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はっけんラジオfrom熊本(前半)「VR避難シミュレーション」

玉名市が制作「水害時のVR避難シミュレーション」 その狙いと効果は?
  • 2023年08月07日

7月に放送した「はっけんラジオfrom熊本」。
熊本で広がる防災の取り組みを、熊本大学大学院の竹内裕希子教授と共に紹介しました。
番組前半では、玉名市が今年制作した「水害時のVR避難シミュレーション」について、そのねらいや効果に迫りました。
※この記事はNHKラジオ第1(九州沖縄向け)で2023年7月7日に放送した 「はっけんラジオfrom熊本」の内容の一部を編集したものです。

鹿野

NHK熊本放送局のスタジオから「はっけんラジオfrom熊本」と題してお送りします。
ナビゲーターの鹿野未涼です。

石井

NHK熊本放送局アナウンサーの石井隆広です。

鹿野

ゲストにもお越しいただきました。
熊本大学で地域の防災活動や防災教育などについて研究されている竹内裕希子教授です。よろしくお願いします。

竹内教授

よろしくお願いします。

熊本大学大学院先端科学研究部 竹内裕希子教授
地域の防災活動や防災教育が専門
石井

今回の番組のテーマは 「疑似体験から災害を考える」です。
皆さんご存じの通り、九州・熊本では災害が多く発生しています。熊本では2016年に熊本地震がありました。また、2020年7月豪雨からはこの7月で3年が経ちます。 
多くの災害を経験している熊本で広がる防災の新たな取り組みをお伝えしていきます。 

鹿野

竹内さんは、熊本で新たな取り組みが次々と増えていることについては、どのように見ていますか。

竹内教授

同じことを繰り返さないために、その教訓や体験を継承したり、形にしたりして、さまざまな視点で取り組むことができていて、いいなと思っています。

鹿野

まず、熊本県の玉名市で始まったVR避難シミュレーションについて紹介します。
VRというのはバーチャルリアリティーのことで、専用のゴーグルをつけることで、実際に自分が目の前に見えている空間にいるかのような感覚になる技術のことです。
このVRを使って水害時の避難を体感してもらおうという取り組みです。

石井

玉名市では今年4月からVR避難シミュレーションを貸し出しています。
このVR避難シミュレーションの仕組みですが、国が公開している3Dの空間データというものがあり、それを活用しています。
玉名市ではこの3Dの空間データに、実際の街並みのテクスチャー(画像や模様のこと)を貼り付けて、リアルな町並み、ほぼ同じ姿を再現しました。
玉名市によると、こうした自治体レベルの取り組みは全国初だということです。

鹿野

事前にこのVRを体験したんですが、まず目の前に見えている街並みがとにかくリアルでした。
それで、雨が降りしきる中で避難をするんです。
途中で「どちらに進んだ方がより安全でしょうか?」というクイズが出てきます。
誤って、危険な方のルートに進んでしまうと、実際にその先で想定される状況を自分が体験することができて、ちょっとハッとさせられます。
恐怖心がありました。

石井

VRの中では、実際のハザードマップの浸水深の情報、つまりどれだけその場所が浸水するかという情報を付加して、再現しています。
結構リアルに感じますよね。

鹿野

ハザードマップで実際に日ごろからそういった浸水深の情報を見ていても、どのくらいなのかなっていうのをVRで体感することによって感じる恐怖心が、災害時に避難することの第1歩につながるのかなと思います。
全国初ということなんですが、玉名市はこの取り組みをなぜ始めたんでしょうか?

