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「TSMC」熊本進出①台湾の半導体材料商社が語る

菊陽町の工事現場を視察した台湾の会長 熊本進出の狙いと課題とは?
  • 2023年03月10日

台湾の半導体メーカーTSMCが、日本で初めての工場建設を熊本県菊陽町で進めている。同じく熊本に進出する台湾の「半導体材料商社」が、進出の狙いや、熊本の課題を語った。

台湾から熊本に進出する「半導体材料商社」

台湾の世界的な半導体メーカー「TSMC」が、日本で初めての工場建設を熊本県菊陽町で進めている。

これを受けて半導体業界では、県内外の企業で工場進出や増設の動きが相次いでいる。

なかには台湾企業が熊本に進出してくる動きも出てきた。

今回、熊本に進出する台湾の「半導体材料商社」の会長が現地視察にあわせてNHK熊本放送局のインタビューに応じた。

熊本進出の狙いや展望、そして熊本に求める「3つのこと」について、台湾企業の経営者が語ったこととは。

(台湾の半導体材料商社「崇越グループ」の郭智輝会長)

2022年11月、台湾の半導体材料商社「崇越グループ」の郭智輝会長が熊本の視察に訪れた。

日本企業と長年取り引きがあり、日本語が堪能だ。

きのう初めてTSMCの現場に行ったが、日本らしい光景だった。

台湾では、街中に工業団地があって、周りが住宅。

日本はそうではなく、生活と仕事を分けている。非常にいいところだ

来年後半に倉庫 2年後に工場も

(崇越グループ、台北)

この半導体材料商社は台北に本部があり、従業員約1500人の上場企業だ。

日本企業と合弁で工場を作り生産活動も行っている。

半導体の製造工程で使う材料などを扱っていて、TSMCから「最優秀サプライヤー」として表彰されたこともある。

TSMCのサプライチェーンを担う企業の1つだ。

郭会長はTSMCの熊本進出を受けて、2023年後半に熊本県大津町に倉庫と事務所を整備する方針を明らかにした。

さらに2024、5年ごろには加工工場の整備も検討しているという。

興奮している。なぜかというと今までは日本の企業が台湾に進出してきた。
これからはTSMCによって台湾の企業が日本に進出していく

TSMCのサービスに行くのが我々の責任だ。TSMCが第1のお客さん、(隣りにある)ソニーグループも第2のお客さんだから、これが我々にとっての熊本の存在価値だ

まず最初に『倉庫』の機能をこちらにつくる。
その後は一歩先の『加工工場』をここでやる。
これが我々の熊本への投資の考えだ

地元企業と提携や合弁検討も

さらに郭会長は日本事業を強化するため、地元企業との提携や合弁も検討していると話した。

我々はものすごく中小企業に興味を持っている。(中小企業は)素晴らしい技術を持っている。残りはマーケット(市場)とファイナンス(資金調達)だ。
これは我々が自信を持っている。
だから一緒にこの半導体の世界で頑張りたい。
業務提携や合弁も考えている

日台関係がTSMCによって、サイエンスの分野でもっと結びつくと思う。日本は研究開発が強い。材料、機械、自動化。手を組めば世界化になると思う。それが私の夢

「半導体の将来は無限」

ただ半導体業界は、足元では新型コロナの巣ごもり需要の反動や、インフレによる消費の落ち込みで
市場の減速への懸念が出ている。

しかし郭会長は、長期的には半導体市場はますます拡大していくと強調した。

半導体市場はファウンドリー(受託生産)のビジネスで、2022年第3四半期から落ちた。要するに在庫を調整している

半導体の将来の需要で一番大きいマーケットはEV(電気自動車)だ。

自動運転のドライブの補助システムなど、ものすごく高級な半導体が必要になり、使う半導体が十数倍と一気に量が増える。

さらに(通信規格が)6Gになると、通信用の半導体の量も増える

半導体の世界は無限だ。
将来の需要を見るとバランス的には(供給が)絶対足りない。
更新のスピードが速いから

課題1「専門人材」

半導体市場の見通しは明るいという郭会長。

ただ熊本を訪れて感じた課題が「3つ」あるという。

1つ目は「専門人材」だ。

半導体業界では各社が設備投資を進める中、専門人材の不足がすでに課題となっている。

郭会長は人材が十分に確保できなければ、今後検討している工場は「熊本以外に」する可能性もあると述べた。

一番心配することは人。人がいない。100人以上採りたいと言っても、
なかなか採れない。その辺をものすごく心配している

工場は結構自動化しているから、
それほど人は使わないが、
それでもやはり人がいる。
だからエンジニアがとれないと非常に困る

人がもし採れないならば、これはやむをえない、我々の投資はちょっと方針が変わる。ほかの場所で仕事をして、ここに配達するとか

(熊本の行政が)協力しないと大変だ。せっかくこういうチャンスが出ているんだから。
もっといいエンジニアに移住してもらって働くとか。国際人材、外国のエリートが熊本に集中したほうがいい。半導体は、いい人が必要だ

