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高知のカツオ漁船が気仙沼や勝浦に“マグロ”を水揚げ!?なぜ!?

7月22日(土)18:05~NHK総合「100カメ×カツオ漁船」を再放送します!
  • 2023年07月21日

初夏の太平洋。高知のカツオ一本釣り漁師たちが追いかけるのは・・・カツオではなくマグロ!?
今年は例年にない豊漁で、漁師たちは大忙しの毎日を送っているそうです。
カツオ漁船に乗り込んだ経験があるディレクターが、その舞台裏を取材しました。
(高知放送局ディレクター 石原智志)

高知県黒潮町の近海カツオ一本釣り漁船『第83佐賀明神丸』。
去年(2022年)年間漁獲高日本一に輝いた、日本を代表するカツオ一本釣り漁船です。

毎年2~11月ごろ、カツオの大きな群れを追って、小笠原諸島近辺から東北沖まで幅広い海域で漁を行っています。夏場を迎えたこの時期は主に関東沖や東北沖でカツオを釣り、勝浦漁港(千葉)や気仙沼漁港(宮城)に水揚げしています。

そんなカツオ漁船が、毎年“ある時期”だけ、カツオではなく別の魚を追いかけていると聞きました。
それが、回転寿司でもおなじみの「ビンチョウマグロ」。ことしは、気仙沼漁港で1日の水揚げ高が5億8000万円を突破し41年ぶりに記録を更新するなど、例年にない豊漁でした。『第83佐賀明神丸』の漁獲高も例年の1.5倍ほどに伸びているといいます。

気仙沼漁港に停泊する『第83佐賀明神丸』

でも・・・カツオ一本釣り漁船がマグロを釣るってどういうこと!?
漁に出ている『第83佐賀明神丸』の船頭に代わって、船主の会社『明神水産』の広報担当・富岡健太さんにお話を伺いました。

 

ディレクター

ことしはビンチョウマグロが豊漁だと聞きましたが…

富岡さん

漁師たちは、ビンチョウマグロのことを“トンボ”と呼んでいます。
(※泳ぐ姿が昆虫のトンボに似ているからなど、由来は諸説あり)
今回は、なじみのある“トンボ”という名前で説明させていただきますね!

富岡さん:ことしのトンボ漁は絶好調でした
例年トンボが釣れるのは5月上旬~7月上旬ごろに限られます。ことしも、時期は例年とほとんど変わりませんが、まとまった水揚げを行うことができました。

『第83佐賀明神丸』では、特に好調だった5月下旬に、1回の水揚げで70トン超・3000万円超の値がつくことが2度ありました。例年トンボの漁獲高は1億円いけばいいところですが、今年は1億5000万円を超えました。

ディレクター

トンボが好調だった理由は?

富岡さん:資源量が増えたのか、たまたま日本近海に回遊してきたのか、詳しいことはまだわかりません。ただこの時期(5月~7月前半あたり)は例年、カツオは陸から近い海域で、トンボは沖(陸から比較的遠い海域)でとれることが多いようです。しかし今年はトンボの群れが陸の近くにいて、レーダーに映りやすい浅い場所に“溜まって”いました。

トンボが釣れる場所にも変化がありました。例年は関東沖から三陸沖がメインですが、今年は和歌山沖や土佐湾でも釣れていたという情報が入っています。
私も6月にプライベートで土佐の海に出て、はじめてトンボを釣ることができました!

漁師の経験はないが、釣りが大好きだという富岡さん
ディレクター

カツオではなくトンボを釣る理由は?

富岡さん:トンボを釣るいちばんの理由は、“トンボはカツオに比べて値段が落ちにくいから”です。カツオは少しでも古くなると単価が悪くなり、他船も含めてたくさん水揚げされるとさらに単価が下がります。しかし、トンボは日数が経っても量がまとまっても単価がほとんど下がりません。身の強さがあり、缶詰原料などの加工筋の買い手があるためです。基本的に300円/kgを下回らず、不漁の年だと平均500円/kgを超えます。

ただ、多くの船がトンボを釣っている時期もカツオがいなくなったわけではなく、カツオを水揚げしている船もあります。皆がトンボを釣っている中でカツオを水揚げすると、カツオに高値がつく場合もあります。『第83佐賀明神丸』も日によってカツオを釣っていて、5月24日の水揚げでは、カツオのキロ単価が1200円を超えました。
カツオで一気に稼ぐか、手堅いトンボに行くかは、船の考えによると思います。他船との駆け引きが勝負を分けることもあります。

ディレクター

トンボとカツオの釣り方の違いは?

富岡さん:基本的には、カツオもトンボも、同じ仕掛けで漁を行っています。しかし、カツオとトンボでは1匹あたりの大きさが違います。通常カツオは、1匹3~5キロほど。大きくなっても7~8キロほどです。一方トンボは、1匹10キロを超えるものもざらにあります。そのためトンボが仕掛けにかかったけれどなかなか持ち上げられない・・・ということもよくあります。そんな時は隣の漁師と力を合わせて、2人がかりでトンボを船に引っ張り上げます。

2人がかりでトンボを釣る様子
ディレクター

ほかにもトンボ漁の特徴はありますか?

富岡さん: 1匹が重いので、カツオに比べて、船がすぐいっぱいになります。カツオを釣っている時期の水揚げは5~7日ごとに行うことが多いですが、トンボは2~3日のペースで水揚げを行っています。

さらにトンボが釣れる時期は日が長い時期とも重なるので、漁師は長時間労働を余儀なくされます。(通常カツオ漁船では、夜明けから日没まで漁を行う)
 水揚げが増えることは漁師にとってうれしいことですが、漁師たちは「トンボの時期は1年でいちばんしんどい時期」と口をそろえて言っています。

取材後記

「トンボの時期は絶対に体重が落ちるから、それまでに蓄えておくんだ」。
以前船に乗せてもらったとき、漁師の方が話していた言葉を思い出しました。

トンボの時期はまさしく“かき入れ時”。この時期の漁獲高で、1年の収入が大きく変わるそうです。
朝から晩まで10キロを超える巨体と向き合う漁師の皆さん。どうか安全に。きょうも頑張ってください!!!

  • 高知放送局 ディレクター

    石原 智志

    2017年入局
    東京・横浜を経て高知へ
    1週間の同行取材で体重が5キロ落ちました。

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