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“自衛隊の素顔”が問うもの

  • 2023年06月09日

ドラマやバラエティ番組で目にすることも増え、すっかり国民に身近な存在となった自衛隊。

でも、私たちは、自衛隊のことを本当はどれだけ知っているだろうか?

今回NHKは、九州の陸上自衛隊の部隊に長期密着。
隊員1人1人の素顔と本音に迫った。

彼らが語ったのは、任務の変化、家族、そして、死。

知られざる“自衛隊の素顔”が、私たちに問いかけるものとは。
(「ザ・ライフ 自衛隊の素顔」取材班)

平和貢献から戦闘へ 施設科部隊 
 

いま、自衛隊は大きな変化のさなかにある。
私たちは、その変化を象徴する部隊におよそ3か月にわたって密着した。

その1つ。
福岡県の飯塚駐屯地を拠点にする陸上自衛隊第2施設群。

重機を使った陣地構築作業

「施設科」は、重機や大型車両を扱い、高い土木技術を有する部隊で、他国の軍隊では「工兵」と呼ばれる。

普通科(=歩兵)や機甲科(=戦車)といった味方の戦闘部隊を支援するため、ざんごうを掘ったり、地雷を敷設・除去したりすることを主な任務としている。

これまではその高い土木技術を生かし、土砂の撤去や道路啓開など、災害派遣で中心的な役割を果たしてきた。
また、海外での国連PKOにも主力としてたびたび派遣され、日本ならではの「平和貢献」に尽力してきた。
施設科部隊は、「戦わない軍隊」とも形容された自衛隊の平和的な活動の側面を、ある意味で体現してきた部隊とも言える。

しかし今、第2施設群は「戦う施設科」を合言葉に掲げ、戦闘を想定した訓練を繰り返している。

群長の上野富一郎さんは、その意味をこう語る。

第2施設群長 上野富一郎さん

「施設科の精神は、『没我支援』と呼ばれます。我のことは無視して、支援し続けるという意味です。これは、災害派遣では被災された方々のニーズにとことん思いをはせながら活動することにつながりますし、有事では、普通科やほかの職種の部隊が通る道を開けるために、身を呈すという姿勢につながります。
周辺国の動向や戦い方が変化する中、われわれ施設科の任務も従来のままでよいのか。この時代に求められている施設科のあり方は何なのか。そういったことを検討する中で、『戦う施設科』ということばにつながっています」

施設科の変貌が最も顕著に表れたのが、3月、大分県の日出生台演習場で行われた「ある取り組み」だった。
交渉のすえ現場にカメラを入れると、演習場に巨大な岩が持ち込まれていた。

南西諸島の島々に分布する「琉球石灰岩」だ。

演習場に運び込まれた琉球石灰岩

自衛隊が南西諸島で戦うためには、敵の攻撃から味方部隊や装備品を防護するため、陣地やざんごうを掘らなければならない。
しかし、南西諸島の地盤を構成する琉球石灰岩はコンクリートよりも硬いと言われ、迅速な掘削が困難だという。
これまで本州での訓練で培ってきた「土」を掘るノウハウが、通用しないのだ。

この日の作業の目的は、砲弾を用いた岩の爆破だった。
砲弾の置き方を変えたり、覆いをかぶせて威力を上げたりして、どのような方法が最も効率的なのか、検証を重ねていた。

砲弾を使った爆破

琉球石灰岩への対応は以前から課題となっていたものの、これまでは地元の住民感情への配慮もあり、具体化してこなかったという。

この日の検証作業は、南西地域を管轄する施設科部隊のトップが自ら視察に訪れていた。

第5施設団長 陸将補 満井英昭さん

「陸上自衛隊の作戦は地上で行われるので、いかに『地形を戦力化』していくのかが重要です。琉球石灰岩はコンクリートよりも硬いと言われているので、それをいかに戦力化するのか、検証していかなければなりません。
われわれ自身が備え、しっかりと対応できる力を持つことが、ひいては抑止につながり、住民の安全と安心を守ることにもつながると考えています。こうしたことについて、しっかりと説明していきたい」

南西防衛の“中核”部隊


南西諸島で戦う備えを加速させる自衛隊。
その中核に位置づけられる部隊も取材した。

徳之島の海岸に上陸した水陸機動団の隊員

5年前に発足した、水陸機動団。
アメリカ海兵隊をモデルに、およそ20年かけて錬成されてきた精鋭部隊で、陸自で唯一の「水陸両用作戦」を専門とする部隊だ。

水陸機動団は、前身の「西部方面普通科連隊」の頃から、アメリカ・カリフォルニア州にわたって海兵隊との共同訓練を重ねてきた。
「アイアン・フィスト」と呼ばれるこの訓練は、日本側が海兵隊から水陸両用作戦のノウハウを学ぶ重要な場と位置づけられてきた。

しかし、ことし初めて日本で開催されたこの訓練を取材すると、日本側の「変化」が際立っていた。

日米の「図上戦闘予行」で指示する自衛隊員

目立ったのは、日本側がアメリカ側に指示する姿だ。

今回の訓練では、計画の立案から実際の着上陸作戦に至るまで、終始、日本側が行動を主導する形で進められたという。

水陸機動団 第1水陸機動連隊長 西田喜一さん

「今回、日本の実際的な作戦環境の中で、有事の際のカウンターパートである沖縄の第31海兵遠征部隊とともに実戦的な訓練ができたことは、日米がまさに肩を並べてやっていくスタートに立ったと言えると思います。
我が国防衛については日本がまず主たる役割を果たし、その足りないところを米国が補完する。そういった枠組みの中で各種行動を考えていくことが、政府レベルにおいてだけでなく、現場レベルにおいても、日米の抑止力、対処力を強化していくことに資すると考えています」

