災害時のこころのケア

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災害時の精神的な症状は長引くことも

災害時の精神的な症状は長引くことも出典 東日本大震災および津波後早期における被災者の訴え
岩手県精神保健福祉センター資料(2011)

東日本大震災では、岩手県の被災者から、「睡眠障害」「不安・恐怖感」「身体不定愁訴」「いらいら感」「気分の落ち込み」などの症状や訴えが多くあがりました。これらの症状は3か月を超えても続き、「不安・恐怖感」「いらいら感」「気分の落ち込み」は増えていきました。

地震や洪水など命に関わるような出来事を体験した後には、体と心にいろいろな反応や症状が現れることがあります。これらは衝撃的な出来事へのごく自然な反応や症状であり、多くの場合は時間の経過とともに、次第に回復します。しかし、その出来事があまりにつらかったり、また、十分な支援を受けられない場合などには、反応が長引いたり、症状をこじらせてしまうことがあります。

こころの動きに合わせた支援や対処を

超急性期、急性期、中期、復興期

つらいことがあった際に生じる心の状況は、時間とともに変化します。その時期に合った精神面の対応が必要です。こころの動きに合わせた支援や対処を行い、重症化させたり、長引かせたりしないようにしましょう。災害時のこころのケアでは被災直後から数日間を「超急性期」、1週間から1か月までを「急性期」、3か月までを「中期」、3か月以降を「復興期」と、4つの時期に分けて考えます。

災害直後の超急性期は「安全・安心・睡眠」が大事

超急性期

超急性期」は安全・安心・睡眠の確保を優先します。災害直後は被害の大きさにぼう然としたり、現実を受け入れることができなかったりして、怒りや不安などが大きくなりますが、まずは物理的に安全な環境の確保が最優先です。物理的な安全が保障されてはじめて安心につながり、安全と安心が確保されて睡眠が可能になります。

2024年1月に起きた能登半島地震では、病気の人や高齢者、妊婦などを中心に、被災地の避難所である「1次避難所」から、被災地から少し離れた体育館などの大型施設に設けられた「1.5次避難所」や、宿泊施設などの「2次避難所」への避難が呼びかけられました。被災地には水や電気がなく、寒い中での生活を余儀なくされます。また感染症が広がりやすいなど、安全・安心の確保が難しい状況になります。そこで、安全で暖かい場所が確保され、食事や水が手に入りやすい施設への避難がすすめられたのです。

急性期は「お互いに支え合うこと」対応が難しければ専門家を

急性期

「急性期」はお互いに支えあうこと、そして対応が難しい場合には専門家の対処につなげることが重要です。この時期は、災害後の生活に適応し始めると同時に、生活再建に向けて積極的に頑張ろうとする時期になります。一方、避難所生活などのストレスが加わり、疲労が蓄積して行く時期にもなります。また、大切な人との死別や住宅などの倒壊がもたらす強い悲しみと喪失感、命の危険にさらされた恐怖感、なぜ自分がこのような目に遭うのかという怒りなどからさまざまな感情が起き、気分の落ち込み、不安、不眠、無気力、興奮状態などの反応が現れます。こうした感情や反応は『治す』というより、『支え合う』ことでやわらげることができると考えられています。

中期は心的外傷後ストレス障害・うつ病・アルコール依存症に注意を

中期は心的外傷後ストレス障害・うつ病・アルコール依存症に注意を

「中期」は、避難生活が続く人がいる一方、自宅に戻れる人など、生活に多様性が生まれます。また、比較的立ち直りがスムーズな人と、取り残され感を強く抱き、なかなか立ち直れない人に分かれていくのもこの時期です。また、これまではあわただしさなどで感じなかった体調不良避難生活の無理人間関係の悪化などの問題があらわれてきます。
「中期」の対応としては、全部一挙に解決しようとせずに、少しずつ取り組むことが大事です。1つの問題だけなら解決できますが、多くなると課題に圧迫され、絶望的になることがあります。そして、専門家の助言やサポートを受けることも重要になります。
2011年の東日本大震災では、複数のこころのケアチームが活動し、継続的な支援ができるように連携が取られました。災害時のメンタルヘルスに関する情報がリーフレットで提供され、心の健康相談電話などの相談窓口が開設されました。

2024年能登半島地震に関するこころの相談窓口としては下記があります。

「石川こころのケアセンター」
電話番号 0120-333-247(フリーダイヤル 平日9時~17時 年末年始を除く)

https://www.pref.ishikawa.lg.jp/fukusi/kokoro-home/kokoro/saigai.html
※NHKサイトから離れます

また、被災者に接する際はまず体調などについて声をかけ、共感する姿勢で相手の気持ちや感情をあるがままに受け止めましょう。無理に聞き出すことは避け、安易な励まし・助言はしないよう心がけます。

