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はっけんラジオfrom熊本(後半)「防災ゲーム"クロスロード"」

熊本で4000人以上が体験「クロスロード」 その効果や役割は?
  • 2023年08月07日

7月に放送した「はっけんラジオfrom熊本」。
熊本で広がる防災の取り組みを、熊本大学大学院の竹内裕希子教授と共に紹介しました。
番組後半では、熊本で4000人以上が体験した防災ゲーム「クロスロード」について、その効果や役割に迫りました。
※「クロスロード」はチーム・クロスロードの著作物で登録商標です。
※この記事はNHKラジオ第1(九州沖縄向け)で2023年7月7日に放送した 「はっけんラジオfrom熊本」の内容の一部を編集したものです。

鹿野

NHK熊本放送局から「はっけんラジオfrom熊本」をお送りして います。
テーマは「疑似体験から災害を考える」。
スタジオには、熊本大学大学院の竹内裕希子教授をお招きしています。

竹内教授

よろしくお願いします。

熊本大学大学院先端科学研究部 竹内裕希子教授
地域の防災活動や防災教育が専門
石井

続いては、前半のVR避難シミュレーションのように「見て!体験する!」というよりも、皆さんの頭の中で 悩んで、悩んで、想像してもらおうという取り組みです。
熊本で4000人以上が体験している防災ゲームがあります。「クロスロード」です。

石井

クロスロードは、阪神淡路大震災のヒアリング調査をもとに京都大学が中心となって開発したカードゲームです。
災害時に起こりうる様々な状況に対して、参加者がYESやNOの札を出して答えて、その理由を話し合うというもの。
どんな問題が出るのか。 例えば、皆さん聞いて下さいね。
「あなたは避難所の食糧担当の職員です。被災から数時間。 避難所には3000人が避難しているとの確かな情報が得られた。現時点で確保できた食糧は2000食。以降の見通しは、今のところなし。まず2000食を配る?」
鹿野さん、YESかNOでお答えください。

鹿野

足りていないっていうのはもう確実なんですが、もちろん食べられない人がいると思うんですが、私は配ります。次いつ食料が来るか分からない状況とあるので、逆にそれを待っていて食料を腐らせてしまう場合もあるかもしれないですし、もちろん食べられない人からの反発も来るかもしれないけれども、お年寄りであったり、小さなお子さんなどを優先に配るかなと思います。

石井

不平等だ!という声も来るかもしれないですよね。

鹿野

本当に正解がないというのが、竹内さん、難しいですよね。

竹内教授

そうですね。こちらを立てたら、あちらが立たずと言いますか。
立場が変わると全然意見が変わってくるというのがクロスロードの非常におもしろいところですね。

石井

みんな悩むんですよね。このゲームをやっている人に話を聞くと悩むのが大事だという風におっしゃっています。「想定外があることを知る」「しっかり悩む」「いろんな考えがある」ということを認識することが大事なんだそうです。
ということで、先日幼稚園の園長先生などを対象にした体験会がありましたので、取材に行ってきました。お聞きください。

講師 松里健一さん「5人一組を作って下さい。必要なのはYESとNOのカード、これだけです」

石井

講師を務めたのは「くまもとクロスロード研究会」の事務局長で防災士の松里健一さんです。

石井

松里さんからいろんな問題が出されます。例えばこちら。

松里健一さん「あなたは小学2年生です。休み時間に教室で遊んでいたら、大きな地震がありました。大きな揺れが続いています。近くに先生はいません。あなたは先生を探しに行きますか。探しに行く人はYES、探しにいかない人はNOです」

