腰椎椎間板ヘルニア 切らずに治す!最新の酵素注射

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腰椎椎間板ヘルニア」とは、腰椎の骨と骨をつなぐ椎間板(ついかんばん)が背中側に飛び出し、神経を圧迫する病気です。
椎間板はクッションのような働きをしていますが、外から急に力が加わったりすると、椎間板が脊柱管など神経の通り道にはみ出して痛みなどの症状を引き起こします。

椎間板

特に、前かがみや中腰の姿勢を長時間続けたり、急に重たいものを持ち上げたりしたときに起こりやすく、くしゃみをしたときなどのちょっとしたことでも起こることがあります。また、テニスやゴルフなど、身体の片側に負荷のかかる、ひねりの多い動きなどで発症することも少なくありません。

椎間板ヘルニアとは?

椎間板を上から見ると、真ん中に「髄核」とよばれる水分をたくさんふくんだゼリー状のものがあります。その外側では「線維輪」という軟骨組織が髄核をおおっています。これらが腰椎にかかる力を分散させてショックを和らげています。

加齢やスポーツなどで、椎間板に繰り返し強い外力がかかると、線維輪は次第に弾力を失って亀裂が入り、髄核の一部が外に飛び出します。これをヘルニアと呼んでいます。それが神経を圧迫して症状を引き起こすのです。

髄核と線維輪
髄核の一部が外に飛び出している状態

症状としては、腰の鈍い痛みからはじまります。徐々に足やお尻にも痛みが出てきます。

椎間板ヘルニアを体験した男性のケース

愛知県に住む、氏原憲志さん、48歳。初めて腰に違和感を覚えたのは高校生のとき。
当時はバスケットボールに打ち込んでいたと言います。
ぎっくり腰のように急激に痛むのではなく、「じわっ」という痛みだったといいます。そしてマッサージをすると治ったので、病気だとは思わなかったと言います。その後、数年に1度は腰痛がありましたが、痛み止めや松葉づえなどを使ってしのげていました。ところが2023年の2月、腰痛を発症するとその翌日から腰だけでなく脚にも痛みが出てきたのです。特に脚を伸ばすと痛みがひどく、仕事にも支障が出るほどになってしまいました。

椎間板ヘルニアの症状

多くの場合、急激な腰痛から始まりますが、髄核の飛び出し方によって症状は変わってきます。
大きく分けて4つのパターンがあります。

①髄核が線維輪のなかにとどまっている
②髄核が線維輪から飛び出しているものの、後縦靭帯(とよばれる結合組織)のなかにはとどまっている
③髄核がさらに外側に飛び出して後縦靭帯も突破している
④飛び出した髄核がちぎれてほかの場所に移動している

ヘルニアの脱出パターン

髄核が飛び出す「ヘルニアの脱出パターン」によって、症状にも変化があらわれます。
初期は腰痛だけのことが多いですが、ヘルニアが進行するに従い、お尻から下肢へ痛みが拡がっていきます。痛みが強くなると腰の反りがなくなって、前へ曲がることができなくなります。さらに、神経が強く圧迫されるほど痛みやしびれが強くなり、筋力が低下したり、知覚障害が出てくることもあります。

また、腰のどの椎間板からヘルニアが出るかによっても症状が異なります。
最も多いのが、4番と5番の腰椎の間の椎間板からヘルニアが出る場合で、お尻~太ももの後ろ~ふくらはぎの外側~足の甲へと痛みが移っていきます。
次に多いのが5番と仙骨の間の椎間板にヘルニアがある場合で、座骨神経痛のような痛みが主体となります。

ヘルニアが後縦靭帯を飛び出して脊柱管内に侵入した場合(④)は、白血球が反応して、ヘルニアを食べてくれます。するとヘルニアが吸収されるため、痛みが改善する場合もあります。

今まで感じたことのないような腰痛、脚の痛みが現れたら、一度医療機関を受診するようにしたほうがよいでしょう。特に注意して欲しいのは、腰痛とともに、下肢のしびれや動かしにくさ、会陰部の違和感、尿がうまく我慢できないなどの症状がある場合です。早急に受診することをおすすめします。

腰椎椎間板ヘルニアの診断

腰椎椎間板ヘルニアかどうかの、判断する際の目安になるのが、「下肢伸展挙上テスト」です。あおむけに寝て、一方の脚は膝を伸ばしたまま床につけておき、反対側はひざを伸ばしたままで上げていく方法です。腰椎椎間板ヘルニアの場合、角度が30~70度で座骨神経痛のような痛みが出てくることが多いです。

下肢伸展挙上テスト

さらに、X線検査やMRIを行って、診断をすすめていきます。ヘルニアは軟骨なのでX線検査では映りません。MRI検査でヘルニアが飛び出しているのが確認できてはじめて診断されます。

腰椎椎間板ヘルニアの治療

治療の基本は保存療法です。重要なのは鎮痛剤などの「薬物療法」。基本的には痛みには「非ステロイド性消炎鎮痛薬」が使われ、しびれには「プレガバリン、ミロガバリン」、それでも痛みがおさまらない時は「デュロキセチン」が使われます。さらに強い痛みには「弱オピオイド」などの薬を使って痛みをとり、副作用対策の薬もあわせて使っていきます。

椎間板を保護するためにも、コルセットを付けることも大切です
コルセットは急性期2か月間くらいを目安に使用するとよいでしょう。
それでも痛みが強く、日常生活に支障が出ている方は、神経ブロックで痛みを抑える方法もあります。
また、痛みが強い急性期以外の時期には、運動療法を行うことも大切です。
医師に相談のうえ、正しい方法で行ってください。

新治療!椎間板内酵素注入療法

保存療法で痛みがおさまらない場合、これまでは手術しか選択肢がありませんでしたが、実は新しい治療法が登場しています。
それが「椎間板内酵素注入療法」です。「椎間板内酵素注入療法」とは、椎間板に注射をするだけでヘルニアが小さくなるという治療法です。2018年に世界に先駆けて日本で初めて承認され、保険で受けられるようになっています
これは、ヘルニアを分解する「コンドリアーゼ」という酵素をヘルニアの出ている椎間板の髄核に注入して、ヘルニアを分解して小さくする、という治療です。

コンドリアーゼという酵素をヘルニアの出ている椎間板の髄核に注入
椎間板内酵素注入療法

早ければ1、2週間で痛みが改善されます。一時的に副作用として、腰や脚に痛みが出ることがあったり、2~3日後に皮疹が出ることがありますが、対応した薬を使うことで対処できる場合がほとんどです。
この椎間板内酵素注入療法の効果が高いのは、ヘルニアが後縦靭帯に収まっている場合です。椎間板ヘルニアが2か所以上ある場合や、変形性脊椎症、腰椎すべり、脊柱管狭窄など、ヘルニア以外の原因を合併する場合には、あまり効果が期待できないので、安易な使用には注意が必要です。
また、この酵素注入療法の注射を打てるのは1回だけです。

腰椎椎間板ヘルニアの手術

保存療法で効果が見られなかったり、酵素注入療法ができない場合は、手術を行います。
背骨の一部を削って、突出したヘルニアを取り除く方法が一般的です。ヘルニアを取り除くと神経の周囲にゆとりが生まれ、痛みがなくなるため、腰を動かしやすくなります。

腰椎椎間板ヘルニア摘出術

また最近では、背骨を切開せずに、飛び出したヘルニアを内視鏡を用いて直接取るPED法と呼ばれる方法も出てきています。術後最低3か月間はリハビリが必要です。

PED法

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2024年2月 号に掲載されています。

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