「安保3文書」から1年 現場で何が
- 2023年12月28日
2022年12月に閣議決定され、戦後の安全保障政策の大きな転換とされた「安全保障関連3文書」。
それから1年、加速する「防衛力強化」の動きは、
九州沖縄の各地で景色を一変させている。
自衛隊やアメリカ軍の訓練が頻繁に行われるようになった鹿児島県の徳之島もその1つ。
11月、この島で行われた自衛隊の訓練を取材すると、
そこで活動していたのは、福岡を拠点にする部隊だった。
“訓練の島”となった徳之島
11月、NHKの取材班は、南西諸島の奄美群島の1つ、鹿児島県徳之島に向かった。
人口およそ2万人。
闘牛が盛んで、一次産業が主体の、のどかな島だ。
その島で、このところ、自衛隊やアメリカ軍の訓練が頻繁に行われるようになっている。
11月に行われたのは、陸海空自衛隊による最大規模の実動演習、通称「JX」。
徳之島は主要な訓練場所の1つとなり、島内各地のあわせて50か所以上に、戦車や機動戦闘車、電子戦装備に至るまで、多種多様な装備や部隊が展開する計画となっていた。
島の海岸に福岡の施設科部隊
とりわけ異彩を放っていたのが、島の海岸線に500メートルにわたって築かれた障害物だ。
作業にあたっていたのは、福岡県飯塚市を拠点とする陸上自衛隊の第2施設群を主体とする部隊。
高い土木技術を有し、味方の戦闘部隊を支援するため、ざんごうを掘ったり、地雷を敷設・除去したりすることを主な任務とする「施設科」の部隊だ。
※施設科部隊について、詳しくは下記の記事を参照
これまでその技術を災害派遣や国際貢献活動に生かしてきた施設科だが、いま、南西諸島での作戦を想定し、実践的な訓練を重ねている。
今回の訓練には、福岡県小郡市に駐屯する別の施設科部隊、「第303水際障害中隊」も参加。
水陸両用車を使って島しょ部などの浅瀬に地雷(機雷)を設置する任務にあたる部隊で、陸上の第2施設群と連携して、敵部隊の上陸に備えた幾重にもなる障害を構築していた。
島出身 10代の新人隊員と家族
訓練には、徳之島出身の隊員も参加していた。
2023年4月に入隊したばかりの中村将英2等陸士(19)。
子どもの頃に見た自衛隊の災害派遣の映像に感動し、自衛隊を志したという。
訓練によって実現した久々の“里帰り”。
部隊側のはからいで、島で暮らす家族も、訓練の見学に訪れていた。
父親
「高校生の頃は闘牛ばかりしていたけれど、いまは自衛隊で鍛えてもらって、けっこう体も大きくなった印象を受けます」
南西諸島で実践的な訓練を重ねる施設科部隊の一員として訓練に臨む息子の姿を、初めて目の当たりにした両親。
これまでどこか遠い話に感じていた防衛力強化の話題が、最近、他人事とは思えないと、胸の内を語ってくれた。
父親
「もし実際に有事が起きたとなると、自衛隊員として息子も出て行かないといけないので、それを考えると、自分たちも不安になります」
母親
「いつどこで何がおきるかわからない状況なので、こういう離島でも、もしかしたら、本当に何かが起こるかもしれないという危機感をおぼえます。何もないのが一番なので、ひたすら訓練だけで終わってほしいです」
九州沖縄は変化の最前線に
「安保3文書」の閣議決定から1年。
「防衛力の抜本的強化」に伴う変化を実感しているのは、いまはまだ、実際に暮らしの風景の変化に直面している地域の住民や、自衛隊員の家族など、一部に限られているのが実情ではないだろうか。
しかしそれは、訓練の増加や内容の変化といった形で、九州沖縄の各地で、すでに表出しはじめている。
そして、新たな部隊配備や、既存の基地・部隊の能力強化、国民保護をめぐる議論など、私たちの暮らしに大きく関わる動きが本格化していくのは、むしろこれからだ。
防衛力強化の最前線となる九州沖縄で、いま何が起き、
これから何が起きていくのか。
それらを注視していく責任は、ほかならぬ私たち1人1人に課せられている。
いざ変化が自分の身に周りで起こったとき、
「知らなかった」ではすまないのだから。