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地方鉄道を廃線から救え! 福井発・新対策の現場に密着

  • 2023年06月15日

「大雨で土砂崩れが発生し、運転再開の見通しは立っていません…」

毎年のように日本各地の鉄道で起きている災害による被害。経営に余裕のない地方鉄道の中には、そのまま廃線に追い込まれるケースもあります。

そんな地方の鉄道を救える可能性があるかも…!
新たな取り組み、特別に密着取材しました。

注目の取り組み!現場に密着してみると…

現場作業の撮影に成功しました。
この写真です。どうぞ、ご覧ください。

大事なことなので繰り返しますが、絶対にマネしないでください

「ちょっとちょっと!何やってんの!堂々と置き石してるじゃん!」

…って思った方、ご安心ください。これはれっきとした「作業」の一環です。石を置いているのも鉄道会社の安全対策の担当者。列車の運行の合間に、安全面に影響がないことを細心の注意で確認したうえで行っている作業です。
(なので皆様は決してマネしないでください!置き石などの行為は往来危険罪として問われ2年以上の懲役となる可能性があります)

この一見危なっかしい(?)安全対策を行っているのは、福井県を走る「えちぜん鉄道」です。福井駅を拠点に「東尋坊」のある県北部方面に向かう「三国芦原線」と、「永平寺」や「恐竜博物館」で知られる勝山市に向かう「勝山永平寺線」の2つの路線からなる地方鉄道です。

特に山間部をぬうように走る「勝山永平寺線」では、大雨が降ると落石や倒木の危険があります。冬場はなだれが起き、雪や倒木が線路をふさぐこともあります。2年前には大規模な土砂崩れが起き、1か月あまりにわたって運行がストップしたこともありました。

雪深い地域なので こんなことも…

災害の発生を早期に把握することは安全管理上の重要な課題ですが、経営の厳しい地方鉄道では、かさむ費用が大きな負担になっています。そこで注目されているのが、今回の新しい安全対策なんです。

運転指令室に潜入!

さて、安全対策の本筋に戻りましょう。

福井市にある「えちぜん鉄道」の運転指令室です。ふだんは関係者以外立ち入り禁止の現場、特別に取材で入ることができました。居並ぶモニターにはこの春から試験的に始まった安全対策のひとこまが垣間見えるとのことで、のぞいてみると…

真ん中下のほう、黄色い枠で囲われています

線路に落ちている落石や倒木を検知して、画面にアラートを出していち早く危険を知らせていました。検知はすべてAIが行い、24時間休みなく監視してくれています。先ほどの“置き石”まがいの行動も、AIに危険を学習させるための作業だったんです。

石だけじゃなく太い枝なども学習させます

えちぜん鉄道では勝山永平寺線のうち志比堺駅付近と小舟渡駅~保田駅間、特に何度も落石などが起きているこの2区間に計7台のカメラを設置しました。カメラの設置から2か月間、実際に落ちてきた石や倒木を線路内に置いて(繰り返しますが、読者の皆さまはマネしないで!)システムにAI学習をさせています。これまでにAI学習したデータは約1000パターンにもなりました。

えちぜん鉄道 北川晃士郎さん
「これまでは人の目で線路の異常を確認していたのですが、カーブが多い山間区間では運転士の目視では限界がありますし、技術員が長い区間を見て回るのも時間がかかっていたので…」

線路や電気設備などを担当しています

「AIはまだまだ学習中ですが、精度が上がって人が見落とすような小さな異変も瞬時に見抜けるようになることを期待しています」

このシステムを開発した神奈川県にある鉄道関係のIT企業に取材をすると、24時間絶えず監視・撮影した画像は10分ごとに運転指令に送信され判定が行われるとのこと。360度撮影できる高性能のカメラで広い範囲をカバーできるため、設置するカメラの台数を減らしてコストを抑えながら、電車の安全運行につなげることが期待されているということでした。

人の目の代わり 簡単ではないですが…

ただ、このシステム、まだまだ改善が必要なんです。
というのも設置当初、別のモノを誤って危険だと認識する誤検知は1日に1000件ほども確認されていました。5月に入るとAIの学習も進み日に数十件にまで減少しましたが、それでもすぐに実用化できる…というところには至っていません。

これくらいの大きさなら判別はつきますが…

鉄道の場合、もともと敷かれているバラストとの区別も難しいところ。システム会社ではサイズの違いをAIに徹底的に教え込んで、判定の制度をあげようと取り組んでいます。

それもこれも、この新しいシステムに対する期待感の大きさの現れと言えるでしょう。

ただでさえ厳しい経営状況が続く地方鉄道。災害による被害が拡大してしまうと、極めて厳しい事態に追い込まれかねません。災害が激甚化していると言われる昨今、早めにその影響に気がつくことができれば、そのリスクを最小限に抑えることもできます。

富山大学 中川大 特別研究教授
「人が線路を見回るのが全く不可能なくらい長い路線が続いている。今回のシステム、例えばカーブでの視認性などを考えると、運転士が目視するよりも安全性を高める方向に行くのは確実です」

「全国の地方鉄道では災害が起きるたびに深刻な経営危機となっているところも目立つ。今回のような新しいシステムなどを使って安全性・利便性を高め、鉄道をバージョンアップさせていく試みが広がってほしい」

えちぜん鉄道が導入したこのシステム、開発会社の元にはすでに各地の鉄道会社から問い合わせが相次いでいるということです。

将来的には災害にとどまらず、人や動物の侵入対策にも応用を目指しているとのこと。福井発のシステムが日本全国の地方鉄道を救うカギになるか、今後も注目してみていく必要がありそうです。

(福井放送局 記者 林秀雄)
 

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