この時期には心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、アルコール依存症などの病気にも注意します。心的外傷後ストレス障害は、とても怖い思いをした記憶が整理されず、そのことが何度も思い出されて、当時に戻ったように感じ続ける病気です。物音やささいな刺激にも過敏になるなどの症状が出ます。心的外傷後ストレス障害・うつ病とも、専門家の治療・カウンセリングが必要なことがあります。また、不安や不眠、緊張をやわらげるために飲酒量が増え、アルコール依存症になってしまうケースも多くあります。その場合、まずは減酒を目指して飲酒指導を受けます。

高齢者では、災害時、一過性に認知機能が低下することがありますが、適切なケアで元の状態に戻ることもあるので、気になることがあったら専門家に相談しましょう。

さらに、この時期は、親しい人や大切な物を失ってしまう喪失体験や孤独感、絶望感から、自殺の危険性が高まると言われています。普段と違う行動をしていたら、見逃さずに声をかけることが大事です。困難を抱えている人ほど、自力で援助を求めることができません。周りの人や支援者などが声かけすることで孤立感が軽減され、自殺予防につながります。

復興期は経済的な苦境が問題に

復興期は経済的な苦境が問題に

復興期は避難生活が落ち着き、生活再建に向けて、地域社会が少しずつ平常に戻ろうとしていく時期になります。心的外傷後ストレス障害・うつ病・アルコール依存症などには、引き続き注意と適切な対応が必要です。

一方で、災害支援が徐々に終了する中で、経済的な苦境が問題になる時期です。家は壊れてしまったのに、ローンを払い続けなければならない、田んぼや畑などが壊れて耕作できない。店舗や工場が被災し仕事ができないなど、就労などの問題があらわれてきます。

また、生存された人のなかには、「どうして私だけが助かってしまったのだろう?」「あのとき、家から出ろと言えば家族は助かったかもしれない」など、生き残った罪悪感に苦しめられてしまうことがあります。実際、1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災に遭遇し生存された人の中には、現在もその罪悪感を抱えている人もいます。

復興期の対処・サポートとしては、安心して援助を求められる状況を継続することです。一方、被災者の方々は、自分なりの解消法を考えることが大事です。例えば歩いたり、運動したりすることでも不安を解消できます。思いを文章に書いてみたり、声に出して発散したりすることも試してみましょう。また、つらい人同士の交流をはかり、気持ちを共有することでも解消できるかもしれません。経済的な問題や法的な問題については、自治体などの相談窓口を活用するとよいでしょう。

災害時 子どものこころのケア

災害時 子どものこころのケア

子どもは、災害の影響を受けやすいと言われています。普段と違う環境に驚き、不安と恐怖を感じ、その後、影響が出てくる事もあります。「赤ちゃんがえりをする」「わがままを言う」「反抗的・乱暴になる」「地震ごっこや津波ごっこなど災害体験を遊びとして繰り返す」などの子ども特有の反応が見られます。

こうした場合は、「一緒にいる時間を増やす」「子どもが話すことは否定せずに聴いてあげる」「抱きしめるなどスキンシップの機会を増やす」などの対処を行うことで徐々に解消できると考えられています。つらい体験をした子どもは、遊びを使って体験や気持ちを表現し、つらさを少しずつ軽減させ乗り越えることができます。

支援者・救助者のこころのケア

支援者・救助者のこころのケア

災害発生時には、被災者や避難住民だけでなく、医療や行政に携わる人、教職員、ボランティアなどの支援者や救助者も大きな心理的影響を受けます。使命感のために自己犠牲的な行動をとりがちで疲労を訴えにくく、自身のこころのケアは後回しにされがちです。また、被災者から心ない言葉をかけられたり、怒りをぶつけられたりするなど、より大きな精神的ストレスを受けることがあります。

支援者・救助者は、心身が疲弊し、感情やエネルギー、気力などが枯渇してしまうバーンアウト(燃え尽き症候群)に注意します。支援者・救助者の所属組織は、適度に休息をとることをすすめることなどの対策を取ることが重要です。一方、被災者も、支援者・救助者に対して、ねぎらいの言葉をかけてください。そのひと言で救われることもあります。

能登半島地震や東日本大震災で活動した高橋さんからのメッセージ

災害の多い日本では、今までも多くの人が被災され、その後ゆっくりですが復興しています。今はとてもつらく、打ちひしがれているかもしれませんが、必ず心も回復していきます。私たちの心には、すばらしい回復力があり、その回復力を妨げないように自分自身、回りの人びとの支援が大事になります。孤独にしない、させない、あきらめない、そして、つらいのですが少しだけ顔をあげて、ニコッと口角をあげて笑ってみることも大切です。

この記事は以下の番組から作成しています

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