)
なんとなく疲れたっていうような感じが10日ぐらいは続いたんですね。
体のきつさがずっとありますもんね。

▲血圧をはかるようす

保健室を開いたのは、八代市出身の蓑田由貴(みのだゆき)さんです。

訪問看護師として働くかたわら、休日を使って保健室活動をしています。

地域で暮らすためには、歳を重ねても病気になっても暮らすためには、
何にしても基礎になる健康を当たり前に相談できたり、お話しできたりする場が
できたらいいなと思ってやっています。

以前は、病院で看護師をしていた蓑田さん。
退院した後も、すぐにまた病院に戻ってきてしまう患者の姿を見て、
「地域ではどんな支援を受けているのか」と疑問に思ったそうです。

結構ストレスとかで病気が悪化したりとか、なかなか医療ケアだけじゃ厳しいなって。ちゃんと人の話を聞いて寄り添っていかないとこれは難しいぞっていう経験とか事例を見た上で、心と体のケアをしっかりしていきたいなと思って。

「まちの保健室」では、対話することを大切に、1人1人にあったサポートを考えます。

家でなにか体操してます?

(保健室に通う男性)
なんもせん。すればよかばってんな。

以前は一生懸命散歩されていたりしとったけんですね。
またちょっと始めてもいいかもですね。

気付いたことは、蓑田さん手作りの「くらしのノート帳」に記録。
必要に応じて、医療機関につなぐこともしています。

「病院には行きづらい」「お医者さんに相談するのは緊張する」という地域住民もいますが、
保健室では、日常生活で気になったことを気軽に相談できるといいます。

▲保健室に通う女性

蓑田さんは、
具合が気になった人や欠席した人がいた際には、自らその人の元へ足を運ぶこともあります。

▲話を聞きに行く蓑田さん

一人一人の住民の話のなかから、地域の課題や必要な支援を考えていきます。

学びと楽しみが生活のハリに

保健室では健康相談以外にも。
住民からの要望に応えて、時には専門家を招いて、様々な企画が行われています。

取材にうかがった日は、
災害時に備える防災食や栄養のとり方などについて学ぶ勉強会が開かれていました。

▲話を聞く地域住民

(保健室に通う女性)
楽しみです。週末にこの保健室があると。何か張りがあって。
「これがあるから行かないと」と、誘い合わせてきています。

まちの保健室活動を通じて、大きな変化があった住民もいました。
物忘れが多いことで不安を抱え、気持ちが暗くなっていた女性。
保健室で開かれた、認知症の勉強会で「自分は認知症の初期症状かもしれない」「認知症は高齢になったら誰しもなりうることだ」と向き合い方が分かって、それからとても表情が明るくなったそうです。

日常的な話をしたなかで、そこから何か健康にちょっとつながっていくっていう感じですね。月1回の活動なんですけれども、最初介入した時よりも表情はとても明るくなっていますし、いろんなことを話してくれるようにはなっています。

はじめての大型企画も

保健室が始まってから3年あまり。
今回初めて、保健室を飛び出した大型企画を実施しました。

車で30分ほどのショッピングモールに、みんなで買い物ツアーです。
「移動手段がほとんどなく買い物が不便」という住民のリクエストがあって実現しました。
資金などは、クラウドファンディングなどで募りました。

この買い物ツアーを開いた蓑田さんには、もうひとつ、目的がありました。
それは、若い世代に地域の高齢者の暮らしを知ってもらうことです。
この日は、高齢者支援について学ぶ学生が参加しました。

▲買い物に寄り添う学生と地域住民の女性

学生たちは、希望を聞きながら、店内を案内します。
最初は緊張していた学生たちも、日常の楽しみや悩みなどを話し、最後は打ち解けていました。

車がないので、普段はほとんど移動販売車で買い物を済ませます。
でも、衣類とかは街に出ないと思うようにないので。やっぱりこうやって来てみないと分かりません。とっても助かりました。一緒にね、見てくれたりして。
(学生たちは)優しいお姉さまたちでした。

参加した学生からは「祖父母と買い物をしているようで楽しかった」「高齢者の暮らしを知る機会はなかなかないので、今回参加してよかった」「思ったより交通面が不便な生活をされていることを知った」などの声がありました。

▲参加した学生

率直に楽しかったです。
きょう実際にやったみたいな感じを、もっとこの日のイベントとかじゃなくて
当たり前に接することができるようになればいいんじゃないかなと思いました。

看護スキルとかマインドをより身近にするには、やはり次世代交流というか、
若い人たちの交流が必要で、今やっていることを次の世代に繋げないといけないっていうのがあって。自分も歳を重ねたときにこういう風にしてもらいたいなとかっていうのを知ってもらう機会になったらいいなって思います。

活動の輪を広げたい

蓑田さんは、支援の輪を広げる為、活動内容を知ってもらう取り組みにも力を入れてきました。

▲まちの保健室の活動を紹介するパネルを展示紹介

ショッピングモールで、保健室の活動を紹介するパネルを展示紹介し、
通りがった住民の健康相談に乗ったり、県内の認知症を学ぶ学生たちに活動を説明。

ほかにも、活動に関心を寄せてくれた人を活動に招き、見学してもらったりしています。
活動内容や意義を、蓑田さん自身のことばで説明し、理解してもらいます。

見学した人たちは、
「こうした支援がこれから広がっていってほしい」
「協力できることはしていきたい」などと話していました。

(在宅医療や在宅介護関連の仕事をする 見学者の男性)
「普段は自宅の中での姿しか見られないので、今回活動に来てみて、地域とのつながりを見られてよかったです。在宅で療養が必要な方を支えるときは、私達専門職だけでやるのは難しいと感じています。もともと地域で高齢者を支える仕事もやってみたいと思っていたので、今後のヒントにもなりました」。

この活動自体がいろんな地域で広がっていくといいなと思っています。
災害があるないにかかわらず、何かつながることで防災に対する意識も高まるっていうのと、あと高齢になっても病気になっても安心してその地域で暮らしていける環境が、この地域の保健室で作っていけるんじゃないかなって。
課題は多くあるんですけど、できないことではないというふうに思ってますね。

  • 佐藤茉那

    熊本局アナウンサー

    佐藤茉那

     神奈川県横浜市出身
    2020年入局 初任が熊本
    定時ニュースや中継リポートを担当

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