地域に愛されるチームを目指して
- 2024年04月15日
北九州市に本拠地を置くプロ野球独立リーグの北九州下関フェニックスは、地域に愛され存続していける球団を目指して、野球の試合のほかにも地域貢献活動に力を入れています。
取材 石井直樹 記者
おらが街の野球チームへ
日本独立リーグ野球機構(IPBL)には全国の5つのリーグが加盟していて、各リーグや球団は機構の「おらが街の野球チーム」というスローガンのもとで、試合やさまざまな活動を行っています。
北九州市に本拠地を置く北九州下関フェニックスで、今シーズンから選手兼任ヘッドコーチを務めている、中村道大郎選手です。(なかむら・みちたろう)
このオフシーズンから、市内の園児を対象に「ミニアスリートフェスタ」と題したスポーツ教室を始めました。
中村選手が、市内に本拠地を置くフットサルチームやソフトボールチームの選手にも声をかけ、参加した園児には野球だけでなくさまざまなスポーツを体験してもらいました。
小学校になると大体みんな自分の好きなスポーツチームに入団していくので、その前段階で野球だけではなくてサッカーやソフトボールといったたくさんの選択肢を提案したいなというのが幼稚園のカテゴリーの狙いです
中村選手は、プロスポーツチームの一員として行う地域貢献の大切さを、強く感じています。
スポーツを通して地域貢献しないと球団としても存在が成立していかないというか、そこに対しての危機感はすごくあります。応援を募るだけじゃなくて、僕たちも地域に活動していくっていうのは本当に大事だと思います。もっとおもしろい試合だったりイベントだったり活動として地域に貢献していきたいです
地元北九州を愛して
北九州市小倉南区出身の中村選手。戸畑高校、日本体育大学を経て、一度は野球を辞めていましたが、その後、ほかの独立リーグのチームに所属。3年前のトライアウトを受験し、フェニックスに合格しました。チームでは発足時からキャプテンを務めました。
ヘッドコーチにことしから就任し、より大きな責任が伴う立場になりましたが、強いやりがいを感じているといいます。根底には、地元北九州に対する愛があります。
僕自身はこの街に育ててもらったので、恩返ししたいという気持ちがいちばんです。同年代の先輩とか同級生が自分のお店をやったりとか自分で事業を始めたりとか、アグレッシブに街のために動いているので、僕はスポーツという部分で街をいい方に変えていきたいなという思いで動いています
3年前に同じトライアウトに合格し、現在は首脳陣としてともにチームを率いている、新監督で元西武の松本直晃監督(まつもと・なおあき)も、中村選手には全幅の信頼を置いています。
地元の人間が率いていく姿というのは地元で応援してくれる人にとってはすごく意味が大きいと思いますし、みっちー(中村選手)を抜てきした理由っていうのはそういうところにあるかもしれないですね
チーム一丸 観客を喜ばせるために
3月16日に行われた、今シーズンの開幕戦。北九州市民球場には、球団史上最多、1635人の観客が集まりました。
(中村選手)
多くのお客さんに入ってもらって楽しいですね。思いきりやります!
試合は初回から、両チームが点を取り合う展開となりました。中村選手は、ベンチの先頭に立ち、ヘッドコーチとしてチームを鼓舞し続けました。
チームのほかの選手たちがヒットを重ねる中、5番指名打者として先発出場した、中村選手は3打数0安打。選手としては、なかなか調子が上がりませんでした。
すると試合終盤。中村選手は、みずからに代わって、後輩の横山晴人選手(よこやま・はるひと)を松本監督に提案しました。球場を訪れてくれた人に勝利を届けるのに、最善の選択だと考えたからです。
1点リードの8回ツーアウト満塁。ここで追加点を取ることができれば、試合を優勢にして最終回を迎えることができます。
ここで、代打の横山選手がしぶとくレフト前にタイムリーヒット。相手を突き放しました。
中村選手のヘッドコーチとしての采配が成功しました。
プレイヤーとしてだと、どんなに調子が悪くても、いい場面になったら自分が絶対に打ってやろうという気持ちがあるんですけど、ヘッドコーチとしてチームにとって最善の選択をするという立場にいるので、自分の感情なんて1ミリも組み入れる必要はないので、迷わずいちばん状態がいい横山という選択になりました。ああやって期待に応えてくれると、僕自身もヘッドコーチとして勉強になる一打席だったなと思いますね
試合はフェニックスが8対6で勝利。観客を沸かせる乱打戦を制しました。
そして、中村選手は試合後、すぐに球場の外に移動しました。球場に来てくれた人たちを
見送るためです。
ファンの方々は貴重な休みをフェニックスに使ってくれるわけなので、野球のプレーだけでなく、どうやったらもっとお客さんが喜んでくれるか、また見たいと思ってくれるか、来てよかったと思ってもらえるかというところを本当に挑戦して、2倍3倍来ていただけるように、僕たちも地域貢献を含めいろいろやっていきたいと思います
地域に愛される「おらが街の野球チーム」に向けて、北九州下関フェニックスの挑戦は続きます。
取材後記
中村選手を初めて取材したのは、トライアウトの時でした。現在監督の、松本直晃さんとともに取り上げさせていただきました。当時所属していたチームを退団して、退路を断ってトライアウトに臨んだ中村選手。その時から常に口にしていたことばが「北九州を盛り上げたい」ということです。
初めて会ってから3年、街で見かけるポスターやユニフォームの数も増え、街に根ざした球団になってきていると思います。
独立リーグの球団は、NPBの球団に比べて決して知名度が高いわけではなく、メディアでの露出の機会が多いわけではありません。
それでも、地元メディアに勤める一員として、フェニックスの動きを今後も注目していきたいです。