課題2「国際的な教育環境」

そして2つ目の課題が「台湾から来る駐在員の子どもの国際的な教育環境」だ。

家族と一緒にきたら、教育の問題が大変ですよ。
国際小学校とか国際中学校とかが
必要。外国人は単身赴任が少ない

生活条件を国際化してもらいたい。そうすれば自然と国際的で優秀な人材がここに集まる

台湾の企業が、一番経験があるのは中国。上海に行った時は(現地の企業が)すぐに国際学校を作った

課題3「交通渋滞」

そして3つめの課題が「交通渋滞」だ。

せっかくTSMCがここまで来たんだからね。熊本市から工場までの大通りをつくらないといけない。

今の通りがちょっと狭い。だからかなり渋滞している。かなり行列になり大問題ですよ

きのうもその辺から熊本空港に行くつもりだったが、途中で諦めた

「スピード感、現場の決裁権、ハードワーク」

郭会長は長年、TSMCと取り引きをしてきた。

日本企業がTSMCと向き合うには、「スピード感ある対応」が必要だと指摘した。

日本は何か問題があった時、考え過ぎる。時間がかかる。TSMCはすぐに決まる。

なぜかというと、半導体は2年間で1世代変わる、そこまでの経験判断、クイック・レスポンス(素早い反応)を出さないと遅れる。これがTSMCの文化

また日本の会社の経営システムは、根回し、根回しで時間が遅れる。

1世代が10年の産業なら日本が勝つ。ただ、この2、3年間で1世代が変わる半導体の産業ではついていけない

(TSMCが)電話をかけてから、我々が2時間以内に必ず現場に行かないと、もうだめですよ

日本は幹部の決裁権が弱い。TSMCは決裁権が強い。責任範囲内なら全部部長クラスで決まる。別に稟議とかはいらない。また現場のことなら課長クラスで決まる。
これが多分、日本では難しい

一方で日本と共通することとしては、「残業文化」をあげた。

日本と同じことは、残業。みんな、はいはいと受ける

工場は24時間動く。なので装置の据え付けやメンテナンスは、待っている時間がない。5分間で現場。だからメンテナンスの人は、工場でスタンバイする

今後、TSMCと向き合う熊本の企業にとっては「スピード感」と「現場での決裁権」、そして「ハードワーク」がカギを握ると見ている。

TSMCの進出で、熊本には台湾からの注目が高まっている。

今後、海外企業が求める課題をどう解決し、熊本の成長にどうつなげていくのかが問われている。

解説

台湾企業の会長の指摘、熊本にとってはなかなか厳しいものだったが…?

確かに。ただ、これがTSMCを含め台湾から来る企業の本音ではないか。

また人材不足や交通渋滞は、海外だけでなく県内の企業にとってもすでに大きな課題となっている。
すでに県外企業の進出も相次いでいる。
今年度に入って11月末までに、熊本県の半導体関連の企業立地の件数は12件と、過去最高だった前年度と同じハイペースで進んでいる。
これによって人材や交通の問題は、ますます深刻になる可能性もある。

こうした課題に熊本県などはどう取り組んでいるのか。

県も課題は認識していて、2021年に部局横断の組織である「半導体産業集積強化推進本部」を立ち上げて、交通渋滞や人材不足などの改善に取り組んでいる。

「交通アクセス」では周辺の道路の車線を今後、増やす予定だ。
また、JR豊肥本線と熊本空港を結ぶ新たな「空港アクセス鉄道」についても、TSMCの進出を受けてルートを変更した。

「人材育成」では、熊本大学が半導体などを学ぶ新たな学部にあたる組織を、
2024年度に設置する計画を明らかにしている。

人もインフラも、まだまだ時間がかかりそうか。

TSMCの工場は、2024年12月には操業を始める予定なのでスピード感が重要になってくる。

県や関係機関は企業の懸念に応えるとともに、地元住民の利益にもつながるように取り組みを進めてほしい。

動画はこちら!

[2022年12月2日放送]

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  • 馬場健夫

    熊本局記者

    馬場健夫

    2007年入局。秋田、名古屋、国際部、広州支局をへて、2020年から熊本局。

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