石井

小学2年生の気持ちになって考える、悩ましい問題ですね。皆さん、自分のYES・NOを決めて、カードを見せ合い、それぞれの考えを述べます。

参加者「揺れが強い時には動いてはいけないと、心ではわかっているけど、小学2年生ということで、誰かを頼りたくなる。ですので、YESにしました」

石井

YESの意見でした。一方でNOの意見もありました。

参加者「まずは、ずっと教わっている『その場で揺れを待つ』を一生懸命守るのかな、ということでNOにしました」

石井

こんな風に意見が分かれました。 
こうした色んな意見が出るっていうのが狙いなんです。
じゃあ、もうひとつ問題を聞いてみましょう。今の雨の時期に考えたい問題です。

松里健一さん「あなたは川沿いの集落の住民です。母65歳、妻、小学生の子ども2人の5人家族です。今、洪水の危険があるとして、集落に高齢者等避難の情報が出たことを防災無線で知りました。ただ、深夜0時。今すぐ避難を始めますか?避難をする人はYES、様子を見る人はNO」

鹿野

うーん、またまた難しい問題ですよね。今回、高齢者等避難の情報が出たのが、深夜0時ということなので、暗い時間帯に避難をすべきか、竹内さん、悩むポイントになってきますね。

竹内教授

明るい内に避難しましょうということを言われていると、なかなか暗くなってからの避難というのをためらったりすると思うんですけど、まだ浸水が始まっていないのであれば、逃げられる可能性があるので、ぜひ「逃げる」を選んでもらえるといいなと思います。

石井

なるほど。竹内さんは逃げてほしい、ということでした。
では、参加した皆さんはどう考えたんでしょうか。

参加者「洪水なので、そのままその場所で沈むよりは深夜0時でも移動します」 
参加者「私はNOを選んだんですけど、まだ動ける65歳のお母さんと子供ですよね。高齢者等の避難だったので、全員が避難の対象ではない。結局避難させるためには、避難所まで送っていったりして、結局全員避難になるので、まだ様子を見る。ノーにしました」 
参加者「熊本地震を経験したので、逃げられる時に逃げないといけないと思う。熊本地震の時はブロック塀が倒れて逃げられなくなったこともあった。それで車が出せなくなったこともあった。だからまず逃げる。そういう経験からのYESです」

石井

すぐ避難をするという意見もあれば、家族の状況を考えて様子を見るという意見もありました。
鹿野さんならどうしますか。

鹿野

先ほど竹内さんは、避難できるなら避難した方がいいとおっしゃっていたんですけれども、深夜0時、足音が暗い中で、すでに避難している時にもう洪水が起きている所もあるかもしれないと考えると、65歳の母と一緒に今避難すべきなのかっていう風に思うので、とりあえず家の中でなるべく安全な場所で過ごして様子を見るかなっていう風に思いますね。

石井

細かい状況によって考え方が変わるんですよね。
例えば、お母さんが85歳だったらどうなるのか。あるいは自分の家が高台にある場合はどうするか。
松里さんは「設問に書かれていない細かな部分を、『自分の身の回りの状況』で補填して考えればよりよい訓練になる」とも話していました。
竹内さん、人によって考え方の絶妙な線引きがありますよね。

竹内教授

そうです。ですので、家がどこにあるのか、ハザードマップを確認しておく、そして避難経路を確認しておくと、これが悩ましいジレンマじゃなくなってきます。

石井

ジレンマをジレンマじゃなくする準備もできるということなんですね。

石井

体験会で初めてクロスロードを経験した園長に話を聞きました。

参加者「楽しみながら勉強ができて役に立ちました。自分だけでなく、自分の考えてもいないことを他の人が考えていて、色んな人の意見を聞くのは大事だと思いました」

鹿野

やっぱり災害において正解がないというのが一番難しいことだと思うんですよね。でも、このクロスロードを通じて、自分の考えを改めることもできますし、また参加している他者の方の意見を聞くことができるというのは、このクロスロードの利点ではありますよね。

