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観光に逆風?新幹線延伸 福井はどう生かす あわら温泉 敦賀市の取り組み

2023年12月15日放送 福井ザクザク!掘らナイト「北陸新幹線開業まで3か月 チャンスをつかむために」
  • 2024年01月16日

2024年3月、北陸新幹線が金沢―敦賀間で延伸され、ついに福井県に新幹線が開業します。歓迎ムードが高まる一方で「逆に客足が遠のくのではないか」という不安の声も県内の観光地からは聞こえてきます。いったいなぜ?新幹線開業を機に地域の課題と向き合い始めたまちを取材しました。

“関西の奥座敷”が抱く危機感

大阪、名古屋からの人気を集め、“関西の奥座敷”とも呼ばれる「あわら温泉」。新幹線開業を控え、新たな駅舎が完成しました。しかし、福井にとって「100年に1度」とも言われているこのチャンスが、裏目にでるのではないかと懸念する声も地元からは聞こえます。創業140年の老舗旅館の常務・八木司さんも不安を抱える一人です。

 八木司さん

あわら温泉の老舗旅館常務 八木司さん
今いるお客さんって実際、関東よりも関西や東海の人が多いので、そういった関西や東海のお客様に不便になることで客足が遠くなってしまうんじゃないかっていう危機感はものすごく抱いております。

“新幹線開業で不便になる”とは一体どういうことなのか。現在、関西や東海地方からあわら温泉に来る際は、特急の「サンダーバード」や「しらさぎ」で乗り換えなしでアクセスできます。ところが、新幹線開業後は所要時間が短くなるメリットはあるものの、敦賀駅で特急から新幹線への乗り換えが必要になります。そのうえ、料金も1000円程度上がってしまうのです。

この状況に直面し、八木さんの旅館ではサービスの方針を変えました。これまで多くの団体客を迎えてきましたが、時代の変化、そして新型コロナの流行で団体客が減少したこともあり、思い切って部屋の数を74室から20室に減らしました。広くて豪華な高単価の部屋を中心に、高級路線に舵を切ったのです。

八木さん

我々がやるべきことって何だろうと突き詰めてもう一度見つめ直していった時に、無理やりお客様を入れることなのか?というところは非常に疑問に感じたところではあります。

改革は食事にも。地元の高級食材をふんだんに使った料理をビュッフェで提供することで、個人客のニーズに応えようと工夫しています。

課題は知名度の低さ その理由

さらにもうひとつ、心配があります。同じく新たに新幹線が停まる隣の「加賀温泉」の存在です。首都圏から訪れる人にとって、芦原(あわら)温泉駅の手前に位置する加賀温泉駅。この駅のそばには3つの温泉地があって、観光客の多くが恐竜博物館、永平寺、東尋坊を目的地としています。あわら温泉のお客さんと旅のプランが重なり、お客さんを取り合うことになってしまう可能性があるんです。

加賀温泉郷3つの温泉地を合わせた観光客は、あわら温泉のおよそ2倍。観光客の数に差がつくのには理由があります。加賀温泉では「総湯(そうゆ)」と呼ばれる共同浴場を中心に、観光客に街歩きを楽しんでもらう文化を育ててきました。

一方あわら温泉は74もの豊富な源泉をそれぞれの宿が管理し、異なる泉質を宿ごとに楽しめることを強みにしてきました。しかしこの強みが、あわら温泉が抱える課題を置き去りにしてきた面があるといいます。これまで、それぞれの旅館が異なる源泉を柱に個々の旅館内のサービス向上に力を注いできましたが、その分あわら温泉全体としてのPRがおろそかになって、温泉地全体としての知名度が高まってこなかったというのです。

ピンチを新たな魅力発信の契機に

そこで、新幹線開業後の生き残りをかけ八木さんたち旅館の経営陣は、一緒になって地域全体の戦略を立てるチームを立ち上げました。北陸新幹線で観光しようという人にあわら温泉を選んでもらえるよう、主要な観光地とのより強力な連携を模索しています。

