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自動運転"レベル4"解禁 何がすごい?課題は?

永平寺町で全国初の実用化
  • 2023年06月12日

曹洞宗の大本山・永平寺へと続く、廃線の跡地。ここで全国初の試みが始まりました。
自動運転「レベル4」ー ドライバーを必要としない“完全な自動運転”の運行です。

7年間の結実

永平寺町 ー 禅宗の一つ、曹洞宗の大本山・永平寺があり、新型コロナの拡大前には年間50万人以上の参拝客が訪れていた福井県有数の観光地です。伝統と厳かな雰囲気が漂うこの町に、実は別の顔があることはあまり知られていません。

それは、自動運転の先進地域であることです。

5月、永平寺の門前にほど近い場所からドライバーのいない自動運転車が出発しました。特定の条件のもとで車のシステムが完全な自動運転を行う「レベル4」の車両で、公道を走行するのは全国で初めてです。

「レベル4」の自動運転車

ゴルフカートをベースにした電動自動車が、緑深い永平寺に続く遊歩道を走行します。定員は7人。時速12キロとジョギング並みのスピードで、カエルの鳴き声が響く初夏のあぜ道の近くをゆっくりと移動していきました。
一見、地味にも見えるスタートですが、関係者の感慨はひとしおでした。

ようやく、長年の努力が結実した。

町が自動運転の実用化に動き出してから、足かけ7年。
国も絡んだ一大プロジェクトは、“完全な自動運転”の入り口に差しかかったのです。

なぜ、永平寺町で?

永平寺町が自動運転の導入を決めたのは2016年のこと。20年以上前に廃線となった旧京福電鉄・永平寺線の約6キロの区間に整備された遊歩道(町道)を、国が公募する自動運転の実証地として活用しようと考たのです。

旧永平寺線に整備された遊歩道「参ろーど」

えちぜん鉄道の永平寺口駅と永平寺の門前を結ぶこの区間に自動運転車を走らせ、駅と観光地を結ぶ2次交通を作れないか。既存のタクシーやバスではなく、自動運転車をあえて選んだのには理由がありました。

少子高齢化が進んでいく町で、どのように交通手段を確保するかと考えたとき、公共交通は人手不足という壁にぶち当たる。こうした将来を想定しながら、新しい技術をどう生かすか考えることが大切だと思った。

2次交通の確保とドライバー不足の解消。公共交通の維持に頭を抱える町にとって、自動運転は一挙両得の可能性を秘めた技術でした。

国の実証事業に採択されると、町は遊歩道を実験場所として整備。国の研究機関・産業技術総合研究所(産総研)を中心に、2018年から自動運転の試験走行が始まります。

レベル4は何が違う?

自動運転の5段階レベル

自動運転は、その機能や技術の水準に応じて5段階のレベルに分けられています。
レベル1は、自動ブレーキなどの「運転支援」。
レベル2は、車線を維持しながら前の車を自動で追走するなど「高度な運転支援」にあたります。
いずれもドライバーが運転を行い、システムはあくまで補助の役割です。

レベル3では、“高速道路限定”など特定の条件で車のシステムが運転操作を行います。
ドライバーは視線をそらしたりハンドルから手を離したりすることが可能ですが、システムが危険と判断した際には人が運転を代わる必要があります。

一方、今回実用化されたレベル4は、人が運転を代わる必要がない「完全な自動運転」とされます。
ルートや速度など走行条件は限定されますが、ドライバーはいりません。

自動運転「レベル3」の実証実験

永平寺町では、2021年3月からレベル3にあたる実証実験を開始。
ドライバーは乗車せず車のシステムによる自動運転を実現しましたが、緊急時には遠隔で人が運転を代わる必要があるため、運行管理者が走行状況を常にモニターしなければなりませんでした。

レベル3と4の最大の違いは、運転操作を車側に“完全に”委ねられるかどうかです。たとえ緊急時でも車のシステムがそれを回避し、走行を再開するか停止するかといった判断もしなければなりません。

開発にあたる産総研は、運行システムやセンサー、通信機器などの改良をメーカーのエンジニアとともに取り組みます。
車両の周辺を映すカメラの台数を増やし、人間や動物が車両の下に潜り込んだようなときもシステムが把握できるように。また、車の位置情報などを把握するための通信機能が途絶えないよう携帯電話3社の回線を束ねて使用し、通信トラブルなどで1社の回線が使えなくなっても走行を続けられるようにしました。