石井

玉名市都市整備課の安田信洋さんに話を聞きました。
「玉名は市全体を二分するように一級河川の菊池川が流れていて、その支流の繁根木川も街の中心部を流れている。 菊池川水系はこれまで何度も氾濫していて、平成2年には下流域の玉名市でも浸水被害があった。
自治体としては、ハード面・ソフト面で対策を講じてきたが、今回ソフト面のコンテンツとして、VR避難シミュレーションを整備することになった」そうです。
「洪水や浸水など水害の怖さをどう市民に知ってもらうか」そのきっかけ作りにしたいということでした。

鹿野

竹内さん、自治体が行うソフト面での啓発活動としてVRを活用する、こうした取り組みはいかがですか。

竹内教授

すごくいい取り組みだと思います。VRは、体験者の目の高さで見たいところを見ることができるので、興味や関心が高まると思います。災害を知るきっかけ、具体的な恐怖心などを含めて、知るきっかけ、考えるきっかけになると思います。
こういう取り組みは多いほうがいいと思います。

石井

先日、玉名市岱明町で放課後の小学生たちを預かる岱明学童クラブのスタッフの皆さんによる体験会がありました。30代から70代の方まで、VRゴーグルをつけて、体験されました。その様子をお聞きいただきましょう。

学童クラブの担当者「このVR避難シミュレーションは災害を自分事として考えてもらうことが目的です。改めてハザードマップの大切さと避難経路の確認、自分の住む地域の特性を知るきっかけになればと思います」

石井

このあと、スタッフの皆さんがVR避難シミュレーションを体験します。
どういうシミュレーションか説明しますね。
自宅にいたところ、大雨が降ってきます。そして避難所である玉名市文化センターまでどう避難するかというもの。途中で分岐点も登場します。
自分で道を選びながら、避難を体験するものです。どんな様子かお聞きください。

石井「いま天気はどうですか?」 
体験するスタッフ「結構大雨です。水が押し寄せて、土砂降りになってきました。あ、いま床が、すごい!水が押し寄せて、自分が浸かっています。車と一緒に。怖い」

石井

近くを流れる川の流域に9時間で777mmの雨が降ったという想定です。
かなりの量です。そのすごさも体験しているようでした。

石井「いまどうなっていますか?」 
体験するスタッフ「ちょっと高台にいるのかな。でも川から水が出てきて、車が沈んでいます。溢れています。いまコンビニの前ですけど、一面水ですね。いますごい土砂降りです。雷も!いま急激に水かさが増しています」

石井

内水氾濫が発生したという想定です。 他の方の様子もお聞きください。

体験するスタッフ「川みたいになっています。道路が。車が浸かっています。高台を進みます。おっ、水が吹き上がりました。病院の前で。おっ!」

石井

VRの映像にリアルさを感じていました。
なお、水が流れる速度は災害のリスクを伝えるために強調しているそうです。
体験した感想を聞きました。

体験者「知っている街なので、恐怖を感じます。実際に水がきたらどうしようって。すごくリアルです。こうやって飲み込まれるのかなって思います。避難できないかも。タイムラインが必要かなって思いました。そして、いざ子供たちと一緒に避難となると大変かなって、子供は小さいので、しっかり考えなきゃなって思いましたね」

鹿野

竹内さんはこの体験者の皆さんの反応や感想はどうお聞きになりましたか。

竹内教授

すごく驚いていて、具体的な状況を知っていったんだなって思いました。
知っている風景が変わっていく様子を疑似体験することで自分ごとに捉える機会になっているなと感じました。

石井

VRの中ではお店の名前などもそのまま再現されている。
ちょっと親近感が湧きますよね。

竹内教授

こんな風になっちゃうんだ、みたいなところを具体的に知れたっていうのはすごくいいと思います。
水害を体験した人は、よく「あっという間だった」って話す方がいますが、急激な変化も体験できたのかなと思いました。
「タイムラインが必要」と話されていた方がいましたけれど、こういう気づきにつながったこともとても重要だなと思います。「怖いな」で終わらずに、いつ行動し始めると、こういう状況に陥らずに済むのかなという風に考えて、次の行動に結びつけることができたらなと思います。