旅館
代表取締役専務

やっぱりお客様の目線で見た時に交通手段と観光地と宿泊施設とをしっかりとリンクさせて売っていくこと非常に大事なのかなと。

さらに旅館だけでなく、交通事業者、青年会議所、農家、IT企業などを集めた組織も立ち上がって、あわら温泉のPRのための活動も始まりました。

八木さん

新幹線が来るっていうことで(みんなの)ベクトルがひとつになるんですよね。やっぱり「今まさにひとつになる時じゃない?」っていうのがスローガンというか。

こうしたあわら温泉の動きについて、新幹線とまちづくりの関係を研究する青森大学の櫛引素夫教授は「新幹線開通をきっかけに新たな取り組みが生まれることが大切だ」と述べています。

青森大学 櫛引素夫教授

青森大学 櫛引素夫教授
常にバージョンアップを続けていく、その起点として新幹線開業は大切なんです。気がついた人が少しずつでも手直しを始める。少しでも成果を出しながら共感してくれる仲間を増やす。新しいネットワークをつなげなおす。その営みこそが大事なんであって。開業の特需に合わせてどれだけたくさんの人を呼ぶかというのは間違ってはいないけど、そこだけ取り上げるというのはある意味の錯誤です。

「新幹線の開業はピンチにもなる」ーそう認識したことで、あわら温泉はより魅力的な観光地として生まれ変わろうとしています。

魅力ある参道を取り戻せ

気比神宮

観光地としてのまちの整備に課題を抱える地域もあります。年間70万人の観光客が訪れる気比神宮(けひじんぐう)がある敦賀です。北陸新幹線の発着駅になる敦賀駅、特急列車や在来線との乗り換えをするハブ駅となって、認知度も上がり観光客が大幅に増えると期待されています。

しかし気比神宮の目の前にある神楽一丁目商店街では近年、高齢化や採算割れで閉める店が多く、“シャッター通り化”が進んでいます。現在営業しているのは6割弱の40店舗ほど。通りは閑散としています。

神楽一丁目商店街振興組合理事長 中山喜美子さん

商店街組合の理事長を務める老舗洋品店の中山喜美子さんは、この現状をなんとかしたいと、2年前から、空き店舗を一軒一軒回って貸し出さないかと交渉を始めました。

商店街では、店舗と居住スペースが一体となっていて営業をやめてからも住居として住み続けるケースが多いため、新しい店が入りにくいという現状があるといいます。中山さんは、こうした家主たちに、現在は使われていない店舗部分を改修して貸し出し可能な物件にしないかと持ち掛けているのです。補助金等も活用し、家主側の負担が少ないプランを提案しています。

去年の夏からは、地元の不動産会社協力のもと、貸し出し可能な店舗を、出店を検討する人たちに紹介するマッチングツアーも始めました。空き店舗の状況について詳しく内覧しながら、不動産会社が間に入って、出店希望者のプランを家主とすり合わせていきます。

出店を
検討中の女性

全国で敦賀を知ってもらいたいっていうところもあるし、せっかく来て(敦賀駅に)降りていただいた方にがっかりしてもらいたくない。

 

さらに、数年後を見据えた取り組みにも乗り出しました。店主たちが行政を巻き込んで商店街の景観を良くしていこうと動き始めたのです。提案したのは商店街の道路の改装。「参道」のイメージを高めたいという狙いです。

中山さん

気比神宮があって神楽(一丁目商店街)があって参道一体ですよっていう雰囲気づくりが大事だなと。

敦賀市からは道路を生まれ変わらせるために超えるべき課題を提示されました。

市の担当者

地元の思いがひとつになってないと、いざ工事にかかると齟齬(そご)が生まれたり思いが違ったりということが出るとダメなので、そこが一番汗かくところかなって感じます。

示された課題を受けて、商店街の希望をもとに、これから話し合いを重ねていくことが決まりました。中山さんたち商店主は行政の協力も得て、まちづくりへの決意を新たにしました。

中山さん

私たちで一生懸命どんどん進めますし、でも一方で私たち民間だけではできないことって絶対存在するので、しっかり私たちの思いを伝えて一緒に形にしていく。そんなまちづくりをやっていきたいなと思います。


青森大学の櫛引教授は、新幹線開業の重要な役割について「観光や産業といった経済だけでなく、地域の人々が自分たちの暮らしを改めて考えるきっかけになることだ」といいます。

新幹線開業を機に、これまで見過ごしてきた地域の課題に気づき、取り組む。これこそが福井にとって真のチャンスなのかもしれません。

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