市販薬の乱用 10代で急増
オーバードーズとは「薬の過剰摂取」のことです。略して「OD」とも呼ばれます。いま、若者たちの間で市販薬のオーバードーズが急増しています。
10代にどんな薬物が乱用されているかを調査したグラフです。2016年に市販薬が現れ一気に拡大しました。覚醒剤や大麻を上回り2022年には65%を占めています。
乱用されているのは一般的なせき止めやかぜ薬などです。これらには麻薬や覚醒剤と同じような成分がごく少量含まれています。そのため、何十錠も一度に服用すると一時的に気分が落ち着いたり高揚したりするのです。
しかし、同じ量ではやがて効果が出なくなり、のむ量が増加してしまいます。中断すると、かえって落ち込んだり体調が悪くなったりします。つまり市販薬といっても依存性があるのです。肝臓や腎臓の障害、呼吸や心臓の停止による死亡例も報告されています。
市販薬を乱用しているのは高校生などの女子が中心です。意外かもしれませんが、非行歴などはなく学校にも通い続け、表面上は「よい子」とされる人が多いようです。
オーバードーズの背景に何がある?
なぜ10代の子たちがオーバードーズに陥ってしまうのでしょう。そこには「つらい気持ちを和らげたい」「生きるための手段として」「ネットに居場所を求める」といった背景がうかがえます。
つらい気持ちを和らげたい
覚醒剤などの違法薬物は「快感がほしい」という動機でよく使われます。しかし、市販薬をオーバ―ドーズしている若者は、学校や家庭で感じている「つらい気持ちを和らげたい、まぎらわしたい」という気持ちが大きいようです。
学校で仲間外れにされている、家庭の雰囲気が良くないなどの悩みを、誰かに相談することができず、薬という物に頼ってしまうのです。つらさの原因が自分だけにあると思い込み、一人で何とかしようとしてオーバードーズにつながるようです。
生きるための手段として
オーバードーズは健康を損ないますが、その行為をしている間だけ、今すぐ死にたいほどのつらい気持ちから一時的に逃れられる面があります。そのため行う人にとっては「生きるための手段」とも言えるでしょう。
ネットに居場所を求める
「きょうは50錠いきます!」「たくさん手に入れたので一緒にODしてくれる人いませんか」こうした投稿が今SNSにあふれています。学校や家庭に馴染めない人にとって、ネットは同じ境遇や悩みを共有できる大切な居場所なのです。
オーバードーズしたという投稿に「私もした」「大丈夫?」といったコメントがつくと、承認欲求も満たされます。もっと自分を認めてほしくてオーバードーズがエスカレートすることもあるようです。
周囲はどうする?
オーバードーズについて、周囲はどう受け止め、どう対応したらいいのでしょう。
つらい気持ちに寄り添う
自分の子どもが薬を乱用していると知ったら、親はただ驚いて頭ごなしに叱りつけてしまうかもしれません。しかしそうした態度では、子どもは心を閉ざしてしまいます。乱用を打ち明けてくれたら「よく話してくれたね」とまずねぎらい、正直に話せる関係を保ちましょう。
その上で、オーバードーズをせざるをえない気持ちに思いを向けてください。今の状況がどれほど過酷なのか、それは学校のことなのか家庭のことなのか、大もとにあるつらさに寄り添うことが何より大事です。
解決には時間がかかると心得る
薬の乱用は簡単にやめられるものではありません。すぐには薬を手放せないという現実を認め、少しずつ減らしていくほうが、結果的に解決への近道となります。場合によっては年単位で時間がかかることも覚悟してください。
もちろん、薬で深刻な健康障害が起きてはなりません。よくない作用をどうしたら最小化できるか、頻度や量をどうしたら減らせるか、しっかり見極める必要があります。
専門機関に迷わず相談する
薬の乱用を本人や親だけで解決することも難しいと考えてください。医療機関または精神保健福祉センターや保健所などの行政機関に相談することを強くおすすめします。他の人には問題を隠したいかもしれませんが、そうすると本人も親も孤立して問題がこじれやすくなってしまいます。
本人がこうした専門機関に行きたがらなくても、親だけでもぜひ通ってください。精神保健福祉センターでは家族に対する支援も行っています。親が相談を続けているうちに本人の状況が好転することもしばしばあります。
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松本俊彦医師からのメッセージ
オーバードーズを、まさにいまおこなっているあなたに。
頑張って生き延びようとする努力は理解しています。しかし、可能なら量や頻度を減らすことを試みてください。また、勇気を振り絞って、大もとにある生きづらさについて、信頼できる人に相談してください。
友達のオーバードーズを知ったあなたに。
それを頭ごなしに非難するのではなく、SOSのサインだと受け取って声をかけてください。そして、スクールカウンセラーや保健室の先生など、助けてくれる大人のところに、一緒についていってあげてください。