こうした改良を重ね、産総研はレベル4の認可取得に向けた申請を行いました。
これまで、レベル4の公道走行は国内で例がありません。運転を完全に車に委ねて大丈夫なのか、万が一の際の安全管理体制は取られているのか。国土交通省による書類審査や自動車の認証試験を行う第三者機関による試験などを経て、3月末に全国で初めてレベル4の車両として認可を受けました。

4月の道路交通法の改正でレベル4の公道走行が解禁されると、永平寺町などが出資する第3セクター「ZENコネクト」が事業許可を取得し、悲願のレベル4の運行にこぎつけたのです。

全国展開への第一歩?

ただ、永平寺町のレベル4には細かい運行条件が定められています。
運行は、一般の車両が走らない歩行者や自転車の専用道路の一部、約2キロの区間に限定すること。
速度は、最大で時速12キロです。

運行を管理する「遠隔監視室」

運行区間のすぐそばに車の走行状況をモニターできる「遠隔監視室」が設けられ、運行管理者が1人で3台の運行を管理します。

レベル4では、運転操作を車のシステムに委ねるため常に監視を行う必要はありませんが、障害物と衝突したり通信機能が使えなくなったりするなど、システム側で運行できない際には現場に駆けつけられるよう、もう1人の係員が待機することになっています。

条件付きの“完全な自動運転”ですが、開発した産総研は、常に運行管理者が車の走行を監視しなければいけない状態から解放されるメリットは大きいと指摘します。

また、車の開発にあたって障害物を検知するセンサーなどは、一般の乗用車にも使われているものを多く採用しました。今後、永平寺町以外での地域でレベル4の自動運転が展開しやすくなるように、品質が保証されている普及品を使って車両の耐久性を上げ、さらにコストを抑えるためだということです。

産業技術総合研究所 加藤晋 首席研究員
レベル3の場合は何かあったらドライバーに代わる必要があり、運行側には負担や緊張感があったが、レベル4ではそれがなくなり導入する側の安心感が違うと思う。格段に技術レベルも上がり、車両の品質の保証や耐久性も高まった。これからいろいろな場所に展開していくことが可能なレベルにようやくなった。

政府は、2025年度をメドに全国50か所程度で自動運転の実用化を行う方針です。
永平寺町はその先行的な事例として、公共交通の維持が難しくなったり、観光地への2次交通の導入を検討したりする地域の試金石となることが期待されています。

クリアすべき課題は?

一方で、全国的な展開には課題も。

永平寺町のレベル4は、一般の車が走らない遊歩道での走行を前提としたシステムとなっています。車道を走ったり、歩行者や自転車がもっと多い場所で運行したりするには、その環境に合わせたシステムの改良が必要になります。

また、地域として自動運転をどう受け入れていくのかという「社会受容性」も大きなテーマです。完全な自動運転といえど当然事故のリスクはあり、ドライバーがいない場合、運行管理者やシステムの開発者が事故の責任を問われる可能性が出てきます。

永平寺町では、実用化に向けて動き出した7年前から地域説明会を重ね、地元の高齢者から小中学生まで自動運転のメリットやリスクに対する備えなどを周知してきました。当初は、安全性を不安視する声も出たということですが、レベル2や3の実証実験から住民向けの試乗会も開き、実際に自動運転を体験してもらうことで、徐々に否定的な意見は出なくなったということです。

たとえ限られたエリアの導入でも、住民への丁寧な説明と理解は欠かせず、地域が受け入れるようになるまでには時間もかかります。

 

自動運転の技術レベルは“完全な自動運転”の入り口に差しかかり、従来の公共交通網の維持やドライバー不足に悩む地方にとって、魅力的な選択肢の一つになってきたと感じます。

一方で、その特徴やリスクの把握が不十分なまま導入を進めては、重大な事故や住民トラブルの引き金となってしまうおそれがあることも事実です。

加速的に進歩する技術を、地域としてどう受け入れていくのか。
行政は住民とともに、真剣に考えなければいけない時期にきているのかもしれません。

  • 宮本雄太郎

    福井放送局 記者 

    宮本雄太郎

    2010年入局 札幌局、東京・経済部を経て21年秋から福井局記者 地方経済やエネルギー問題をテーマに「現場」の取材にこだわる

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