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避難所開設までのステップ

  • 2023年12月6日

あなたの避難所 準備は誰が?

みなさんは自分がお住まいの地域の避難所についてどのくらい知っていますか?「場所は知っている」、「うちは高齢者がいるから警戒レベル3で避難する」などと答えられる人は日ごろから防災意識の高い人でしょう。では、実際に災害が起きた時「誰が避難所を設営するのか」については、どうでしょう。自治体の職員?学校の先生?町内会の役員?…筆者もこの取材をするまでちゃんと分かっていませんでした。大規模災害時の早い避難行動はとても重要ですが、避難所はそれよりも早く、あるいは同時に開設しなくてはなりません。いったいどのように定められているのでしょうか。

自治体の避難所マニュアルには

函館市が公表している避難所運営マニュアルを参照すると、基本方針の中にこのような記述があります。
「初動期における避難所運営は、混乱の中で迅速な対応が求められるため、市担当者が中心となり、出来る限り施設管理者と避難者の協力を得ながら行います」。
つまり避難者も避難所の設営や運営に関わることが記されているのです。

北海道防災士会道南ブロック代表で高校教員の伊藤友彦(いとう・ともひろ)さんは次のように指摘します。

伊藤友彦さん
どの自治体の避難所運営マニュアルにもほぼ同様の記載があるのですが、なかなか知られていないようです。

実際にどのような流れで避難所を開設するのか。伊藤さんが勤める上磯高校が呼びかけて北斗市と地域住民とともに行われた訓練を例に見ていきましょう。

実録 避難所開設

訓練は大きな地震で停電や家屋の倒壊が発生し、避難所である上磯高校に地域の人々が集まっているという想定で実施されました。校舎前に人だかりができているところへ北斗市の災害担当職員が到着。拡声器でこう呼びかけました。「学校関係者の方はいますか?このチェックリストに基づいて安全確認をお願いします」。施設管理者として伊藤さんがチェックリストを受けとりました。このチェックリストは自治体が準備するものです。

さらに呼びかけが続きます。「町内会の方はおられますか?玄関の入り口で受付準備を行います。お手伝いをお願いします」。今回は地元の町内会役員の人々に加え、北海道防災士会のメンバーがサポート役に入ることになりました。

いよいよ訓練スタートです。市の担当職員が施設管理者の伊藤さんに倉庫の場所を確認し、町内会役員に指示を出します。「ここに受付を設置しますので長机を3つ並べて、体調不良者用にもう1つ離れたところにおいてください。ブルーシートとスリッパも持ってきて、ここに置いてください。必要な書類は私が用意します」。
このように防災担当の市の職員が的確に指示を出すため、町内会の人々も何をすべきか迷うことなく動けていました。しかしやるべきことは多岐に渡ります。どれだけ多くの地域の人々(避難者)が協力できるかが、受付をいち早く開設するカギとなりそうです。

受付設営と並行して施設管理者(学校関係者)は安全確認を行います。今回は伊藤さんと上磯高校防災クラブが校舎を確認しながら「保育スペース」「授乳スペース」「運営本部」「相談窓口」など使用スペースを決めていきました。安全確認と使用スペースの決定は、自主防災組織の役員や避難住民により推薦された人などがリーダーとなり、避難者と協力して行うとされている場合が多いのですが、避難所が学校の場合は市町村の体育館や公民館などと異なり、授業などの学校運営と避難所運営を両立する必要があるため使用スペースの決定は学校関係者が予め想定しておく必要があると感じました。

停電の夜 暗闇の中での設営

しばらくすると、テントや段ボールベッドなどの支援物資が市の災害備蓄倉庫から運び込まれたというアナウンスがあり、受付の運営以外の参加者が一斉に搬入作業に取り掛かりました。玄関で物資を受け取り体育館に向かうと、なんと中は真っ暗。ここからは「夜、停電した想定で作業を行います」というのです。ヘルメットに取り付けたライトだけを頼りに、暗闇の中でテント、段ボールベッド、シートを設置していきます。

テントは袋に縫い付けてある説明書を見ながら二人一組か三人一組での作業です。段ボールベッドは大きな箱の中に小さな箱を4つ入れて1つのパーツを作り、それを6つ並べてベッドにしていきます。6つ並べた上に敷くカバー用の段ボールや、仕切りのパーテーションになる段ボールも使って完成させます。

伊藤友彦さん
段ボールベッドは比較的簡単な作業の組み合わせなので、未経験者でも十分戦力になることが分かりました。

テント10張り、段ボールベッド16台、そして床で過ごす人用のシート10世帯分を設置。他に食事スペース用の長机や椅子を並べて避難所の設営が完了しました。訓練開始からおよそ1時間20分でした。

シートは4メートル四方の中央に2メートル四方の青いマットを貼り付けて作ります。マットの上で過ごすことでソーシャルディスタンスが確保される仕組みです。

テントの中には折り畳みの簡易ベッド、毛布、枕などが装備されています。高齢者など支援の必要な人が優先的に入ることになります。

避難直後はシートを敷いて床で生活する人が多いことが想定されますが、避難生活が長期化する場合は段ボールベッドを増やしてそこで生活するようにした方が良いそうです。床のほこりを吸い込みにくくなり、底冷えが避けられ、人が歩いた時の床の振動が伝わりにくいため睡眠がとりやすいのです。また、足腰の弱い高齢者でも立ち上がりやすいというメリットもあります。

今回の訓練は46人が参加しました。避難所開設までに1時間を想定していましたが、実際には20分のオーバーでした。伊藤さんは実際の避難所の開設の際にはより多くの若い人の協力が必要だと指摘します。

伊藤友彦さん
実際の災害時には人手不足の懸念があります。町内会に加入する人の数が減っていることや、若い人が少ないことは非常に大きな課題です。避難所の中だけでなく、家から避難所まで連れてくるなど高齢者の支援には人手が必要ですし、避難所の設営にも人手が足りないということが課題です。

災害時の避難所で自分はどう行動するのか、あるいは今どんな準備ができるのか。筆者自身、想像したり考えたりするきっかけになりました。皆さんも地域や学校、家庭でぜひ一緒に考えてみてください。

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