石井

マイタイムラインをちゃんと用意していれば、危ない状況、例えば、VRで出てきたような浸水の状況に陥らない、ということですよね。

竹内教授

避難の大前提として、浸水する前に避難をすることがあります。遅れてしまうと、こういう状況になってしまうので、その前にどう動くのかを考えられるといいなと思います。

鹿野

VRでは、実際のハザードマップに沿って作っていますので、危険な場所や安全なルートを知ることもできますよね。

竹内教授

そういう場所が危ないなとか、具体的に知れたのは、よかったと思います。

石井

このVR避難シミュレーションの監修を行った熊本大学の本間里見教授は、VRの利点について「文字や地図ではなく、VRで実際の臨場感ある街並みを見ながらだからこそ、記憶への定着や感情への訴えができる。そうしたリアルな体験は、自分のところは大丈夫だという思い込みを打破できる」ということをお話されていました。

鹿野

竹内さん、この点いかがですか?

竹内教授

私たちが生活している空間は3次元なので、2次元でたくさん情報が出ていても、なかなか2次元情報を3次元情報に結びつけることが難しい方もいらっしゃいますので、こういうVRなどでハザードマップなどの情報を少し具体的に知ることは、すごくいい取り組みだと思います。

鹿野

確かにハザードマップだけじゃなくて、このVRを使うことによって、より幅広い世代に伝わりやすいですよね。

石井

ハザードマップをみんなで見ましょう、というのは難しい部分ももしかしたらあるかもしれませんが、これだと取り組みやすいというか、ハードルが下がる、そういう効果もあるのかなと感じました。

鹿野

今回、ご高齢の方もこのVRを体験されたんですもんね。

石井

そうですね。コントローラーの操作もそんなに難しいものではなくて、ボタン1つなので、とても取り組みやすいのかなと感じました。

石井

このVR避難シミュレーションは、いま県内の団体やグループ、企業に貸し出しを行っていて、7月の時点で15団体ののべ100人ほどが体験しています。

鹿野

今回、疑似体験から災害を考えるというテーマでお伝えしていますが、玉名市のVR避難シミュレーションについてお伝えしました。
改めて竹内さん、この取り組みはどうお感じになっていますか。

竹内教授

自分の地域が災害の時にどういう状況になるのか、具体的に知る機会になったなと思います。
住民が得られる防災情報は色々あり、詳しいものとしてハザードマップがありますが、今回は実際の街並みとハザードマップの情報を組み合わせたことによって、より臨場感を持った疑似体験につながったのではないかと思います。

竹内教授

「防災は知ることが始まり」とよく私は言っているんですが、知った後に次どういう行動につなげていくのかということが、また重要になってきます。
VRで具体的な状況をイメージし、陥りたくない状況や自分がとりたい行動というものを考えていく。それを具体的な備えにつなげていってもらいたいなと思います。

石井

このシミュレーションを入り口に、自分や周りの行動を変えるところまでできるかどうか、それが大事ってことですね。

竹内教授

VRで「すごいな」「怖いな」で終わるだけではなくて、もう1度、2次元ですが、ハザードマップの情報を理解して、そしてどういう情報をもとにどう自分が行動をとるのかっていうタイムラインの作成などにつなげていくことが重要になってくると思います。
ただいきなりハザードマップは難しい、タイムラインを作るのも難しい、ということもありますので、VRで具体的にどうなってしまうのかってことを疑似体験するっていうのはすごくいい始まり方だなと思います。

石井

玉名市では、マイタイムラインの作成までにいかに繋げるかというのを今後の課題としながらも、VRシミュレーションを体験した方が「公民館の防災倉庫の施設配置の検討を行った」ですとか、今回体験した学童クラブ経由で、子どもたちに防災講話を行ってほしいなどの要望があったということです。広がりが生まれているのかなと感じました。

鹿野

まずは自分が住んでいる地域の災害リスクを知る、そして避難に向けた課題に気付くということが大事だと思います。
ぜひリスナーの皆さんもマイタイムラインの作成など自分ごととして災害に備えて頂きたいですよね。
ここまで玉名市が全国に先駆けて取り組んでいるVR避難シミュレーションをご紹介しました。

  • 石井隆広

    熊本放送局 アナウンサー

    石井隆広

    宇城市出身
    熊本勤務は2度目

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