かつてアメリカ軍に教えを乞うていた自衛隊が、いまや名実ともに肩を並べ、南西諸島で「ともに戦う」備えを進めていた。

自衛隊員は、いま何を思うのか

今回わたしたちは、現場の隊員1人1人の肉声をできるだけ多く記録した。
変化のさなかにある自衛隊員がいま何を思っているのか。
それを知ることが重要だと考えたからだ。

日本側がリードする形で進められた「アイアン・フィスト」に参加した水陸機動団の隊員たちは、自分たちが担う任務の重みをかみしめていた。

3等陸曹 田島優大さん
「第一線部隊として、一番に出ていくのは自分たちだと思うので、そこはやりがいを感じながら、高いレベルでやっていきたいと思っています」
3等陸曹 井手要さん
「いざ何か起きたとき、自分たちにしか対応できない島しょ部の任務もあるので、まず自分たちが動くという意識で訓練に臨んでいます」
3等陸曹 徳留大樹さん
「正直、大変な部分もたくさんありますが、与えられた任務は完遂しなければなりませんし、そこはきつくてもやりきらないといけないと思っています」

一方、「戦う施設科」を掲げた第2施設群。
現場の隊員たちと膝をつきあわせて、およそ2時間にわたって率直な思いを尋ねた。

1等陸曹 小野山啓太さん
「日本を守るために、相手に武器を使うとなったときに、本当にできるのか。向こうにも家族がいれば、私もそう、皆さんそうでしょうし。自衛官という職業である以上、そのときにはやらなければいけないというのは重々承知していますが、それでも、心の中では、そういった迷いはありますし、多分、皆さん思っていると思うんですよね」

3等陸尉 小隊長 米倉一隆さん
「自分たちの組織は死と隣り合わせという側面があると思いますし、ましてや自分はいま小隊長という立場なので、いざというとき、部下隊員を死に投ずるというか、たとえ命が危ういとしても任務を全うしなければならないという局面があると思います。いま自分にそれができるかと言われれば、正直、まだ心の準備が甘いのかなと思うところはあります」

陸曹長 夫 大内田英樹さん
「子どもには、有事の際には2人ともいなくなるから、自分でどうにかしないといけないと伝えています。子どもはいま中3になりましたが、テレビでウクライナ侵攻や台湾有事といった話題になると、本当に嫌がりますね。親が行くんじゃないかというのがあるみたいで、すぐにテレビを消したりっていうのは、ありますね」
2等陸曹 妻 大内田千賀子さん
「災害でも有事でも一緒なんでしょうが、私たちは、国民、地域の住民の方々から、自分たちを守ってくれる、そういう存在を求められていると思います。そして、私たちは、そういうふうにいなきゃいけない」

問われているのは、わたしたち

かつてない変化の中、「死」をも意識する自衛隊員たち。

実はおよそ20年前、いまと同じように多くの隊員たちが死を意識した局面があった。
戦後初めて自衛隊が事実上の“戦場”に派遣された「イラク派遣」だ。

自衛隊の活動地域は、特別措置法に基づき「非戦闘地域」とされたが、実際には派遣中、宿営地付近に10回以上にわたって迫撃砲が撃ち込まれるなど、危険と隣り合わせの活動だったことが知られている。

当時、陸上自衛隊トップの陸上幕僚長として派遣を指揮し、その後、初代統合幕僚長を務めた先崎一さんに話を聞いた。

元統合幕僚長 先崎一さん

日本をとりまく安全保障環境が変化する中で、当時とは違った意味で死と向き合うようになった自衛隊員の姿をどう考えるか。
先崎さんが語ったのは「いまこそ、国民の責任が重みを増している」との指摘だった。

「私たちが若いころは、国民にどうやって自衛隊のことを認めてもらうのか、いわば“存在の戦い”をしていた。いまは、時代が大きく変わって、現場の自衛隊員は、本当に有事に戦える、そういう部分に真剣に取り組み始めているんだと思います。
そのとき大切なのは、力を使うというのは、個人の判断でやるのではなく、政治決断に基づいてやるということです。国民の代表が政治決断をするわけですから、そういう意味では、国民が決断するようなもの。それがやっぱり、常に原点にあると思います」

わたしたちは自衛隊に何を託すのか

取材中、複数の隊員が、あることばを口にした。

「事に臨んでは危険を顧みず、国民の負託にこたえる」

すべての隊員が入隊時に署名する「服務の宣誓」の中にある一節だ。
自衛隊を取材していれば、しばしば耳にする。

しかし、先崎さんの話を聞き、今回の取材が佳境に入るにつれ、このことばが、これまでとは違う重みを帯びて聞こえてきた。

「国民の負託にこたえる」。

国際情勢が変化し、日本の安全保障政策が歴史的な転換を迎える今、自衛隊員1人1人にとって、そのことばの重みが、確実に増していた。


翻って、私たち国民はどうか?

自分たちの責任の重みに、どれだけ向き合えているだろうか?
 

取材の終盤、1人の隊員が口にしたことばを、私たちは忘れまいと誓った。

「戦争が始まったら、お互いの国民が亡くなっていって、それはもう『負け始めている』んじゃないかなって思うんです。なので、勝つっていうことを考えたら、戦争にならないようにすることが、『勝ち続ける』ってことなんじゃないかなと思っています」

  • 西牟田慧

    福岡放送局記者

    西牟田慧

    2011年入局。
    沖縄局、社会部を経て、22年8月から福岡局。
     自衛隊や安全保障を継続的に取材している。   

  • 水嶋大悟

    福岡放送局ディレクター

    水嶋大悟

    2008年入局。
    松山局などを経て現在は福岡放送局。
     戦争の記憶や安全保障関連の番組を制作。

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