骨盤臓器脱とは?

骨盤内にある臓器は、骨盤底と呼ばれる筋膜やじん帯などによって支えられています。これらが緩むことで腟[ちつ]から体の外に臓器が出てくるのが「骨盤臓器脱」です。中高年の女性に非常に多く、出産経験のある方なら、誰にでも起こる可能性があります。
更新日
骨盤内にある臓器は、骨盤底と呼ばれる筋膜やじん帯などによって支えられています。これらが緩むことで腟[ちつ]から体の外に臓器が出てくるのが「骨盤臓器脱」です。中高年の女性に非常に多く、出産経験のある方なら、誰にでも起こる可能性があります。
骨盤臓器脱には、子宮を支えるじん帯が緩むことでおこる子宮脱。子宮筋腫などで、子宮を切除した場合に腟壁が出てくる腟断端脱。腟の前側にある筋膜が緩むことで起こるぼうこう瘤[りゅう]。そして、腟の後ろ側にある筋膜が緩むことで起こる直腸瘤など、様々な種類があり、これらは、合併して起こることも多くあります。
骨盤臓器脱の初期には、入浴中などに股の間にピンポン球のようなものが触れるようになります。進行すると、夕方から夜にかけて、歩いているときに股の辺りに何かが下がっている違和感があります。
夕方以降に症状が出るのは、日中の様々な動作によって、腹圧がかかり、臓器を押し下げるためです。寝ている間は腹圧がかからないので、朝には症状が軽減しています。
通常、痛みはなく、命に関わるものではありませんが、放置しているとトイレが近くなったり、尿がでにくい排尿障害をおこして、腎臓に負担がかかったり、便が出にくくなるなど、日常生活に支障をきたすことがあります。
骨盤臓器脱の最大の要因は出産です。胎児が腟を通る際に、骨盤底の筋膜・じん帯が損傷することがあります。損傷した筋膜・じん帯は、加齢に伴ってゆるみが大きくなり、臓器を支えきれなくなります。出産経験がなかったり、帝王切開で分娩した女性は、骨盤臓器脱を起こすことはほとんどありません。また、腹圧も影響するため、肥満や便秘による排便時の息み、ぜんそくなどによる慢性的なせき、重いものを持つ仕事なども、骨盤臓器脱を起こす要因となります。
治療は、原則、手術になりますが、初期の方や持病があって手術を受けられない方には、生活の見直しや骨盤底筋体操、装具療法などが有効です。
まずは、腹圧によって症状を進行させないためにダイエットをしたり、便秘・せきを改善します。また、日常的にも重いものを持たないようにすることも大切です。
骨盤底筋体操は、料理や読書、寝る前などに行うなど、生活の中に取り入れると長く続けられます。初期であれば2~3か月で効果を実感できるようになります。また、尿失禁を合併している方にも有効です。
また、医療機関で腟内にペッサリーを挿入して、子宮の出口にはめ込み、固定して子宮が出てこないようにします。長期間、体の中に入れておくと、炎症が起こり、おりものが増えて出血することがあるので、2~3か月に1回は受診して交換してもらう必要があります。自己管理法といって、自分で着脱できるペッサリーもあります。
生活の見直しや骨盤底筋体操、ペッサリーによる治療を行っても症状が改善しない場合には、手術を検討します。
子宮摘出+腟壁形成術など、従来から行われてきた手術法は、腟を通して子宮を摘出し、ぼうこうと腟、または、直腸と腟を支える筋膜・じん帯を補強する手術です。一般的に20~30%の確率で再発すると言われています。
経腟メッシュ手術は、腟壁とぼうこうの間にメッシュを挿入して臓器を支えます。子宮を摘出しない利点がありますが、腟が固くなるので性交渉のある方や妊娠を希望される方にはお勧めできません。また、手術後の痛みや腟壁からメッシュが露出するなどの合併症があり、現在は、治療効果が高いと考えられるぼうこう瘤などが対象になっています。
腹くう鏡下仙骨腟固定術は、おなかに数か所の孔[あな]を開け、腹くう鏡や手術器具を入れて、子宮の上半分を切除します。残った子宮と膣壁の前後にメッシュを縫い付けて引き上げ、骨盤の一部である仙骨に固定します。
体への負担が少なく、傷が目立ちにくい上に、経腟メッシュ手術より効果が確実な手術で、今年の4月から健康保険で受けられるようになりました。しかし、最新の手術ということもあり、実施している医療機関はまだ限られています。