竹内教授

「そんな選択肢があったのか」であったり、「他の人はこんなことを考えるのか」ということを具体的に知ることができるというのはすごくメリットだと思います。

石井

災害時のいざという時に、やっぱり判断に迷うことはたくさんありますもんね。
この防災ゲームのように事前にモンモンと悩んでおく良さ、竹内さんはどう考えていますか。

竹内教授

災害が起きたり、浸水があったりするとパニックになってしまいます。そうすると、なかなか考えを深めることができなくなってしまう。「どうしよう、どうしよう」と言っている内に時間がなくなってしまったりするので、こういう時に少し客観的に、少し落ち着いて、いろんな人の意見を聞いて考えてみるっていうのはすごく重要だと思います。

石井

今回講師を務めた「くまもとクロスロード研究会」の事務局長の松里さんに、クロスロードを広める上での目指すところというのを聞いております。

松里健一さん「100個の種をまいて1個か2個でも芽が出ればいいのかなと思っています。クロスロードをやること自体は、防災だけではなく、様々な自分のことを考える、自分が行動に迷った時にどうしようかということを考える訓練としては役立つと思うので、防災の活動としてやっているというだけではなく、皆さんが考える、考え方の道具を提供できていればいいのかな」

鹿野

こういったクロスロードを通じていろんな選択肢を増やしていくというのは大事ですよね。

石井

研究会には45人のメンバーがいて、県外を含む各地でクロスロード体験会を開き、これまで4000人以上が参加しています。

竹内教授

多くの人たちが経験をしてくれるということ、考える機会があるというのは、すごくいいことだと思いますね。人数が多ければ多いほど多様な意見が出てくる機会もあると思いますし、何回もやっていくと別の意見が出てきたり、考えが変わったりもするので。

鹿野

ゲーム感覚で、大人だけではなく小さなお子さんでも小学生なども楽しみながら学ぶ、考えることができますよね。

石井

口コミで広がっていると聞きました。
松里さんたちは、2016年の熊本地震で実際にあった悩ましい事例を継承しようと、地震後に様々な人に聞き取りをして、クロスロードの熊本編というものも作りました。

鹿野

より自分たちに落とし込んだ形ですね。例えばどんな問題ですか?

石井

『あなたは避難所の責任者です。避難所は人であふれ、グラウンドも車中泊の人でいっぱい。昼間は仕事や家で過ごし、夜だけ寝に来る人や停めているだけの人もいて、人数把握が難しい、車中泊の人にも食料や物資を配りますか?』という問題です。
熊本地震では車中泊がとても多かったことをきちんと継承しようという意味でも、この問題が作られました。
実際にこの問題のモデルになった避難所の責任者は、車にいる人にも声をかけ、食料などを配ったが、そうしなかった避難所もあったということです。

石井

松里さんは活動を続ける中で、どうすればもっと効果的に防災の啓発をできるのか、ともお話でした。竹内さん、この点、何かアイデアありますか。

竹内教授

クロスロードゲームはいろんな考え方を知ったり、具体的に悩んだり、というが特徴なんですけれども、想像で終わってしまうことも多いので、他のコンテンツと組み合わせて、具体的に考えてみる、具体的な状況を触りながら考えてみる。
そういうことができるといいなと思いますね。

竹内教授

例えば、VR避難シミュレーションとクロスロードを組み合わせて、夜間の避難のパターンを考えてみるとか。また、避難所での食事に関しても、じゃあどういう食事なら配れるんだろうかとか。物によっては腐らせてしまうかもしれない、とありましたけれども、お水を入れて戻すような食品だったら、腐らないかもしれない。そうするともうちょっと判断を待てるんじゃないかとか。どう食料を配れば課題が少ないのか、などを考えてみるのもいいかもしれません。
このように、クロスロードを1回体験したら、次は別のコンテンツを組み合わせてより具体的に考えてみる、体験するというのはすごくいいなと思います。

鹿野

リアルに想像できるために何ができるかということですね。
VR避難シミュレーションもそうですが、クロスロードも体験して終わりではなくその先を考えることが重要ということですよね。
竹内さん、ありがとうございました。

竹内教授

ありがとうございました。

  • 石井隆広

    熊本放送局 アナウンサー

    石井隆広

    宇城市出身
    熊本勤務は2度目

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