ページの本文へ

NHK北海道WEB

  1. NHK北海道
  2. NHK北海道WEB
  3. 道南web
  4. せたな町 伝承記録はいま~北海道南西沖地震から30年~

せたな町 伝承記録はいま~北海道南西沖地震から30年~

  • 2023年9月6日

ことし7月で北海道南西沖地震の発生から30年が経ちました。地震のことを知らない世代が増え、当時の経験を語れる人々は減り続けています。地域における災害の体験談や記録はどのように伝承され、また今後の防災にどう生かすことができるのか。渡島半島の日本海に面したせたな町を取材しました。

せたな町の災害伝承

北海道南西沖地震では奥尻島だけでなく、渡島半島の日本海側も多くの家屋や漁船などに大きな被害がありました。せたな町は2005年に旧北檜山町、旧瀬棚町、旧大成町の3町が合併して誕生しましたが、旧3町はそれぞれ「災害記録誌」を作成していて、現在もせたな町の図書館や役場など公共施設で誰でも閲覧できるようになっています。

せたな町の死者・行方不明者21人のうち、最も多い10人が亡くなったのが旧大成町(現大成区)です。ここには町で唯一の「慰霊碑」があります。取材で訪れた日は敷地の周囲まできれいに草刈りされていました。

北海道南西沖地震以上の津波が来る

こうした災害伝承記録の存在は、町が行う小中学校の防災授業で紹介されています。しかし年に一回の授業の中で、いま子どもたちに重点的に伝えているのは「将来想定されている災害」についての情報です。2017年、北海道は「日本海沿岸における津波浸水想定」を公表しました。その中では、今後北海道南西沖地震より大きな地震、津波が発生し、せたな町にも大きな被害をもたらす可能性があるとされています。

新しい浸水想定によると、せたな町では20mを越える高さまで津波が駆け上がると予想されています。南西沖地震では最大でも10m以下と考えられているため、30年前の経験を基準にしていると被害を防ぎきれません。

せたな町は地域ごとの詳細なハザードマップなどを掲載した「防災ハンドブック」を作成し、子どもだけでなく全町民に対し、想定される津波の高さ、避難場所、避難経路の周知に努めています。現在は内容の改訂とともに、スマホですぐに閲覧できるようデジタル化にも取り組んでいます。防災ハンドブックの充実と周知は町にとって喫緊の課題なのです。

自分の力で生き残るために

30年前の体験や記録は、町の新たな災害対策の中に生かされています。
せたな町大成区(旧大成町)の太田地区です。山が海の近くまで迫り、北海道南西沖地震ではがけ崩れが起きたり津波が川をさかのぼったりして大きな被害が出ました。

当時の避難所に通じる道は1つだけ。道幅が狭く急な上り坂が続きます。避難所だった旧太田小学校までおよそ500m。当時避難した人たちからは「老人や小さな子供には遠すぎる」と指摘されていました。

去年、せたな町はこの道の途中に新たな一時避難所を設置しました。2017年に発表された地震津波の浸水想定でも安全な高さにあり、歩く距離は200mほど短くなりました。

現在、せたな町大成支所長を務める中川譲さんは、旧大成町役場に就職して3年目の時に南西沖地震を経験しました。当時、沿岸の捜索活動にも従事し、5年後には広報部長として慰霊碑の建立や追悼式の開催に携わりました。その後もせたな町の中で最も被害が大きかった大成区の防災について考え続けてきた中川さんは、「30年前と一番違うのは、地域に若者がいなくなったこと」と指摘し、少子高齢化と過疎化が進む自分たちのような地域では今後大切なことがあると言います。

せたな町大成支所長 中川譲さん

若い人たちの力を借りて避難活動をするということが難しくなって来ているんです。基本的には“地震イコール津波”が発生すると考えて、とにかく高台に自分で、自分の力で逃げてくださいということです。

高齢者が自力でたどり着き、自力で生き延びるためには何が必要かという議論を経て、この一時避難所には冬の避難にも備えて毛布やストーブも用意されました。

せたな町大成支所長 中川譲さん

北海道防災士会道南ブロックの伊藤代表は、多くの人の体験談などこうした災害伝承は次の災害に向けた「備え」につながるだけではなく、災害に直面した時の人々の避難行動を促す力にもなると言います。

北海道防災士会道南ブロック 伊藤友彦さん

防災は誰かが代表して取り組むものではなく、住民一人一人が災害を正しく知って、正しく恐れることが必要です。その時に、災害を知る人から知らない人に伝える「災害伝承」が大切になってきます。人が実際に避難行動を起こすためには、情報だけでなく「危機感」も重要なのです。経験していないことに危機感を持つのは難しいことですが、身近な人からの経験談は災害を自分事として捉え、行動を促すのにとても有効です。

今年、北海道防災士会道南ブロックはせたな町をはじめ道南各地に足を運び、地震、津波、大雨などの災害の体験談や伝承記録(慰霊碑、石碑、古文書など)を収集する活動を始めています。自治体だけでは負担が大きかったり手が回らなかったりしてきた部分をサポートする意味でも新しい取り組みです。
防災士会の地域組織(ブロック)があるのは北海道では道南が唯一です。自治体や地域住民との間に入りながら、各地でどのように有効な災害への「備え」と「心構え」を構築していくことができるのか注目されます。

NHK函館放送局 トップページ

ページトップに戻る